第43話
「そっか。色々あるんだ、それも。」
「うん。色々工夫はあるよ。」
そうして僕は早速とばかりに荷物をそれぞれにおいて、ついでに彼女に祖母からの手紙を渡す。
これからしばらく僕は練習をするし、先に読んでおいてもらうほうがいいだろうと、そんな事を考えて。
「はい。手紙。」
「あ、うん。ありがとう。その何か聞いたりは。」
「特にないかな。」
そう答えて後は彼女が読めばいいと、ギターを早速取り出す。そこでふと気になって彼女に聞いてみる。
「ランタン、使う。」
「あ、ごめんね貸してもらえると嬉しいかな。」
ギターを取り出すのに、どうしても明りがいるからと側に置いていたけど、文字を読む彼女の方が必要だろう。
そう思って尋ねれば、どうにか携帯のライトで手紙を照らしながら読んでいた彼女から返事がある。
「はい。使い方はわかると思うけど。」
「えっと。あ、大丈夫。そんなに複雑じゃなさそうだし。」
シンプルなつまみがついているだけだから、後はまぁどちらに回すかだけだ。
後は僕はいつものようにギターの練習を始める。
そうして、少ししたところで、彼女から素っ頓狂な、そうとしか言えない声が上がる。
「えっと、どうかしたの。」
「あ、ごめんね、驚いちゃって。」
「驚くような事、書いてあったの。」
「その、あなたのお祖母さんがね、私の高校で、天文部に入ってたみたいで。」
「あれ、僕君の高校も知らないけど。」
「連絡先聞かれた時に、書いたんだけど、見てなかったんだ。」
「うん。」
そう答えれば、なんだか彼女は肩を落としてしまったけど、言われた言葉に何となく納得するものもある。
不思議な縁があって、だから優しくするのだろうかと。ただ、それが無かったとしても、あの二人はそうするような気もするのだけど。
いや、わざわざお弁当までは。あれこれと考えてしまうけど、結局聞かなければ分からないからと、考えるのをやめて練習を続ける。
彼女は彼女でまだ手紙の続きがあったのだろう。それを読んでいるようで、おかしな声をもう上げることもない。
そうしてしばらく、彼女は丁寧に何度か手紙を読み直していたから、それなりの時間。そうして彼女から声がかかる。
「えっと、お世話になります。」
「そっか。」
「その今からは、流石にご迷惑だから、明日の朝に一度挨拶に行くね。」
「迎えに来たほうが良いかな。」
「えっと、この先を降りたら。」
「まっすぐだよ。一軒しかないし、間違えないと思うけど。荷物、重くない。」
「天体望遠鏡だけ置かせてもらったら、後は身軽だから。その、後はそのまま私が借りている家から荷物を取りに直ぐに戻るし。」
どうやら、彼女は祖父母の誘いを受けることにしたらしい。あと数日は彼女とあの家で、一緒の時間を過ごす事になるのだろうと考えて、思わず首を捻る。
「えっと、どうかしたの。」
「いや、同じ家で寝泊まりするけど、多分顔はほとんど合わせないよなって。」
「うん、まぁ。きっとそうなるだろうけど。」
だって彼女はすっかり昼夜逆転の生活で、僕はなんだかんだと夜は寝るのだから。
「勉強、教えて貰おうかなって思ってたけど、難しそうだよね。」
「その、多分夕方までは起きないかな。」
「起きたら、ここだよね。」
「うん。」
なんというか、彼女の生活は極まっているなぁと、そんな感想を持ってしまう。
同じ学生同士、課題なんかもあるだろうに。
「えっと、連休中くらいだよ、こんなことするの。」
「よく生活リズム戻せるね。」
「連休明けは寝ずにそのまま。その後寝ちゃえば、戻るから。」
どうにも彼女は見た目に関わらず、いや、一人であんな重たいものを持って山道を歩くことを考えれば、少々無理をするのは予想できたのだろう。
「そっか。」
「それじゃ、明日の朝に一度挨拶に行くから。」
「僕はともかく、祖父は早起きだから。」
少なくとも、僕が朝日が昇り始めたころに起き上がると、どちらも既に動き始めている。夜も相応に遅くまで起きているけど、一体つ寝ているのだろうか。
「それにしても、不思議な縁があるんだね。」
頭では全く違う事を考えていたけれど、思わずそんな言葉が口をついて出る。だけどそう考えれば祖母がやけに星座に詳しかったことも納得がいく。
色々と会った古い事典にしても、祖母の物だったのだろう。趣味を持っているのは祖父だけと、そんな事を考えていたけれど、どうやら祖母もなかなか色々と手を出しているのかもしれない。
どうしても祖父と時間を使っているから、祖母の姿を見ていないと、それもあるのだけれど。
「そうだね。うん、私も驚いたかな。」
「変な声出てたしね。」
「それは、忘れて。」
そういって二人で笑いあう。思えばこうしてここで話すことは増えていたけど、こんな風に笑いながら話したことはなかった。
「何はともあれ、明日の朝からかな。よろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「朝早く、そうだね、まだ君が来る前に起きたら、様子を見に来るよ。」
「うん、ありがとう。」
そういってまた笑いあう。指先は冷えているけど、不思議と体は暖かくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます