第122話「凱旋2」

 沖縄から帰ってくると学校側から強制的に新聞社の取材を受けさせられた、1年生が個人戦で男女アベック優勝は初だったらしく、結構な数の新聞社が学校に訪れた。

 地方紙は勿論全国紙のスポーツ欄にも記事が乗る、注目度のそれ程高くない剣道の大会だったが、それでも実家の方にまで取材の申し込みが有ったそうだ。


「緒方さん、川上さん明日は県庁で県知事から表彰が有りますので、朝下宿先に迎えに上がります」


 広報の職員が迎えて来てくれるらしい、こんな取材攻勢普通の高校生なら舞い上がって、調子を狂わせる元だろうと思えた。


「制服で良いんですよね」

「そうですね、時間が有れば制服を新調出来たのですが。冬の大会の事も有りますので、夏冬1セットずつは新調して置きましょう」


 剣道部に関しての部活制限は一切取り外された、残りの夏休みは朝から晩まで剣道漬けの日々が来る事の成りそうだ、私と涼子を除いては。

 


 本日の取材が終わって部活に顔を出したが、既に部活は終わって居て床に大量の汗を出して寝転んでる鳥羽上と氏家だけが居残っていた。


「ご苦労さん」

「どうも、今日はもう上がりですか」

「オーバーワーク気味だったんで、部は明日、休みにしてしまった。お前ら2人には負担を掛けるが、それもスター選手の役目と思ってくれ。確か明日は・・・俺も県庁行きだったな」


 表彰の場に顧問が着いて来るのはまあ、普通なのかな、こんな事初めての経験なのでよく解らない。


「掃除だけでもしていきましょうか」


 道場の床が濡れて居ると具合が悪い、汗で匂いが残るのも嫌だから、生活魔法で綺麗にして置きたかった。


「大丈夫、自分で掃除くらいするから、聡志はそのまま帰ってくれ」


 横に成っている鳥羽上からそう言われたので、掃除くらいするのに思いながらも、じゃあっと帰る事にした。





「聡志君大変だったんすよ」


 部屋に帰るなり森下に捕まった、国際状況が二転三転して、再び森下にも出動要請が掛かるかもしれないと言うのだ。


「今度はどこの国なんですか」

「ホンジュラス共和国ってとこです」

「どこに有る国ですか」

「カリブ海に面した国っす」


 アメリカがどうにかすれば良いのでは無いか、確かコンビアとかベネズエラとかが有る辺りだろう、日本が出張る理由が分からない。


「下級ダンジョンはクリアーされてるんですよね」

「そうっすね、でも1ヶ所だけっす」

「人口はどのくらいなんですか」

「1000万人くらいっすね」


 となると上級ダンジョンが1ヶ所ある程度か、中級ダンジョンは2つ3つ有ってもおかしくない。まさか中級ダンジョンを攻略して欲しいと言う話なのだろうか。


「レベル上げを手伝って欲しいって話みたいっすね、中級ダンジョンに突入した冒険者が何グループか全滅したみたいなんで」

「やな感じですね」

「多分最終的には断ると思うっす」


 日本はいつかの国から救援要請を受けて居たが、今の所派遣した国は一つも無い。 

 アメリカは同盟国に限っては多額の報酬と引き換えに、冒険者を派遣しているようだが、日本は国内のダンジョン攻略に主眼を置いて進んでいた。


「もう下級ダンジョンを攻略して無い国って残って無いんですよね」

「その筈なんすけど」


 下級ダンジョン攻略期限は多少のズレが有り、1990年から1992の間で発生する。

 あの石碑を発見した時、旧国連が把握していたのはギリシャだけだった、何度も警告を発して危険を知らせて居たのだが、ギリシャは最後まで信じず、崩壊した。

現在政府を維持出来てない国は、ギリシャ、バハマナ、スリナム、ガボン、イラクの5ヶ国で、他の国連加盟国は最低でも1ヶ所は下級ダンジョンを攻略している。


「報道規制も限界みたいっすよ、国土の広い国じゃあ下級ダンジョン1ヶ所って焼け石に水っすからね」


  国土が狭いと言われて居る日本でさえ5地域にダンジョンが区分されている、どうもダンジョンは人口比で生成されているようだが、中国やインド、それにソビエトなんかは日本の比では無いだろう。


 国土、人口共に巨大で、ダンジョン攻略もこなせているのは、アメリカくらいの物では無いだろうか。


「山村さん達って何処に居るんですか」

「知らないっすけど、日本には居ないみたいっすね」


 何処の国にも冒険者を派遣してないのに、山村達が国内には居ないと言う矛盾点、そこを問い詰める気は無いが政府には危機感が足りないのでは無いだろうか。


「聞き方を変えますけど、今国内でダンジョンを攻略しているグループっどれだけ居るんですか」

「公認冒険者が28グループと御園班長と柴田班長の所っすね、自衛隊からSDTFに異動してきた班が2つ有るっすけど、そっちは北九州でバンバン、ミスリル鉱石を採掘してるっす」


 自衛隊って鹿島みたいな奴がミスリル鉱石掘りに甘んじるのだろうか、何だか別の目的を持って行動している気がしてならない。

 森下に降りてくる情報も規制されているんだろな、森下なら私や涼子に黙ってられないだろう。


「でも全部で6班有るんですよね、海外に居る山村班ともう一つの班は何をしてるんですか」

「札幌を攻略してるみたいっすね」


 札幌ダンジョンか、私達とは潜って居る時間が違うのだろう、一度も見かけた事は無い。


「そろそろ私達も活動再開したりしないっすか」

「海外派兵は良いんですか」

「絶対に行きたく無いんで、こっちに居るを作って欲しいっす」


 森下には世話に成っているので、そろそろダンジョンに潜った方が良いか、問題はどこのダンジョンを攻略するのかって話だが。

 久しぶりに情報端末を立ち上げて情報を更新する。


「加賀中級ダンジョンと伊勢中級ダンジョンが攻略済みになってますよ」

「そうっすね」


残り中級ダンジョンが8ヶ所に、上級は相変わらずの5ヶ所、誰が中部地区のダンジョンを攻略したのだろうか。情報端末にはそこまでの事は書き込まれて居なかった。


「加賀が推奨30で伊勢が40ですか、やはり御園さん達ですか」

「御園班長は江下隊長と一緒に池袋に張り付いて居る筈っすけどね、可能性が有るのは自衛隊っすかね」


 そこも知らされて無いようだ、まさかとは思うが私達の知らない民間の公認冒険者なのだろうか。


「このまま札幌を攻略するか、聖職者を探して池袋を攻略するかの二択だと思うんですが、森下さんはどう思いますか」

「札幌を攻略しちゃうっす、その方が梨乃っちとも、つむぎん達とも連携が取りやすいっす」


 森下の意見には私も反論する余地が無かったので、当面は札幌ダンジョンを攻略する事になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る