第59話「梅田ダンジョン」

 3月も末日の31日結論が出たと梅田に有る攻略拠点に呼び出された、私と涼子と森下が飛ぶとそこには既に肥後とコスモが先に到着済だった。


「突然の呼び出しに応じて頂いてありがとう御座います」


 私達のメンバーが久しぶりに全員梅田に集合していた、呼び出した側のSDTFの攻略隊の中に私の知らない人間がちらほらと見かける。

 支店内に居る全員を『鑑定』してみたが森下が話していた一番隊所属だと言う安達と織田の姿は無かった。代わりに同じ攻略隊の隊員では有ったが特務警部の柴田優作と山村茂と言う人物が居た。


「皆さん大丈夫なんですか」

「任務に支障は有りませんよ」


 攻略隊のメンバーは大小様々な怪我を負っている、レベルがそれなりに高いから生活には支障ないのかも知れないが痛い事には変わり無いと思われる。


「先に治療をしてから本題に入りませんか」

「お願い出来ますか」

「勿論です」


 外見から一番酷い怪我を負っていたのは江下だったが本当の意味での重傷者は初めて会う柴田と山村だった、肋骨が数本折れて居たのだがどうやって日常生活を送れていたのが不思議でならない程の怪我だ。


「度々お手間を取らせて申し訳有りません」

「そちらのお二方かなり酷い怪我でしたけど、紹介はしていただけないのですか」 


 柴田と山村の事を尋ねたらすんなりと二人の小隊を明かしてくれた。


「自分は二班の班長で柴田優作です、九州中国攻略隊を率いていて盾騎士の冒険者です」


 柴田優作35歳SDTFダンジョン攻略隊二番隊の小隊長で階級は特務警部レベルは18、怪我を負った理由は奄美大島ダンジョンでの負傷だそうだ。既に1階は全域探索済みで現在地下2階の探索を行っている、地下2階に降りた事で敵のレベルが急に上がり仲間を庇って怪我を負ったらしい。


「始めまして山村茂です三番隊の小隊長をやらしてもらってますが年功序列と階級で小隊長になっただけの刑事です。荒事は苦手なんですが、どうにかやらせてもらってます」


 山村茂41歳SDTFダンジョン攻略隊三番隊の小隊長、関西四国地区の攻略担当でジョブは屯田兵。スキル構成が『入植』『警備』『開拓』と攻撃に向かない物ばかりだが槍を持って戦っているらしい。レベルは15で攻略隊の中では森下に続いて低い。


 自己紹介も終わり江下が私達に協力を求める決断に至った経緯を語りだした。


「一番隊と補助随行員だけでは埒が開かなかったので編成を変えて大人数での攻略を試みたんです」


梅田ダンジョンを同時攻略出来る上限は13人だったので攻略隊の中でも戦闘に向いたジョブの人間を集めて攻略を試みたが再び撤退する羽目になったらしい。


「13人って中途半端な人数なんですね」

「各ダンジョンでは6人から20人までの上限が確認されていますので中間程の人数制限だと思われます」


 今現在中級ダンジョンに入れそうなメンツは、私、涼子、コスモ、肥後、森下、江下、北条、御園、北川、柴田、山村の11人後2人人員に余裕が有る。


「それで我々攻略隊6人に加え緒方さんのチーム5人と工作隊の2名を持って再攻略に挑みたいと思っているのです」


 森下は完全に私のチーム扱いに成っているらしい、江下の説明を聞いても森下は反論しなかったので彼女自身攻略隊に所属している自覚は無いようだ。工作隊は数人存在していたがその中でも比較的若くレベルの高い野崎と小野寺と言う歩荷のジョブを持つ人物が選抜されていた。


