第63話 文化祭③

 ミスコンとミスターコンの結果発表の時間がやってきた。秋が近づいてきた空は早くも薄暗くなってきている。まさに黄昏時。


 ミスターコンの優勝候補は永久だ。それぞれの優勝者が付き合うというジンクスがあるため、ミスコンに数合わせとその場の勢いで出ることになった僕と奏が優勝しないことを願うばかりだ。


 メインステージにミスターコンの出場者と一緒にミスコンの出場者が並ぶ。学校中の美男美女、もとい美女だけが並んでいる。


『さぁ! まずはミスターコンの優勝者の発表です!』


 司会の合図でドラムロールが鳴って、永久にライトが当たる。下馬評通りの結果ではあるが、会場から黄色い声援が飛んでくる。この結果がエントリー時点で見えるあたり、去年は必死に逃げ回っていたのだろう。


「なんか、永久って女子人気すごかったんだね。明日のバンドバトルも票を稼いでくれないかなぁ」


「見た目で票を稼ぐって永久が一番嫌ってそうだけどね」


「そうなの? 勝てば官軍だよ」


 奏の言い分も分かるが、永久はそういう評価のされ方を嫌っているので覆面を被ってバンド活動をしているのだ。やっぱり、そういう個人的な悩みはメンバー間で共有はしない人達なのだろう。


『さて! 続いてはミスコンの優勝者です!』


 ドラムロールが鳴る。一応、形だけ目を瞑って祈る仕草をしておく。僕以外の誰かにスポットライトが当たる前提で考えていたら、パッとまぶた越しの視界が真っ白になった。目を閉じているのに眩しさを感じる。


 つまり、僕にスポットライトが当たっている。


『エントリー番号八番の奏子さん! 九番の和泉さんが同時優勝です!』


 隣を見ると、奏もポカンとした顔で立ち尽くしていた。奏にもスポットライトが当たっている。


「え? え? どういう事?」


 僕も同じことを聞きたい。戸惑いながらあたりを見ていると、ステージのすぐ下のところに日山さん、熊谷さんを先頭にクラスの皆が集まっていた。皆、やってやったぞと言いたげな表情で僕と奏を見ている。


 何が起こったのかを察した。組織票だ。クラスメイトだけでは足りないはずなので、かなり大掛かりな組織票が入ったのだろう。


「もしかして、変態を撃退したお礼に張り切ってくれちゃったのかな……」


「ありえるね。偶然なんだろうけど、二人同時って……」


 なんとなく状況が飲み込めてきたところで、司会の人が優勝者を前の方に呼び出す。永久と奏と僕。三人で優勝賞品のバラの花束を持ち上げる。今ほどステージに上がって恥ずかしいと思った事はない。せめて楽器でもあれば恥ずかしさは紛れたのだろうと思いながら優勝者としての賛辞を受けた。




 ミスコン終了後も、文化祭二日目に向けての準備や今日の片づけで生徒があちこちを走り回っている。僕たちもクラスの片づけに合流すべきなのだが、それより優先すべき事項があるためサクシの五人で集まった。


「永久、奏、奏吾君。優勝おめでとうございます!」


 千弦はそれが何を意味するのか全く分かっていないようで、呑気に手を叩いて喜んでいる。


 明らかに僕達は優勝できるような出来ではなかった。もっと綺麗な出場者はいっぱいいた。それでも、組織票と批判されようと勝ちは勝ちだ。よって、ジンクスは僕達に降り掛かってくるはず。


「いや、嬉しいんだけどさぁ。なんでお前らが二人で優勝しちゃうかねえ」


 永久が頭を抱えている。永久からすればジンクスがどれだけ強力であろうと、自分の意志で断ち切ればそれで丸く収まると思っていたはずだ。だが、僕と奏も優勝してしまった。


 組み合わせは三パターン。僕と永久、奏と永久、僕と奏だ。最後のパターンが成立してしまう危惧をしているのだろう。


「でも私たちが優勝したのは組織票が強かったからだよ。永久が変態をクラスに誘導したせいで、無駄にクラスの団結が強まっちゃったんだからね」


 永久は心当たりがあるようで、髪をかき上げながらそっぽを向く。


「まぁ、こうなっちゃったものは仕方ないんだし、これからどうするかを考えましょうよ」


 彩音がもっともな事を言う。


「そうだな。現状、この三人はお互いにそういう目では見ていない。変にジンクスを意識すると逆に気になっちまうから、やっぱこのことは忘れるのが一番だろうな」


 永久は僕の奏に対する想いを知ったうえで、それを無いものとして扱っている。それで良いと思うのだけど、やっぱりどこかにある寂しい気持ちは拭いきれない。


「そうだね。一応、安易に二人っきりにならない方がいいかもね」


「ま、そのくらいだろうな。じゃあ、次は明日のバンド演奏の話するぞ」


 本題は明日のバンドバトルだ。皆、ジンクスを軽く見ている気はしたが、気にするとどんどん深みにハマっていくという永久の言葉が真理な気がしたので、もう考えない方がいいのだろう。


 永久が明日の集合時間や場所について指示を出している。


 それでも、気にしないと決めても気になるものは気になってしまう。ジンクスのせいなのか、男子の制服補正なのか、ミスターコンの優勝者という肩書のせいなのか、永久の事がいつもより格好良く見えてしまっていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る