第126話「山田太郎」
自称山田太郎が居たのは公園だった、昼下がりの午後3時、まだ人での多い時間の筈なのに、何故か一般人は1人として見かけない。
山田の他に公園何には何人もの人が居る、大半はSDTFか公安の職員だと思われるが、それ以外の人間も混じっているようだ、米軍関係者かはたまたソ連の諜報員なのかそこまでは分からない。
「目標を『鑑定』します」
安達がスキルを発動する、同時に私もジョブチェンジして初めて強化版の『鑑定』を使って見た。
山田太郎の名前が、ジョン・スミスに変わる、米国籍を持っているようだが、ジョブは分からないし、所属も見えなかった。
「本名はランドル・ジョンソン、所属は・・・」
安達の『鑑定』結果が私とは違って、がっかりしていた所に銃声のような物が響き渡る。
「伏せて」
涼子が銃声の発生と共に聖剣を召喚して後ろを振り向く、私はかなり遅れて振り返って状況の把握に務める。
「誰?」
江下が発砲したと思われる男に向かって声を掛けるが、その男は銃の類を持ち合わせては居なかった。
「FBIの捜査官です、重大犯罪に関わってい居た男を追っています。私は日本国政府から正式に許可を得て、この場に居ます」
英語でまくしたてるように話しているのだが、何故かその言葉の意味が過不足無く分かる、私は英語なんて話せない筈なのだが。
「隊長」
安達が目の前の男への『鑑定』を求めて居たが、私は誰の指示を必要ともしない立場だから、安達の言葉に反応して男を『鑑定』してみた。
「ジョン・スミス?」
明らかに偽名だ、山田太郎を『鑑定』した結果と大差無い、何らかしらのスキルを使った影響だろうとは思うが、私のスキルでは全く相手にならない。
「安達特補お願い」
「米国海軍情報部所属の冒険者です、名前はバードン・アラタニ、日系3世でレベル63のレンジャーです」
アメリカの高レベル冒険者のようだ、限界レベルに近い63となるとアメリカでもトップクラスの冒険者の筈だ、どれだけの地位に居るのかは分からないが。
レンジャーと言うジョブがどのような物なのかは分からないから、目の前の男自身がステータスを偽装しているのか、それとも他の仲間が偽装して居るのかも分からない。
「バードンさん、あたなが山田太郎事ランドル・ジョンソンを射殺したのですか」「私はFBIのヤマト・ジロウです、銃殺なんて出来る筈が有りません、調べて貰えば分かりますが日本に銃は持ち込んで居ませんので」
今度は流暢な日本語を話してきた、しかもヤマト・ジロウなんて偽名を名乗っている、それにどんな意味が有るのかは分からないが、問題は誰かが確実に山田太郎の息の根を止めたと言う事だ、それも私達の見ている目の前で。
「涼子誰が撃ってきたかた分かるか」
「ごめんん、あいつをどうやって殺そうかと、それだけしか考えて無かったら分からないわ」
「安達さんは」
「銃声に反応出来ない程でしたから、全く」
江下や小田切の顔を見るが分からないと顔を振られた。
「検証の為ランドルの死体を渡して貰えますか」
「これは殺人事件です、被害者には詐欺の容疑も掛かっていますので、当然我々が遺体を引き取ります」
「SDTFにも捜査権は有りませんよね、警察を呼ぶのですか」
SDTFには捜査権限が無いのかも知れないが、目の前の男は不正な身分で入国している不法滞在者だ、この男にこそ捜査権は無いが、それを持ち出すと国同士の話し合いになる。
こういう場合、アメリカのポチ日本が意地を張り通せるとも思えないので、1手打つ事にした。
『パチン』
思わせぶりに指を鳴らすと案の定私に注目が集まる、同時に死体の回りが激しい炎に包まれた。
「Oh my God」
炎が収まると黒焦げになった骨だけが残っていた。
「火葬するなんて正気か、彼の魂が迷う事になるぞ」
「我々は何もしていませんが、それはFBIのヤマトさんもご覧に成っていたと思います。被疑者は何か危険物を持ち歩いていて、何かのキッカケで発火したのでしょう」
「そこの少年の合図で燃えたように見えたが」
「僕は指パッチンしただけですよ」
正体が知れてないようなので、見た目通りの高校生を演じる事にした。
銃声に気づいた住民が通報したのだろうか、サイレンの音が近づいてくると、公園の中や回りに居た人々が散っていき、後悔する事に成るぞと言う捨て台詞を残してバードン・アラタニも逃げて行った。
「緒方さん燃やすのはやりすぎです」
「死体の回りに有った落ち葉が燃えただけですよ、あそこに有る骨はコアを抜いたスケルトンの抜け殻です。死体は『収納』して置きました」
「偽装ですか、彼らを騙せたでしょうか」
「さあ、彼らの持つスキル次第じゃ無いですかね」
スケルトンの骨をしまうと、警察官としばらくしてから消防隊員が駆けつけた、事情説明は江下に任せて私達は一足先に千葉の官舎へと飛んだ。
官舎に戻ると人が大勢居て、私と森下は再び隔離される嵌めに陥った、理由も聞かされないまま、3日間病院で検査漬けにされてしまった。
「藤倉課長が出張ってくるような事態なんですか」
「緒方さんそれは過大評価しすぎです、私なんてしがない中間管理職ですよ」
「事態の説明をしてもらえるって事ですよね」
「ええ、政府から聞かされた話に納得が行かず、私の方でも調べて見たのですが、大した結論は得られませんでしたが、説明はさせて頂きます」
完全隔離された病室で、勿体ぶりながら藤倉が話しだした。
「レベルアップ薬なんですか、重大な副作用が発見されました」
クサクソゲロマズ薬にどんな副作用が有っても驚きはしないが。
「どうなるんですか」
「禿げるようです」
「はっ?」
思わず頭に手を乗せ髪の毛を確認した、大丈夫だまだフサフサしている。
「レベル上限の64に達していない者が服用すると、という但し書きが付くようですが」
「驚かせ無いで下さいよ、びっくりしました。でもそんな事が隔離される理由だったんですか」
「レベルアップ薬から放射性元素の一つセシウムに極めてよく似た物質が検出されたのです、ですから被爆の可能性を考え隔離させてもらいました。しかし結果としてレベルアップ薬を服用した皆さんから、内部被ばくを受けた痕跡は見られませんでした」
放射能で犯されて居た可能性は全く考えて居なかったが、アレから放射能が出て居たとしても驚きは無い。
「鹿島さんの身に、何か良くない事が起こったのかと思ってびっくりしましよ」
「鹿島君は元気ですよ、レベルも66に上がったそうです」
ついにSDTF職員にレベルを追い越されたか、しかしあの薬を飲んでレベルを上げた鹿島を称えるべきだな、江下や山村も鹿島に見習ってあの薬を飲んで貰いたい物だ。
札幌中級ダンジョンどうした物かな、花畑で花の補充をしても良いのだが、とっとと攻略してしまいたい思いも有る。
攻略の仕方はまだ判明しては居ないが、レベルの上限を上げる事で何かが変わるんだと期待したい。
そうで無ければあそこで花が咲き誇っていた理由が無いように思える。
「それで誰が禿げ薬を飲んだんですか」
「レベルアップ薬ですよ、禿げ薬では有りません。治験に参加頂いた公認冒険者の方ですから、緒方さんはご存知無い方です」
本当はレベルアップ薬でも無く、限界突破薬1なのだが、あの薬を治験で飲ませたのか、SDTFは私が考えて居たより極悪人だったんだな。
「その方のご冥福をお祈り致します」
「落ち込んでは居ますが元気にして居られますよ、ちゃんと見舞金もお付けしましたので」
私ならあの劇薬どれだけの金を積まれても飲める気がしないが、・・・まさか広田のおっさんじゃ無いだろうな、バキューム広田ならあの薬でも飲むかも知れない。
「そろそろ本題に入りましょうか」
「今までの話は本題じゃ無かったんですか」
「そこまで暇では有りませんよ、もちろん緒方さんとの会話は充分に興味深い物では有りますが。あの自称山田太郎の死体から判明した事が多々有りましたでの、ひとまずの報告と思いましてね」
既に山田太郎(仮)は死んだのだから、私の中では終わった話だったんだが。
「ポーション関係を野田さんから受け取って居たようです、米ドルで支払いを行っていたようで、野田さんのクレジットは使われて居なかったようです」
野田のクレジットが使われて居たら、アメリカ本国にまで請求しに行くのでは無いだろうか、当然のだがアメリカの大地を踏んだ途端確保されてしまうだろうけど。