「攻略を考えるよりレベル上げに徹した方が良くない?」


 涼子から建設的意見が出た、私も涼子の意見に全面的に同意だ。


「はい、ですが攻略とレベル上げは我々の中では同義なのです、スケルトンナイトが出現した時点で撤退しないと全滅しますので」

「レベル45の敵ってスケルトンナイトだったんですか、よく逃げ切れましたね」 


 私と涼子が最初に討伐した強敵スケルトンナイト私と涼子のレベルが低かったことも有ったが体感的にはブッラクサーベルタイガーよりも手強かったように思う。


「ギリギリでした、後数秒『撤退』の発動が遅ければ全滅もあり得たと思います」

「撤退のタイミングは江下さんが決めるんですか」

「緒方さんが不安を感じて撤退の指示を出されるならそれに従いますよ、ただ緒方さん達が行けると判断しても私が危ないと感じればやはり『撤退』を使わせてもらいます」


 安全策で当たると言う事なので江下の指示に従う事に同意した、装備を整えダンジョン攻略の準備を進める。



「聡志兄ちゃんこれ新しい防具なんだけど使ってくれる?」


 コスモが用意してくれたのは商店で新たに並んだ品物だった、今まで使っていた品よりも10倍のクレジットが必要だったがSDTFが全額出してくれたらしい。


「緒方君これSDTFからの支給品です、アンダーウェアーで防刃素材で出来て居ます」


 肥後が渡してくれた服は横浜で買い求めた防刃服より丈夫で汗も吸い取ってくれる機能に優れた物だ。


「涼子にも渡して貰えたんですかね」

「その筈ですよ、でも緒方君良かったのですか。梅田ダンジョンの危険度は鎌倉ダンジョン地下2階の比では無いと思われますが」


 肥後とコスモとそろって話すのは久しぶりだ、気を使ってくれたのか更衣室には私達3人だけで着替えを行っている。


「SDTFに恩を売っておく事と私達だけでダンジョンに入るよりも安全にレベルを上げられるからです。特にコスモ君には経験値と素材を稼いで貰って商会を大きくしてもらわないと駄目ですからね」

「緒方君もSDTFと同じ考えなのですね」

「肥後さんSDTFから誘いは未だに無いんですか」

「それだけは有り得ませんよ、今の長官が変わらない限り私が出世する事は有りません」


 肥後の過去に何が有ったのだろうか、ここまであからさまな事を聞かされると興味が湧いて来るでは無いか。


「聡志兄ちゃん僕ね、お父さんと会えたよ」


 肥後の過去話を尋ねようとした所でコスモの家庭の話をぶっ込まれて来た。


「元気だった」

「元気じゃ無かったけど刑務所には入らなくて良くなったの」


 SDTFもえげつない事をする、そもそも私の記憶で東西不動産の責任者だったのは鈴原剛掌だ、あの頃ニュースでずっと取り上げられて居たが悠木大鉄の名前は一切表に出ていなかった筈だ。

 私がコスモを引き込んだ所為で大鉄が逮捕寸前まで追い込まれてしまったとするなら、悠木家を引き裂いたのは私の所業だと言えなくも無い。勿論一番悪いのは犯罪行為で利益を上げて居た大鉄だが。


