第49話「SDTF」
学年末テストも終わり半日で授業が終了すると生徒たちは卒業式の準備や部活動へと三々五々に散っていく、私と涼子は明星家の道場に通う以外の日は帰宅部生活を満喫していたのだが今日は真っ直ぐに帰る事はできそうに無かった。
「乗って下さい」
「パトカーにしてはえらく上等な車なんですね」
迎えに来ていたのは公安の淡路で車はトヨタの高級セダンだった。
「緊急車両じゃ無いからパトカーじゃ有りません、したがって無謀な運転なんかは出来ない訳ですよ」
運転席の後ろの席に涼子を座らせ私は助手席の後ろの席に座った、上下の座順なんて考えても居ないがせめて安全な席に涼子を座らせてやりたかった。
「何処に行くんですか」
「東京駅です」
「東京駅からは電車で移動するって事ですか」
「目的地が東京駅って事ですよ、その先は着いてからのお楽しみと言うことにして下さい」
車が高速に乗り込むと車内での会話も無くなり涼子が私の肩に頭を乗せて本格的に居眠りを始めた、会話相手も居なく成ったのでぼうっと車窓を眺めて居た。高速に乗ってから1時間程経過した後目的地周辺にたどり着いた、神田か江戸橋で降りるんだろうなと考えて居たら呉服橋から工事中の看板の有る通路に入っていく。
「こんな道聞いた事もないですよ」
「工事中ですから、最も永遠に終わる事の無い工事ですがね」
通路は地下に続いていて突き当りにはいかにも工事車両が入るようなゲートが有った、ゲートをくぐって中に入ると小部屋に車ごと入っていく。車が停車するとシャッターが降りてきて完全に降り切ると床が降下していくことを感じた。
「エレベーターですか」
「そうです、地下60mまで降ります」
都営地下鉄大江戸線が地下40mだと聞いた覚えが有るからそれよりも更に20mも深い場所まで降りると言うことのようだ一体何がそこに有るのか未知への恐怖よりも好奇心の方が勝ってドキドキが止まらない。
「わざわざ掘ったんですか」
「詳しい話は私も聞かされてませんけどね、旧軍の地下施設を再利用したって話ですよ」
「旧軍って大日本帝国時代のですか」
「そうですね45も前の物ですが補強されてますし内装もあるから地下って感じはしませんよ」
体感的には長い時間降りていたような気がしたが時計を見る限り10分程しか下って無かったようだ。
「到着しました、ここが目的地SDTFの総括本部です」
車載エレベターを降りた先は大理石張りの床の上に赤絨毯が敷いてあった、その先の入口には帝国陸軍臨時司令部の看板の隣にSDTF統括本部の文字が有った。
「秘密組織だとばかり思ってたんですが堂々と看板を出してるんですね」
「SDTFは秘密組織では有りませんよ」
疑問に思いながらも半分寝ている涼子の手を引いて淡路の案内に従い建物の中に入っていく、豪華な玄関をくぐった先は常識的な内装の通路で病院か市役所の内部を彷彿とさせていた、これなら確かに地下とは思えない。
「ここに何人くらいの人員が割かれて居るんですか」
「私は別部署なのでここの人員については全く未知数ですよ、御園のように選抜された人間も居るので警察関係者が皆無とは言いませんが私のような下っ端にまで情報が降りてきませんね」
案内された場所はなんてこと無い普通の部屋で地下施設の物々しさとは反比例して少し拍子抜けした。
「一番乗りみたいなんで私で答えられる事なら質問を受け付けますよ」
「じゃあ手始めにSDTFって何の略なんですか」
「スペシャルダンジョンタスクフォースの略らしいですよ何がスペシャルかは知りませんが各部署から人が引き抜かれて出来上がったってのは嘘じゃ無いですね」
タスクフォースとは軍隊において任務のために編成される部隊の事だったか、今回はダンジョンに対応するため建前上軍の居ない日本が各省庁から人員を寄せ集めたって事になるのだろうか。
「いつからダンジョンの事知ってたの?」
「私が知らされたのは去年の春頃ですが、政府はだいぶ前から知っていたようですよ。いつからダンジョンが認知されていたかは知りませんがね」
まさか政府がそんなに前から ダンジョンの事を知っているとは夢にも思わなかった、私がこれまで個人の力でダンジョンを攻略しようとしていたのは1人相撲だったのだろうか。
「そもそもダンジョンってなんなんですか」
「核心を突いた質問だね、その問いに答えられる人間は少なくともSDTFには居ないんじゃ無いのかな」
SDTFには居ないと言う返答に引っかかりを感じて頭の中で反芻していると待ち人が到着したようで部屋の中に続々と人が集まってきた。