「野田さんの様子をご存知ですか」
「報告では落ち込んでいるようです、妹さんを巻き込んだ事を後悔されてると聞いてます」
野田にとって唯一の良心だからな、妹と弟は、過激な事をしでかさないと良いが、隔離が終わったら訪ねて見た方が良いかも知れない。
「薬の類の内レベルアップ薬はどれ程流れて居たのでしょうか」
「流れて居ないようです、と言うのも野田さんが扱えるほぼ全てのレベルアップ薬を日本国政府が買い上げましたので。自称山田太郎には渡せなかったんだと考えて居ります」
レベルアップ薬1本10億だから気軽に買える物では無い筈なのに、どうやって日本国政府が支払いを行ったか気になる所だ。
「大金を渡したりはしてませんよ、少し国有地をお譲りしただけです」
「北海道の原野とかですか」
「流石に野田さんが納得されないでしょう、東京の一等地ですよ」
場所は叔父が買った埋立地の近くだった、ただ広さが段違いだったので、固定資産税の支払いだけでも相当な金額になるのでは無いのか。
「免税させられたみたいですね、私達が考えて居たより強かな方みたいですね。それとも誰かブレインが居られるのでしょうか」
俺じゃないし、だが固定資産税の免除は市役所時代に結構な数お目にかかっている、宗教団体や公益性が高い場所や自治会が所有している土地なんかも免除された居た場所が有る。
今回どのような理由で免除したか知らないが、上手い方法かも知れない。
「野田さんが納得しているなら構わないのですが、国内に何本のレベルアップ薬が有るのですか」
「250本です」
2500億円分の土地か、私より野田の方が資産が多くなったな。
「必要充分な数ですね」
「既に30本程を実験に使いましたので残りは220本ですが、冒険者の数を勘定すると確かに足りそうです。多少は友好国に許与するのも有りかと言う程には」
あんな事の有ったアメリカにも、レベルアップ薬を渡す用意が有ると言う事を言いたいのだろうか、クソゲロ薬なんか好きにしてくれとしか言いようが無いが、再び山田太郎のような輩が出てきたがその時はどうするのか聞いて置きたい。
「洗脳系のスキルを持っていたのは山田太郎だったんですかね」
「持ち物や遺体からはそこまで都合よく判断出来ませんでした、ただ額に埋まっていたのは弾丸では無く、ドングリでした。スキルによって打ち出された物だと推測します」
あの時持ち物検査をしていても、銃器は見つからなかったと言うわけか、ヤマト・ジロウが自信満々だった理由はそこに有ったのだろう。
「FBIの捜査官を自称していた大和次郎さんはどうなりましたか」
「帰国しました、米国の身分保障が有るので、SDTFでは手が出せませんでした。大和次郎が本当にバードン・アラタニだとするなら彼はナンバーズの1人と言う事になります」
ナンバーズって何だろうか、予測は付くが確認した方が良いな。
「ナンバーズって何ですか」
「アメリカの冒険者の格付けランキングです001から009までのメンバーがナンバーズと呼ばれて居ます。バードン・アラタニはナンバー008と呼ばれて居た筈です」
レベル63で8番目か、それならまだ日本の方が高レベル帯だと優位に建てそうだ。
「安達さんの『鑑定』で レンジャーのスキルを確認出来たりしましか?」
「スキルに関しては見えなかったようです、何らかの妨害スキルもしくは魔道具の効果では無いかと言う話しです」
ステータス隠蔽のスキルは安達が一番効果が高いスキルを所持している、『鑑定』もおそらく上位の物を所持してるだろうから、その安達が見通せないならお手上げだ。
「最後に長らくおまたせしましたが、緒方さんの経過観察は終了です、何時でもお帰りに成って下さい」
「分かりました」
院内で森下を探したのだが見つからない、私より先に開放され、帰ってしまったようだ。何時までも病院に居たくは無かったし、このSDTF関連の病院なら飛ぶ所を見られても平気だと言うので、そのまま寝間着姿で帰る事にした。
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