第54話
「おかえり。」
車の音が聞こえて、祖母と一緒に玄関に迎えに行ってみれば、僕と同じような大きなカバンをもった彼女と他にもちょっとした大きさの鞄を片手に持った祖父がそこにいた。
彼女にしても、夜通し起きていたからだろう、何やら少し眠そうだ。
「うん。お邪魔します。」
「はい。いらっしゃい。さ、こっちですよ。」
そんな彼女の疲労を見て取ったのか、祖母が彼女を連れて家の奥へと進んでいく。
祖父はそれを見送りながらも、持っていた荷物を何か決まりがあるのかもしれないが、置いたと思えば電話に向かう。多分彼女の保護者だったりに連絡をするのだろう。
僕が初めて来たときにしてもそうだったが、その辺はきちんとするみたいだし。
そんな3人を見送って、僕は僕で外に出る準備をする。
祖母と話しながら縁側を眺めている間に、何となくこんな模様がある石が欲しいな、そんな事を思いついたのだ。
だから、これからそれを探しに出ようと、そんな事を考えている。家に残って、祖母から星の話を聞いたり、祖父と彼女についてのあれこれを話してもいいかもしれないけど、そこはそれ。僕がここに来て、昼からやる事、それはこの数年間ですっかり決まっているのだから。
それに彼女も、火星ににているそんな石に興味を持っていたし、鉢植えを見たいとそんなことも言っていたから、やっぱり、少しは整えたいなと、そんな欲もあるし。
そうして着替えが終わって玄関に向かうと、その途中祖母に出会う。
「じゃ、散歩に行ってくるね。」
「はい、行ってらっしゃい。そろそろ昼は暑くなってくるから。」
「帽子もかぶってるし。」
そう、そもそもこの帽子にしても祖父母に言われて被るようになっているのだ。日射病対策だとそう言われて。
その中に髪を纏めて放り込むようになったのは、僕の側であった出来事だけど。
「水筒、持っていきますか。」
「持ってるよ。」
言われた言葉に、片手をあげて見せる。こちらに来る時は必ずと言って言い程、初めてこちらに来た時、その時と同じように駅から出てすぐのところにある自販機で水のペットボトルを買っているが、それはそれとして荷物に水筒くらいはいれている。
そんな事を考えながら、普段生活している場所と同じように、あの古めかしい、塗装が少し剥げ始めたあの自動販売機が駅から無くなったら、さて僕はどうするのだろうか、そんな事を考えてしまうけれど。
「そうですか。なるべく日陰を歩くんですよ。」
「うん。」
言われた言葉に頷いて、そのまますれ違おうとするけど、ふと気になって尋ねる。
「えっと、あの子、大丈夫そうだった。」
「ええ。疲れているようなので寝かしつけましたけど。」
「そっか。まぁ、夜更かしなのかな、遅くまで起きてるみたいだし。」
「ええ。」
「じゃ、行ってきます。」
それ以上は特に気にせず、昼ご飯は珍しく祖父がいないうちに昼ご飯を食べたことも有って、そのまま外に出かける。どうにも、少しは興味も湧いたけれど、僕はやっぱりこっちが好きだなとそんなことを考えながら。
そして、お決まりになったいつもの場所、湧き水のある周りで石を探したり。祖父が歩いても大丈夫とそう言っていた場所をうろうろと歩き回って、時に地面にしゃがみこんでお目当てというほどはっきりした要望があるわけではない石を探して回る。
月の石そう呼ばれるものは見たことはあるけど、白っぽい、なんだか穴がたくさん空いているようなそんな印象がある石があればいいし、他にも今せっせと組み立てている、手を入れている鉢。一番最初に手を入れだしたそれに似合う石段、柱、そう言った物に似合う石を探してあれこれ拾って眺めてみては放り出す。そんなことを繰り返す。
そう言えば、祖父が石の加工の仕方を教えてくれるとか、そんな事を言っていたけど。
道具が揃ってからそれをするとして、じゃあ、どの石を加工しようかと。これまでとはまた違う視点で色々と吟味する。
削れる、ちょうどいい大きさに出来ると、それが分かってしまえばこれまでは鉢に入らない、他を置く場所が無くなる、そう思っていたものも選択肢に入ってくるから、我ながら現金なとかそんなことを考えながら。
「でも。」
そんな事を考えながらあれこれと石を見ていると、そんな言葉が口をついて出る。
「じーさんは、削ってなさそうだよね。」
僕の見ている時は、此処にいるときは、そうなのかもしれないけれど、少なくともここに来ている間に祖父がそんなことをしているのは見たことが無い。
加工したと、そう言ったあの大きな石にしても、人に頼んだと、そう言っていたのだ。
ならば暫くの間、石が多くある場所に僕を案内してくれたように、祖父もこの一帯を歩き回って、自分の鉢植えによく合う石を探して、これと思うものを拾い集めて言ったのだろうか。
何となく、道具がいると言われたように、祖父が自分でそうしているのなら、そこにはそっと、必要になるかも分からないというのに僕の分まで用意してくれている、そんな気もするのだから。
来るたびにそっと増えている鉢だったり、手入用の道具だったり。調べ物をするための本がそうであるように。
特に本については、最後の版数なんかを見れば、僕でも気が付く。買ってくれたのかもしれないと。物によっては、本当に数年前に重版されたばかりの物もあるのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます