第116話「中級ダンジョン走破」

 土曜日にダンジョンに入る、入ったダンジョンは当然千葉ダンジョンで目的地は地下2階。

 最終目的は当然攻略なのだが今のままではかなり辛い、レベルを上げてしまわない事には地下3階は辛いだろう、と言う事でワームを狩りに来たのだ。


ワームの死骸からアダマンタイトが取れる事が判ったと言うのも、ワームを狩る理由の一つだ。


「エミリンの代わりを見つけないと駄目っすね」


 今日参加しているのは、私、涼子、森下、野田、小田切の5人で、英美里は池袋ダンジョン攻略に参加している。


「野田さんと小田切先生の後輩さんってどうなんですか」

「あいつ等は駄目ですよ、やる気が無いので」

「じゃあ中町さんはどうなんですか」

「こんな危ない場所に連れて来られません」


 自分達の事を棚に上げて居るが、確かに危ない場所だと言う事には同意する、それも今回ワームと戦って見てやっぱり無理そうなら他のダンジョンでレベルを上げてしまうつもりをしている。


と言うのも、私と涼子はレベル50に成って新たなスキルを手に入れていた。

 勇者のスキルは『聖兜』なのでいきなり戦力が上がる事は無かったが、賢者のスキル『魔力消費軽減』はかなり有効そうなスキルだった。

 もう一つ道化師のスキルで『カード』と言う物も覚えたが、出目次第で効果が変わる物なので、積極的には使いづらい。


「この間と同じく北に向かって突っ走れば良いっすね」

「お願いします」


 野田のナビゲートに従い、移動する、2時間の移動でワームに遭遇した場所まで来たので、小高い砂漠の丘に移動し周囲に水をぶちまけて見た。


「リュウ君、地面の下」

「どうした」

「多分ワームの反応が有るけど・・・移動出来ないみたい」


 既に一度目にバラ撒いた水は蒸発しているが、効果が有るならどれだけでも水をぶっかけてやろう。

回りの土地に満遍なく水を作り出し、津波のように水を放っていく、元から魔力の量は多い方だと思うが、『魔力回復』と『魔力消費軽減』のお陰で無限に魔法を放てる気がしてくる。


「レベルが上がっていくっすね」


 私のレベルもどんどん上がっている、砂の下でワームが生き埋めにになり死んでいるのだろう。

 他の魔物が来た時に怖いから護衛は必要だが、札幌の中級ダンジョンよりレベル上げの効率は良さそうだ。

 しかしこれではワームの死骸を持ち帰る事はできそうに無いが。


「リュウ君気配が消えたよ」

「了解、一旦打ち止めにするよ、野田さんワームの死骸って拾えそうですか」

「多分無理だと思います」


 私は魔法で水を作り出しているが、『収納』もちなら大量の水を持ってきて周囲にぶちまければ同じ事が出来るのでは無いだろうか。


「レベルは何処まで上がりました?」

「私はレベル55っすね、 レベル50で『アフターバーナー』ってスキルを覚えたっす」


 嫌な名前のスキルだな、地上を入る車でも使える物なのだろうか、御者の森下は『ドリフト』や『オートナビゲーション』と言う使い所のイマイチつかめない能力を多く所持している。


「私はレベル50でスキルは『飼育小屋』を覚えたわね、テイム出来る子達を増やせるみたい」


 小田切は隠して居るが、『魔力微増』と言うスキルと、『多方面攻撃』と言うスキルを既に取得している、隠す意味が有るスキルには思えないが理由は分からない。


「私のレベルは56です、新たに覚えたスキルは有りませんね」

「私もリュウ君と一緒、レベル50で覚えた『聖兜』以外にまだ覚えて無いよ」


 道化師のスキルを55で覚えるのかと思っていたのだが、覚えて居ない、この先は10刻みで覚える事になるのだろうか。


「私も小田切先輩と同じレベル50です、スキルは『貯蔵庫』です」

「どんなスキルなんっすか」

「多分『収納』の上位互換を持ったスキルだと思います、入る容量が桁違いで、内部で解体や精製も行ってくれるみたいですよ」


 解体や精製と言うのは有り難いスキルだ、このままレベル上げを続けたいが近場に居たサンドワームは狩り尽くしてしまったらしい。


「野田さん場所を移動しますか」

「このまま北に行けば良いっすかね」

「そうですね、壁にぶち当たるまでは北に進みましょう」


 マップの壁が現れのは階段から300キロ離れた場所だった、あの階段が中央に有った場合600キロ四方のダンジョンと言うことになる。面積に直せば36万Km2つまり日本の面積と同程度の砂漠と言うことになる。


