第64話
「でも、君の祖父母はいいって、許してくれるのかな。」
彼女にそう言われて、今更僕はそんなことを思い出す。
そもそも事の始まりは、祖父に許可を求めたところからなのだ。
だから、祖父母が駄目だと、そう言ってしまえばどれだけ僕が誘ったところで意味は無いのだ。そして、すっかりそれを聞くのを忘れていたことを今更ながらに思い出す。
僕が、彼女が望んだだけではどうにもならない。そんな事がそこにはある。
「聞くの、忘れてた。」
「えー。」
「明日聞いておくよ。僕、昼前には変えるけど。」
「私も明日の朝には。」
お互い学生。違う学校でも長い休みなんて、ある程度決まっている。
同じようなタイミングで動くことになるのは、まぁ、当然かもしれない。
「じゃ、明日の朝聞いてみるよ。」
「ダメって言われたら。」
「なんとなく言わないような気もするけど、その時は二人で何処か探せばいいんじゃない。」
そう、僕はここで彼女と何かしてみたいな、そんな事は思うけど。
それが駄目なら駄目で、此処では無い場所で彼女と何かをすればいいだけなのだ。
「祖父も言ってたしね。」
「じーさん。じゃないんだ。」
「癖みたいなものかな。もう少し仲良くなったら、うん、もっと気楽に行けるかも。」
どうにも、僕としても自分の見た目で望まれている振る舞いというか、僕以外の人が僕に期待する。
友人だったり、他の誰かだったり。
面倒だけど、まぁそれで喜んでくれるんだからと、そういった事に応えようとしている間に、そういった事が習慣になってしまっているのもある。
「そっか。えっと、それで君のおじいさん、何か言ってたっけ。」
「うん。言ってたよ。自由が利くようになればって。
だから今できる事を考えてやればいいのかなって。君と二人で、それこそ星がよく見えるところに、有名な天文台があるところとか、ちょっと泊りに行くよって、そう言ったら許してくれるだろうし。」
「ここのアルバム作りたいんじゃなかったっけ。」
「そうだよ。でも作り方わかったら、多分僕でもできるだろうから。」
うん、きっとそれはそう。それでも。
「でも、キミと一緒にアルバム作るのは、キミがいなきゃできないし。じゃ、わけたらいいよね。」
そう。それはそれと、そうしてしまえばいい。
色々と難しい事はあるけれど、自由にできない事は多いけれど。
それならそれで出来る事を探して、その中で。
だって、僕らはまだ小さな鉢、その中も一杯にできないほど、その程度の小さなものだから。
「君は、すごいね。」
「そうかな。」
「うん。」
褒められて嬉しいと、そう思うのは久しぶり。
「でも、キミが僕に色々してくれたからだよ。僕が星に興味を持って、こうしようと思うのは。」
「そうなのかな。」
「そうだよ。だって、始めはそれ、覗こうともしなかったし。」
「そうなんだよね。」
こうして静かな夜に、色々と音は賑やかだけれど、こうして二人で向かい合って、外で食事をしながらというのはなんだか特別な感じ。
それこそ、屋外、誰でも来れる場所だというのに、此処はまるで彼女と僕だけの場所のようで。
祖父母とか、母とか、ひょっとしたら父も。
ここに何か思い出があるのかもしれないけれど、それこそ遠い星の光、それが今ある輝きに隠れるように、今は見えもしない。
今この場所は、彼女と僕。
祖父母のやさしさに照らされている、そんな二人だけの場所なのだから。
「嬉しい事が、本当にたくさんあったよ。」
「僕も、キミに会えて嬉しかったよ。」
「夏も、また、ここに来たいな。」
「祖父母に頼んでみよっか。二人で。」
「無理なら、何処かに行くって言うけど。」
そう、そうなってしまったら仕方がない。
何となくすでに夏にまた自己紹介をしようと、また彼女と会うための言い訳に僕からしてしまっているから言い出しにくいけど、その時は仕方がない。
「無理だったら、その時は連絡先、交換しよっか。お互いスマホ持ってるし。」
「えっと、私は先に名前くらいはって思うけど。」
「大丈夫だったら、次でいいんじゃない。うん。それも楽しいと思うから。」
「それで私が急用で来れなかったりしたら、どうするの。」
言われてそういえばそんなことも有るかもしれないと、そう考えるけど、それはそれでいいかな。
「その時は、それこそ祖父母を経由でいいんじゃない。」
「それは、そうかもだけど。」
そう、結局此処で会うなら、祖父母の許可がいるのだ。
なら彼女が急に来れない、そうなれば祖父母は連絡を受けるだろう。
そして僕がここに来るか、もし僕が来れない時も、祖父母はそれを知っているだろう。
「時期もちょうどいいしさ。そんな感じでいいんじゃないかな。」
「七夕伝説かな。」
「うん。」
「会うなって言われたら、揃って何処かに行くのは何か違うと思うけど。」
そう、少しだけ。
大きいかもしれないけど、少しだけ過去の、よく知られた物語と違うのは、この織女と牽牛は、ダメだと言われたら泣き寝入りをせずに、他に会える場所に勝手に向かうのだ。
手紙を届ける鳥は、スマホの中に。僕らは互いに互いの言葉を伝える手段を別に持っているのだから。
そうして、星に興味を持って色々知っている彼女、星に興味はないけどそれにまつわる話が好きな僕と。
そんな二人であれこれと話しながら、お弁当をつつきつつ、夜、慣れた何かから遠く離れたここで。
古いお伽噺に合わせて、約束をする。
次の夏、どうなるか分からないけど、きっとまたと。
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