「お母さんとお父さん仲直りは出来たのかな」

「うーうん、お父さん黒田大鉄になったんだって」


 離婚が正式に成立したのか、娘と変わらない年頃の少女を買春したのだ離婚を突きつけられても仕方がない。


「お父さん今は何処で何してるの」

「熱海の旅館で働いてるんだって」


 どういう経緯で働き出したか知らないが熱海なら会いに行けない距離では無いな。 



着替え終わった頃北条が私達を呼びに来たので更衣室から出ると涼子と森下が新装備に着替えて座っていた。


「リュウ君格好良いよ」

「涼子の方が素敵だよ」

「イチャラブは他の場所でやって貰えませんかね、ここは戦場っすよ」


 森下が半眼に成って私と涼子を見つめてくる、涼子のご機嫌を取る為に言った言葉だったが森下の機嫌を損ねてしまったようだ。


「それぞれペアになって装備を確認して下さい」


 御園が小隊長らしく装備の確認を求めて来た、私は当然涼子とペアになって防具の装着ミスが無いかの確認を行った。


「彩世矢の本数は大丈夫?」

「はい小隊長、今回は悠木君と緒方君が居られるので補充が可能です」

「二人に頼りっぱなしは駄目よ、逸れる事も考慮して規定の矢は矢筒に入れて置きなさい」


 北川と御園がペアになって装備を確認しあっていた、となるとうちの森下がどうなったかと目を配ると江下に捕まって装備を付け直されて居た。


「最終確認ですが何か質問は有りますか」

「宝箱の中身や討伐した魔物の扱いはどうなりますか」

「基本的には緒方さんたちに優先件が有ると考えてもらって構いません。もし我々SDTFや政府が譲ってもらいたい物が出てきた場合買取の相談はさせて下さい」


 私達のような民間の冒険者に取得物の優先権が無いと一緒に行動してくれなくなるだろうから素材の権利は一応冒険者に持たせてくれるようだ。しかしそれが政府やSDTFが本当に欲しかった場合は金と権力で持っていかれる可能性は排除出来ない。


「では第4回梅田ダンジョン討伐に向かいます」


 13人がダンジョンの入り口前に整列して中に入る、一瞬で場面が代わり見たことの有る光景が広がる。


「鎌倉ダンジョンそっくりですね」

「そのようですね」


 私の呟きに肥後が答えてくれる、梅田ダンジョン地下一階に現れる雑魚はスライムばかりらしいから飛び道具主体の北川と魔法が使える私が狩っていく事に成るのだろう。


「では進みましょう」


 暫く進むとスライムがぬるっと現れた、緑のスライムが2匹に赤が1匹。


「緒方さん赤をお願いします」


 緑2匹は北川が引き受けてくれるようなので私は『鑑定』を掛けてから赤スライムに最適な魔法を放った。

 私が使った魔法は氷の塊を飛ばす魔法でそのままでもダメージを与えられたが、コアを狙って撃つ方がより効果的だった。

 氷の魔法が一撃で赤スライムを撃退すると今度は緑のスライム目掛けて北川が矢を射る。

 2匹の緑スライムに対して1本の矢しか放たなかったのだが、ある程度の距離を進んだ矢が2つに分裂し、それぞれのコアを撃ち抜いていた。


「お見事です」


 江下からお褒めの言葉を頂いたがそれは私より北川が受けるべき賛辞だろう、もっと強力な魔法を使えば一度に3匹だろうが10匹だろうが討伐出来ると思う。しかしこんな狭い通路で大規模な魔法なんて使う事は出来ない。