「階段地点が南に有る事を祈りましょ」


 日本と同じ面積の砂漠から下に下りる通路、もしくはダンジョンのボスを探す、膨大な時間が掛かりそうで気が遠くなる。


「涼子この辺りにワームの反応は?」

「無いよ、ここと階段との中間地点が一番多かったよ」


 階段から150キロ地点が一番ワームが生息しているらしい、と言うことはその辺りに下に下りる階段が有って欲しいと祈りながら移動を再開した。






 下に下りる階段はあっけなく発見された、150キロ地点で真北の場所に階段が存在した。

 最初に走っていた時には僅かに西にズレて居たらしい、前回も同じ用に西か東にズレて居たのだろう。


「リュウ君下りるの?」

「レベルを上げよう、今のままで下に下りる事は避けたい」


 地下2階のワームですら平均レベルで60は有るのだ、この下の階だと更にレベルが高い魔物が現れる事は予想出来た。


「リュウ君近くにはもう居ないみたい」


 中央辺りで水を生み出して地面に染み込ませて居たが、割と早い時間でワームを狩り尽くしてしまったらしい。レベルは私と涼子が58、森下が56、小田切と野田は53まで上がった。


「今日の所は帰りますか、次は来週の土曜で良いですか」

「御免なさい来週は中間テストの準備が有るから私は無理ね」

「そうですか、英美里さんに声を掛けて無理そうなら、見送るかも知れません」

「安全第1っすね」


 野田は北海道に、小田切は浦安へと帰って行き、残りの私達は官舎へと帰った。


「森下特補大ニュースです」


 私達が帰ってきた所にSDTFの職員が森下に抱きついて来て、興奮しながら話を始めた。


「京都中級ダンジョンが攻略されました」

「まじっすか、誰が攻略したんすか」

「第2攻略隊の第1班の山村班です」


 吹田ダンジョンで助けた、山村茂の班が攻略を完了したのか、復帰したとは聞いていたが、名誉挽回の大金星だな。


「ダンジョンの詳細は共有されるのですか」

「はい、近日中に情報端末で共有されます」


タブレットを立ち上げて京都ダンジョンに付いて調べて見たが、まだ情報は更新されていないようだ。

 推奨攻略レベル30、地下1階は洞窟型ダンジョンでオーソドックスな事くらいしか書き込まれて居ない。


「石碑の情報も教えて貰えるですか」

「そこまでの事は私では解りません」


目の前に居る職員では分からない事も多そうだ、私自ら情報を確認したい所では有るが、ダンジョン攻略とレベル上げを優先させたい。

 多少不安では有るが森下に情報収集を任せてしまおう。


「山村班長に特別ボーナスを持っていかれたっすね」

「ボーナスが出るんですか」

「出て欲しいなって言う願望っすけどね」


 何にせよ良かった、お祝いの言葉を送りたいが山村とは仕事以外の話をした事は無いので、連絡先も知らない。 森下に情報収集をお願いして、私は部屋へと帰った。






「緒方君今日はよろしくお願いします」


 土曜になって、英美里はやはりターミン先生と一緒に行動すると言う事で、代わりに中級ダンジョンを一番乗りで攻略した山村と一緒に千葉ダンジョンに潜る事になった。

 情報収集を森下には頼んでいたが、本人を連れて来て欲しかった訳では無いのだが、直接話を聞ける事は有り難い。


山村のレベルは42で知らぬ間にレベルを上げて居た、中級ダンジョンを攻略しているのだからそれも当然の事だろう。


「こちらこそよろしくおねがいします。早速ですが京都ダンジョンって地下何階まで有ったんですか」

「5階です、情報端末は更新されていると思いますが、一応念の為に各階の敵レベルをお伝えします」


1階はレベル30、2階が35、3階は40、4階は45、5階はボスしか居なかったらしい。

 推奨レベルが30でボスのレベルは50と言うのは、詐欺に近いのでは無いか、厳しい戦いだったようで、けが人が続出し撤退も視野に入っていたようだが、新入隊員の活躍も有りどうにか討伐出来たらしい。


