第60話「猜疑心」
「罠は仕掛けられて無いようです」
私が全員を『鑑定』している間に宝箱を調べ終わったようだ、江下が声を出して確認しているが私に対して投げかけて居る訳では無いので無視していた、が誰も返事を返さない。
返事をすると宝箱を開けさせられそうだからな、特に森下は涼子と小声で雑談を行い空気に徹して居た。
「柴田特警開けて頂けますか」
「了解です江下隊長殿」
白羽の矢は盾騎士の柴田に当たったようだ、前衛を張るタンクで一番防御力がありそうだから適当な人物と言える。慎重に開ける物だと思っていたのだが柴田は無造作に宝箱を開け中の品物を取り出した。
「金属のインゴットのようです」
『鑑定』でインゴットの詳細を調べてみると是非とも手に入れたい代物だった。
「江下さんダンジョンでの取得物の優先権って私達に有るって事で構わないんですよね」
「その話はダンジョンの外で行いませんか、安全を確保してしまいたいです」
江下の言う事も最もだと思い同意し江下の『撤退』のスキルで全員ダンジョンの外に出た。
「コスモ君マッピングは出来たかな」
「うん出来たよ」
インゴットは私が確保していたがその行き先は明確に決まっていない、一旦江下以下の攻略隊が私達と離れ話し合いを行っているようだ。持ち逃げを恐れてか見張りの職員が居るが表向きは私達の為のアテンダントだと嘯いている。
「私紅茶が飲みたいって言ったよね、それがこのペットボトルの紅茶なのあり得ないですけど」
「森下さんそういうの辞めませんか、見てて悲しく成ってくるんですけど」
森下が職員に絡んでる、帰りたいのに足止めされてイライラしている事は理解出来るのだが、どちらかと言えば森下だって足止めする側だろうに。
「聡志君は大人っすね、こんな場所で3時間も監禁されて監視の職員にまで優しいんですから」
「森下君我々は緒方さん達を監禁なんてして居ませんよ、人聞きが悪い事を言わないで下さい」
森下のイビリを止めて居たらSDTFの責任者大濠が私達が隔離されていた部屋に入ってきた、それも独りでは無くゾロゾロと取り巻き付きだ。
「緒方さん何か貴重な物をダンジョンで見つけられたそうですね」
「ただの金属の塊ですよ」
「そうですかただの金属の塊でしたかならば我々が金と同じ値段で買い取らせて頂きましょう」
インゴットの重さは1キロ有った、この時代のならまだ金の値段は高仏していないから1g1500円程だ、それは金の買取価格を調べたからまず間違い無い。で1キロの金の価格無税だとするなら150万と言う話になるのだがそんなはした金で売れるような代物では無い。
「使う当てが有るのでお譲りする事は出来ません」
「何に使われるつもりでしょうか」
「コスモ君の商店で買い取ってもらうつもりです、そうすれば商店のラインナップが充実すると思いますので」
「商品が増える事は確定的なのでしょうか」
「そんな事私には判りませんよ、でも分の悪い掛けでは無いと考えて居ます」
私が何を言いたいのか恐らく大濠は理解しているだろう、その上でやはりインゴットを研究したいと言うジレンマに陥っている。
「半分、そう半分譲って頂く訳には行きませんか」
「半分ですか、金塊と同じ値段で私達から強制して買い上げるつもりですか」
「インゴットを鑑定させて頂いて、その結果次第では買取額は再考させて頂きますよ勿論」
ごねても良いことは無さそうなのでインゴットを涼子に向かって放ると半分に切断するよう頼んだ。
涼子の振り下ろした剥き身の聖剣がインゴットを真っ二つに切断する、切断面は鏡のようで刀で切り裂いたようには見えなかった。
「あのその刀も調べさせて欲しいんだが」
大濠の取り巻きの独りが手を上げてそう発言してきた、誰だと『鑑定』を行った結果以前一度だけ会った事の有るSDTFの研究者で元東大教授の森永正和だった。
「涼子のは渡せませんけど私のなら調べて貰っても構いませんよ、持ち帰れたらの話ですけどね」
私が生み出した聖剣を森永に向かって鞘ごと放り投げてやったら受け取ったままの姿で聖剣を床に落としてしまった。
「そんな馬鹿な、安達君鑑定してくれ給え」
安達と言う聞き覚えの有る名前に私は安達に向かって『鑑定』を行った、私に読み取れたのは安達圭と言う名前と鑑定士と言うジョブの二点だけで所属はおろかレベルさえも不明だった。
「聖剣レベル3、攻撃力23、耐久度15000、素材はオリハルコンです」
「なんとオリハルコン、それはまた伝説級の素材では無いか。だれから持ち上げる事が出来ないか試してくれたまえ」
あの聖剣そんなファンタジー素材で出来ていたのか、代わる代わる持ち上げようと試みていたが誰一人成功しなかった。同じ勇者で有る私と涼子でも共有出来なかった代物を彼らのような一般人が持てる訳が無い。
「先生そこまでにして居ただけますか。安達特補インゴットの鑑定を」
「はい、ミスリルインゴットです。魔法特性が高く武器防具に向いている素材のようです」
そうなのだあのインゴットファンタジー素材の定番で有るミスリルで構成されていた。
「ただの金属のインゴットですか」
「確か真銀とも呼ぶ物なんでしょ金属のインゴットには違い無いと思いますけど」
「判りました、私の判断で3億で買い取らせて頂きます。残りの半分については緒方さんにお任せしましょう」
「本気ですか」
未知の金属を500gも渡しているのだ、いくら何でも3億なんて捨て値で譲れとは大濠の面の厚さに驚いた。
「これ以上は私の権限を越えるのです、製法で特許でも取れれば還元する事も可能なんですが。世の中に出せるような代物では有りませんよね、代金の不足分は我々の借りと言う事にして頂けないでしょうか」
涼子とコスモの顔を見ると3億と言う金額に驚いていたようで言葉を失っている、私が小声て売っても良いかと尋ねたら顔を上限に忙しく振っていたので貸しを作る為に引き渡す事にした。
「私と涼子それにコスモ君の3人で分けても良いんですよね」
「勿論それで構いません、こちらに運ばせましょうか、それとも東兼の方へ」
「東兼でお願いします。1つ質問が有るのですか皆さん支店へ飛べませんよねどうやってこちらまでいらっしゃたんですか」
「警視庁のヘリで来ました」
わざわざヘリを使って大阪まで来たのか、私達が本部に飛べばそれで済んだ事なのだがインゴットのすり替えを警戒したんだろうな、私やコスモが『収納』する事を職員連中が拒絶していたし。
「それじゃあ帰らせて貰いますね」
「はい今日の所はありがとうございました、また隊員のレベル上げにお付き合いくださると助かります」
大濠の許可を得たので私達は東兼に有る支店に向かって飛んだ。
「私常々思ってた事が有るんです、日本にも第2夫人が居ても良いと思いませんか」
東兼に戻ってきたとほぼ同時に本部からアルミ製のアタッシュケースを持った職員がやってきてアタッシュケース毎手渡して去って行った。中身を確認すると100万円の札束がキッチリ300枚納められて居た。
「和美さん冗談も程々にしとかないと人知れずダンジョンに置き去りにされちゃうよ」
「もう涼子ちゃんたらお茶目さん、私涼子ちゃんの愛人でも良いよ」
現金に目がくらんだ森下がはしゃぎ回っている、コスモと私は『収納』すれば事済むのだが涼子の1億は私が預かるか銀行に預けるかだ。SDTFに貸しが作れたのだ涼子の秘密口座の1つや2つ簡単に作ってはくれるだろう。
「涼子このお金どうする」
「どうするってどうしよ、お母さんに言っちゃ駄目なんだよね」
「それは不味いでしょ涼子ちゃん、扱いに困っているのならお姉さんが預かって置いて上げましょうか」
私と涼子の白い目が森下を見つめて森下はペコリと頭を下げて自分の椅子に座った。
「私が預かるか銀行に口座を作るか、多分今ならSDTFが口座を作ってくれると思うし税金もかからない筈だよ」
「聡志兄ちゃん、涼子お姉ちゃん、あのね、内緒にしといてって言われたんだけどね、収納箱って言うマジックアイテムが有るよ。1つ10万クレジットだけど涼子お姉ちゃんに上げるよ」
収納箱と言う名前だったが要するにこれはスキルの外部拡張をする為のアイテムのようで装着することで簡易的に『収納』を使う事が出来る代物だった。取得出来るスキルの名前は『簡易アイテムボックス』そんなスキルを持っていた人物を1人知っている。
「コスモ君誰が内緒にするように言ったか教えてくれないかな」
「御園のおばちゃん」
おばさんか、コスモからすれば三十路の御園はおばさんと呼ばれても仕方がないが悲しく成ってくる。
「それでその収納箱いくつ渡したのかな」
「全部で9個だよ」
なるほどコスモの取り扱いが最重要だと言ってレベル上げに連れてく事を渋ったSDTFの判断は魔法薬だけでは無くマジックアイテムにも有った訳か。大濠が半分ミスリルを私達に渡したのも新たなマジックアイテムに期待していたのかも知れない。
「他にも便利な道具とか有るのかな」
「魔物が寄ってこなく成る薬とかちょっとだけ空を歩ける靴とか後は水の中でも息が出来るようになる腕輪とかかな」
やってくれたなSDTFの連中、私達とコスモを意図的に引き離して居た理由はこの辺にも有ったのか。しかし腹は立つがSDTFと袂を分かつ訳には行かない、ダンジョンを攻略するには彼らの協力を得た方が得策なのは間違い無いからな。
「コスモ君内緒にしとかなくても大丈夫なの?あの人って怖いでしょ」
「それは多分大丈夫だと思います、こちらに帰ってくる前に先輩コスモ君と少し話されて居たようですから」
「肥後さんはマジックアイテムの隠蔽知ってたんですか」
「いえ知らされては居ませんでした、ですが先輩が何かコスモ君に良からぬお願いをしていたことは察して居ました」
コスモは大鉄を人質に取られているような物だから、言うことを利かす事は簡単だったろう。
「意趣返しに梅田ダンジョン私達だけで攻略しちゃう?」
「それ良いっすね、次にミスリル手に入れたら私にも分前お願いします」
涼子の軽口に森下が乗っかったが次に見つかった時同じ値段で売れと言われたら当然断る。しまった忘れる所だった、コスモ商会でミスリルの買取をしてもらわないとどんな商品がラインナップに並ぶか解らないままだ。
「コスモ君このミスリルを商店で買い取ってくれるかな」
「うん解った」
コスモがミスリルを取り込んで査定した結果買取金額は50万クレジットと言う結果が出た。
「50万クレジットは5000万円なんだっけ、思ったよりも安いんだね」
「今までの素材の中じゃダンジョンの残骸の次に高いよ」
ダンジョン素材が高いのかミスリルが安いのかは分からないがミスリルを商店に流した結果ミスリルの短剣とミスリルの杖が新たな品物として店に並んだ。
「短剣は肥後さんが使うとして杖は私が使っても構わないよね」
「聡志兄ちゃん大丈夫2つともだいぶ高いよ」
ミスリルの短剣が150万クレジットで杖の方は200万クレジットの価格が付いて居た。2つ合わせて日本円で3億5千万円株で稼いだあぶく銭を使えば十分購入出来る。
「今日のダンジョンの稼ぎってどのくらい有った?」
「スライムはお薬の材料にしちゃったからスケルトンナイトの素材だけだから10万クレジットくらいだよ」
上級魔法薬を売りつける事はあまりやりたくない、そのうち必要に成る場面も有るだろうが今はまだその時ではない筈だ。
「リュウ君それってつまりダンジョンの中でクレジットを稼げば良いって事でしょ、レベルも上げたいしSDTFなんか無視して私達だけでダンジョン入っちゃおうよ」
「賛成賛成、私達だけで入ったら分前もらえるっすよね」
杖の性能を試したかったので早急に購入したかったのだが涼子と森下がダンジョンで稼ぐと言い張った為どれくらい稼いでレベルを上げられるか私達だけで梅田ダンジョンに入ってみる事となった。
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