「お待たせしました皆さんお揃いのようですね」
部屋の中には私と涼子それにコスモと肥後が居ておそらくSDTFのスタッフだと思われる人物が4人席に座っていた、彼らと入れ違いで淡路は部屋を出て行ったし御園の姿も無い。
「私はここの管理職の1人で名前は藤倉守です警察風に言うと警視正と言う階級に相当します。SDTFダンジョン対策課の課長ということに成っていますが正直に言えば活動は手詰まりで皆さんの協力に期待してます」
既に4人の人物は鑑定済みだが4人共ジョブは所有していなかった、彼彼女等の肩書は一応にSDTF所属と成っていたが一番最初に話しだした藤倉の元々の所属は自衛官で警察関係者では無いらしい。
「最初にお聞きしておきますが皆さんの中でメッセージを受け取られた方はいらっしゃいますか」
「メッセージですか、それはどのような類の物の事を仰って居るのでしょうか」
「その辺りの説明が難しいんですよ、紙に書かれた物で有ったり夢のお告げで有ったり絵本だった事も有るようですよ」
私はチョコレートに挟まれて居たカードだったが涼子は夢の中で神無山のダンジョンに入るよう言われたし初級ダンジョンを攻略した時には大阪の中級ダンジョンが2000年まで氾濫しないと言うような神託も受けている。後藤は子供たちの未来が危ないというような神託を受けたような話はしていたが後藤の証言だけなので真偽の程は不明だ。
「初級ダンジョンを討伐せよ言うメッセージが届きましたよ去年のバレンタインデーにチョコと一緒に」
「昨年の2月14日ですか、興味深いお話ですねそのメッセージは保管されているのでしょうか」
神託が書かれた紙片を『収納』から取り出し机の上に置いてやった。
「アイテムボックスのスキルですか、流石は高レベル冒険者ですね。確認させて頂きますが緒方さんと川上さんがレベル23、悠木さんが21、肥後さんが19と言うことでよろしいですね」
こちらの情報は筒抜けに成っているようだ、しかしレベル23で高レベルということはダンジョンの攻略は進んでいないと言う事になるのだろう。水沢知恵と言う女性が紙片を手にして内容を確認した後藤倉に手渡した。
「緒方さんはダンジョン攻略が果たされないとどのようなことになるとお考えです」
「中からモンスターが飛び出して来ると考えてます、だからすべてのダンジョンを攻略したいと思い行動してます」
「そのように考える根拠は有るのですか」
「初級ダンジョンをクリアしたときにそういう風に感じたもしくは神託をのような物を受けたからですかね、誰にでも示せる根拠は有りませんよ」
私の考えを述べた所藤倉は2、3回頷いてから資料を配るよう水沢に指示した。水沢知恵、SDTFダンジョン対策課課員、元の所属は外務省なぜダンジョン対策課に外務省が絡んでいるのだろうかと不思議に思いながらも渡された資料を手に取って読み込んでいく。
「簡単に概要だけ説明しますとね、ダンジョンの発見は世界各地で起こっている事象なわけです。日本では戦後直ぐにダンジョン発見の報告が上がっていたのですがその件は誤報だと握りつぶされています」
世界で発見されている事は石碑の文章で知っては居たが戦後直ぐからダンジョン絡みの情報が上がっているのは意外だった、私達が神無山ダンジョンで遭遇したユウ君とマナミちゃん思ったよりもだいぶ年上かもしれない。
「ダンジョンは厄介な存在でしてね、誰もが入れる訳じゃ無いしダンジョンに入る事が出来る冒険者も必ずしも戦いに向いている訳でも無い。ダンジョン攻略が一番進んでいる米国でも中級ダンジョンは突破出来てないようです」
逆に言えばアメリカは中級ダンジョンに入れる程の人員が確保出来ているということなのだろう、池袋ダンジョンのように推奨レベル50なんてどれだけのリソースを食いつぶせば到達出来るか予想すら立てられない。
「札幌ダンジョンの事が書かれてないんですけどどういう事なのですか」
「札幌にダンジョンが存在するんですか初耳です」
資料を読み勧めて居た涼子が札幌ダンジョンの事を不審に思い藤倉の説明に割って口を挟んでしまった。
「下級ダンジョンで10月の段階で攻略済でした。場所は北大の構内です」
「ありがとう御座います早速調査員を派遣することにします」
涼子の情報を私が補完して藤倉に伝えた。
「現在SDTFで把握しているダンジョンの数は全国で21箇所です。北海道はこれまで一箇所も存在が確認出来ていませんでしたので無いのではと予想をしていたのですが間違いだったようです。その21箇所のダンジョンの内攻略出来たのは初級ダンジョン7箇所のみで下級ダンジョンは緒方さんたちが攻略された鎌倉ダンジョンのみだと考えて居たのですがその情報も間違いだったようですね」
SDTFが札幌ダンジョン攻略の情報を秘匿する必要は無いからあのダンジョンを攻略した人間は私達のような立ち場の民間人だと言うことになりそうだ。私と涼子で回ったダンジョンの内資料に記載の無かった場所の住所をしたため後で藤倉に渡す事にし更に藤倉の説明を耳にする。
「SDTF設立当初の目的は上級ダンジョン攻略後に与えられる資源獲得の為でした。それが時を経る毎にダンジョン攻略に期限が設定してある事が冒険者からの情報で判明すると、SDTFの目的がダンジョンの殲滅優先に移行しました」
「最初の攻略予定地は大阪に有る吹田ダンジョンでした、レベル10の冒険者が10人でダンジョンに挑みましたが1985年10月16日から連絡が取れて居ません。全滅した物だと考えて居ます」
レベル10で10人か、推奨レベルが10だから攻略出来ない訳では無いだろうが私達はダンジョンに入った直後レベル15まで上がって居た。ジョブの影響も大きいとは思うがその10人編成と言うのが返って足を引っ張った可能性も有る。
「SDTF所属の冒険者はレベル15の戦士が筆頭です秋葉原ダンジョン攻略中に怪我を負い現在は治療中です、幸い悠木さんから魔法薬の提供を受けられましたので戦線復帰は間もなくと言った所ですが」
コスモとSDTFは繋がって居たか、チラッとコスモの顔を伺ったが俯いている。レベル15の戦士と言えば後藤よりもレベルが低いと言うことになる、後藤は地下2階で遭遇したブラックサーベルタイガーにビビってリタイヤした。SDTF所属の戦士がどのような心構えを持っているのかは不明だが下級ダンジョン攻略には役者不足だろう。
「簡単では有りましたが説明を終わります、何か気になることや質問が有ればどうぞ」
要約された資料を説明してもらったが足りない情報がいくつか有って質問してみた。
「ジョブやスキルの情報が乗ってないようですが」
「外部秘なので皆さんにはお見せ出来ません、SDTFに所属してもらえれば勿論お見せ出来ます」
やっぱり隠されて居たか、どこを探してもジョブとスキルの説明文が無いのでおかしいと思った。
「SDTFが把握している冒険者に聖職者って居ますか」
「何故そのような事を?」
「池袋ダンジョンに入る為には必須のパーティーメンバーだからですよ」
「その情報もやはり『鑑定』の能力で判明したのですか」
藤倉がコスモを確認してから聞いてきたから既にこちらの情報は漏れているのだろうと思い隠すこと無く答えた。
「そう考えて貰っても構いません」
藤倉は黙ったまま会話に参加してなかった研究者風の男森永正和に視線を合わせると森永が頷き口を開いた。
「聖職者と言う冒険者は確認出来て降りませんが司祭と言う冒険者は確認出来て居ます」
司祭か聖職者っぽいジョブだなとなると涼子の勇者が聖職者って説もあながち的外れでは無さそうだ。何処の誰かと言う質問には答えてくれなかったがSDTFのスタッフでは無い事は教えて貰えた。
「こちらからも確認させていただきたいのですが」
会話を記録していた書紀の仲本泰史が手を上げて私達に質問してきた。
「鎌倉ダンジョンを攻略されたのは2月3日の土曜ということに違いは有りませんね」
正確な日付は覚えちゃ居ないが2月の第1土曜だと言う事は間違い無いから涼子と肥後の顔を見合わせてから頷いて置いた。
「その日に神託が降りたのですよダンジョン氾濫の期限が2015年まで伸びたと言う神託が」
どう言う事だ、初級ダンジョン攻略時に大阪の中級ダンジョンの氾濫が2000年まで伸びた、更に今回下級ダンジョンを攻略したことによってダンジョン氾濫が2015年まで伸びたという事なのか?
それは少しおかしくないか、以前の人生でダンジョンから奴らが溢れて来たのは2015年だったという事はあの時も誰かが下級ダンジョンを攻略していたと言うことにならないのか?
そもそもエリア毎に別れているダンジョンのしかも東兼に有る初級ダンジョンを攻略して何で大阪の中級ダンジョンの氾濫が伸びるのかが謎だった。今直ぐどうにもならないから棚上げしていたのだが今回下級ダンジョンをクリアしてどうして私達では無くSDTFに神託が降りて来るのかまったく訳が解らなくなった
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