そしてその新入隊員と言うのが山村と一緒に着いてきた、鹿島玲央特務警部補と言う事になる。

千葉ダンジョンに入って、1階を進んで行く間に色々聞いて見よう。


「特殊なアイテムなんかは出て来なかったんでしょうか」


 野田は高値で売れるアイテムに付いて聞いていた。


「アダマンタイトの剣くらいでしょうか、その剣はSDTFの研究所で解析の真っ最中なので、使っては居ないんですが」

「その剣の攻撃力はどの程度なんですか」


 私が生み出した聖剣、今の攻撃力は30だ、レベルが5上がる度に生み出してやっと30を越えたが、涼子の聖剣は50を越えて居る。


「29です、耐久が1万程有りますので、お二人が使っている聖剣以外では最強の武器と言うことになります」


山村も白々しい事を言ってくれる、鹿島玲央28歳元自衛官のジョブは魔剣士、魔剣を生み出して戦うタイプで、レベルは39、腰に下げて居る魔剣の攻撃力は36と私の聖剣を堂々上回っていた。


「ボス戦でも撤退は可能なんすか」

「私達の班では無理だったよ、帰還のキーワードを唱えても無効にされてしまったよ、吹田ダンジョンで帰還出来なかったのもボス戦が続いていたからかも知れないですね」


 あの現象の考察は出来て居なかった、ボス戦云々の話は話半分に聞いて置いたほうが良さそうだ。


「ボスにも鑑定が通ったんですね」

「それはうちの秘蔵っ子鑑定士が居たからですよ、彼が居なければ私達では多くの事が、解らなかったでしょう」


ボスに効く弱点が有ったらしい、それを使って討伐したから鑑定士が居なければ全滅と言う可能性もあり得た訳だ。


「そろそろ2階に降りるっすよ」


 地下2階に降りて、森下の運転で中央に有る3階に続く階段の回りで狩りを行う、狩りと言っても私が水を撒いているだけなのだが。


「リュウ君、ワームじゃ無いのが来たよ」


 砂漠の上を走ってくるサソリのような生き物が目に入った、サソリと違うのはその大きさだろう、私や涼子の背丈の倍は有りそうだ。


「手を離せないから護衛をよろしく」

「我々も戦います」


 涼子と山村それに鹿島が率先して戦ってくれる、私はせっせと水巻でレベル上げ、野田と森下は私の回りで椅子に座って水を飲んでいる。

 涼子達の邪魔にならないようにしておくのが、この場合正解だから、彼女たちの行動は正しい。


どんどん上がっていたレベルが60でピタッと止まる、サンドワームのレベルは55から65の間でそろそろ経験値の入りが良くなようだ。

 サソリの襲撃が収まった所で場所を移動してワームを狩る、小一時間はワームを狩っていたが私と涼子のレベルが上がる気配は無かった。


「緒方君魔力は大丈夫なのですか」

「使用する魔力を軽減するスキルが取れたので、『魔力回復』と相まって割と平気なんです」


 それでも魔力は半分程に減っていたが30分も休息していれば全回復するだろう。


「お陰様で私のレベルは55まで上がりました、スキルも覚えましたので、ダンジョン攻略に尚はずみが付きそうです」


 心強い言葉を貰った、鹿島もレベル54になったようだし森下と野田も私と同じレベル60に達している、この先のレベル上げにはまた膨大な時間が掛かりそうだ。


「下の階に降りてみる?」


 涼子の提案にそろそろ良いかと言う気がしてきた、地下2階でレベルを上げて居てもまだ何日も停滞しそうだし、地下3階ならまだまだ折り返し地点だ。

 どのような感じで奴らのレベルが上がっていくのか気にもなる、敵いそうになければ即撤退する準備をして、階段を降りる事にした。


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