「江下さんリュウ君、次スライムが出てきたら私が戦って見ても良いかな」

「刀で戦う事は難しいですが」

「あの真ん中の玉を切ったら良いって事でしょ、だったら私でも出来ると思うんだ。それに試してみないと戦うべきが逃げるべきが判断が出来なくなっちゃう」

「確かにそれはその通りですね、では次のスライムが出たら緒方さん北川特補1匹は残して下さい」


 江下の命令を受諾し次のスライムが出てくるまで移動する、幸い直ぐにスライムが現れたが数が少し多かった。


「青のスライムを残して赤を緒方さんが、緑を北川特補が攻撃して下さい」


 江下の指揮で私と北川が攻撃を仕掛けそれぞれ4匹のスライムを撃退した、残された1匹のスライムに対して涼子が攻撃を仕掛けた。


「スライムを一刀両断ですか」


 涼子が動いた瞬間には既にスライムが真っ二つに別れたように見えた、レベルは上がっていない筈なのに数日前とは動きがより洗練されているように思う。


「刀でも対応出来るんですね」

「次私も試して見て良いですか」


 私もスライムの討伐を刀で試してみたくなって提案してみた。


「緒方さんも刀を使うんでしたね、ですがそれはまたの機会にお願います。モンスター部屋が目と鼻の先なので」


 そこから5分もかからない内に小部屋の入り口が見えて来る、鎌倉ダンジョンと同じなら召喚の罠が仕込んで有る筈だ。


「コスモ君鑑定出来る?」

「えーっとね、もう罠が起動してるみたい、レッドスライムレベル35とホワイトスライムレベル33が2匹、ホワイトスライムには物理攻撃無効のスキルが有るみたいだよ」


 厄介なスキル持ちの魔物が現れたようだ、本当に物理攻撃が無効なのか試してみたい所だが今は安全を第一にやらせてもらおう。


「大規模魔法を使います下がっていて下さい」

「肥後部長、柴田小隊長盾を構えて緒方さんの前へそれ以外の人員は緒方さんより後ろで待機」


 私の攻撃意図を察してくれた江下が陣形を考え配置を変える、私は魔物が召喚された直後を狙って少し規模の大きい魔法を放つ事が出来た。


『灼熱の炎よ小部屋にたゆたう敵を殲滅せしめよ』


 詠唱を素早く終え魔法を放つ、部屋の中央部まで飛んだ火球が弾けて小部屋の中を真っ赤に燃やした。

 炎が鎮火した時部屋の中に居た3匹のスライムは跡形も無く燃え尽きていた、死体が残っていないので戦利品は無しのようだ。


「リュウ君私レベルが上がったよ」


確認するまでも無く私もレベルが上がっていたし他のメンツもそれぞれ上がったようだ。私と涼子がレベル25、コスモと肥後と江下と北条が24、御園は23北川と柴田は20、山村は18、森下は15まで上がり工作隊の2人は12に成っていた。


「これが魔法の力なのですか」

「もっと広い場所なら高威力の魔法を使えますよ」

「それは何とも凄いですね」



 そこからはモンスター部屋以外のザコ敵は涼子と北川が対処して私はモンスター部屋に入る直前召喚が終わった頃魔法で攻撃すると言う手順でレベル上げを進めて行った。


「聡志兄ちゃん」


 6回目のモン部屋攻略時に炎耐性の有る赤スライムの死体が残ってコスモが回収していた。回収が終わるとコスモが小声で耳打ちしてきたのでどうしたのかと尋ねた。


「あのねレベル35以上のスライムの体液を『アイテムボックス』に仕舞ったら上級回復薬の素材に出来るって出てきたよ」

「普通の魔法薬とは違いそう?」

「うん無くした腕とか足とかもで生えて来るんだって」


 それはとてつもなく不味いな、そんな薬が明るみに出たら青天井で値段がつり上がっていくだろう、しかもスライムの体液なんて収集するのも現状じゃ難しい。北川のスキルでコアを狙い撃ちにするならこちらも攻撃に晒される事になる、そうでなければ無傷で攻略隊のメンツが帰ってきた筈だ。


「私達のレベルがもう少し上がるまではSDTFにも内緒ね」

「うん解った」


 そこから10部屋回って宝箱を1つ発見した、宝箱を守っていたモンスターはレベル39のスケルトンナイトだったのだが私の魔法一発で撃退する事か可能だった。



「ここまでですね、これ以上は魔力が持ちそうに有りません」

「では撤退しましょう。ですがその前に宝箱の中身を確認した方が良いですね」 


 コスモが宝箱に『鑑定』を掛けてる間私はそれぞれのレベルとスキルを確認していた。

 私のレベルは32に上がっていてレベル25で道化師のスキル『ジャグリング』をレベル30で賢者のスキル『魔力回復』と勇者のスキル『聖盾』と道化師のスキル『軽業』を覚えた。まだどのスキルも使っては居なかったが勇者のスキルである『聖盾』は死にスキルになりそうだ。


 涼子も私と同じレベル32で勇者のスキルで有る『聖盾』を覚えて居たが私と同じように盾は使わないだろう。


 コスモはレベル31に上がり私の『鑑定』ではコスモのスキルは見通せなく成った。


  肥後はレベル30まで上がり『跳躍』と言うスキルを覚えている、このスキルはジャンプする跳躍では無く攻撃対象までに存在するあらゆる障害物を越えて行くスキルで瞬間移動に近い能力だと思われる。


 森下のレベルは23で『整備』と『荷運び』と言う2つの能力を手に入れている。『整備』は操車する車両のメンテナス能力で『荷運び』は持ち上げる荷物の量が増える能力のようだ。



SDTFスタッフ全員のスキルが読み取れなく成っている、誰かが取得した能力でコスモのように『鑑定』が通らなくなったのであろう。名前とレベルと所属とジョブは見えるので完全に遮断される訳では無いようだ。ちなみに全員のレベルを記述すると江下が30、北条が29、御園が27、北川が26、柴田が25、山村が24になり、随行員の工作隊2人のレベルも20まで上がっていた。


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