第42話

その後はいつも通りの日を過ごして、今は泉の側で屈みこんで石を色々と物色している。

昨日改めて石に色々と違いが、形だけでなく細かいも夜がある事に改めて気が付き、今はそれに拘りながら選んでいる。結局どう選んだところで、持って帰って並べてみないと気に入るかどうかは分からないのだが。

なんだかんだと数年間拾い集めて、やっぱりやめておこうと庭に並べた石もそれなりの数になっているし、そろそろまた庭の石の入れ替え、いらない物はまたここに持ってきて戻す時期かもしれない。


そうして探している中で一つ、面白い石を見つけた。全体的に赤い石ではあるのだけど、その中に鈍い色で縞模様が入っている。ところどころに白い線もあったりと、なかなか見ていて面白い。

それこそ昨夜見た火星のように。

いまいち鉢植えの何処に置こうかは決まらないけど、一先ずそれは持って帰る事にして他にも色々と選ぶ。粒の混ざっている物やそれこそ複雑な色合いで筋が入っているもの、色々落ちている。

それらを一人でのんびりと、一つ一つ拾い上げながら確認していく。中には光に当たって不思議な光沢を返すものも多いし、見ていて飽きない。それにどうやって並べてみようかと、考えているこの時間も楽しい。

そうして一つ手にとっては戻してと繰り返して、最終的にはいつものように3つ4つ程を手に持って戻るのだ。

そうして夕食の時間まで、祖母に呼ばれるまで鉢植えに置いて眺めて、気に入ればそのまま、気に入らなければあの雑多な庭の仲間に加えることになる。


そうして、いつものように時間を使いながら、いつもとはどこか違う気分で一日を過ごして、夜また出かけようと、そんなときに祖母に色々と渡される。

すっかりお馴染みになった食べ物の容器に、少し厚みのある封筒。それからこれまではなかった水筒。


「えっと、これは。」

「暖かいものが入っているから。今夜は冷えるみたいだからね。」

「そうなんだ。ありがと。」


封筒は手紙だろう。祖母がそれについて何も言わないし、僕からも聞かない。

ただ、やっぱり気づかいにはお礼を言う。


「今日も昨日と同じくらいになっちゃうかも。」

「冷えないうちに帰って来なさいね。」

「うん。えっと、ばーさんは、天体観測とか、好きだったの。」

「ええ。もともとお爺さんと会ったのも、そのあたりの縁ですよ。」

「へー。」

「昔は娘、あなたのお母さんにねだられて話したりしましたけど。」

「そっか。それで色々あったんだ。昔星座教えてもらったし。」


あまりここで長く話してもと、そこで切り上げてしまう。

そう言えば、こちらに来てからは大体祖父と何かしていることが多くて、あまり祖母と話したりとそんなことはない気がする。せいぜい食事の時は祖母が主体となって話すくらいだろうか。

僕も祖父も、あまり口数が多くないし。

ただ、そう考えると、それこそこれまでの生活を振り返ってみると、僕は彼女に対しては随分と言葉を尽くしているように思う。

学校で、よく一緒に時間を過ごす相手にしても、話を聞きながら相槌を打っていることが多いし。せいぜい聞かれた時に返すくらいだろうか。


「じゃ、いってきます。」

「はい行ってらっしゃい。」


そうして見送られて、また彼女がいる場所へと向かう。恐らく今日もいるだろうし、彼女は昨日の夜、別れ際に言った物が見えるように準備をしてくれているのだろう。

あの後、星雲は何が見えるのかとか、ふと気になって調べようとしたけれど、それこそ彼女に説明を頼めばいいとやめたことも有って、何が見えるのか楽しみになっている。

それでも僕は僕なりに目的があってここまで来たからと、ギターの練習は続けるのだけど。

自分の事ではあるけれど、我ながら頑固だなとそんなことを考えながら山道を行けば、開けたそこには、当たり前のように彼女がいる。

これまではこちらが近寄って声をかけるまでは、天体望遠鏡を覗き込んでいたけれど、今日は珍しく、そう言うほどの時間一緒に過ごしたわけではないのだけど、そんなことを考えてしまう。それと、ひょっとして待たせてしまったのだろうかとも。


「こんばんは。」

「こんばんは。今夜は、寒いね。」


そう言われるが、そもそも彼女は制服だし僕は私服。感じ方にはかなり差があるだろう。


「そうかも。」

「かもって。そっか。結構厚着してるもんね。」

「まぁね。そっちは寒そうな格好だけど。」

「一応上着なんかも持ってきてるから後で着るけど。やっぱり荷物を持って歩いてると汗かいちゃうし。」

「あー、重いんだもんね。」


彼女の荷物は、僕が抱えている物とは比べ物にならないだろう。


「えっと、今日は珍しくあれ見てないけど。」

「うん、星雲だけなら、そこまで細かく調整しなくても大丈夫だから。」

「そうなんだ。でもそっか、全部の星が動くわけじゃないもんね。」


そうして星の動き、それを映した写真を思い出す。昨日の話だと、見ようとしている星雲は北斗七星、つまり北極星の側にあるから、あまり動かないとそういう事なのだろう。


「日周運動って言うんだけどね。」

「あ、なんか聞き覚えあるかも。写真を見たのは覚えてるけど。」


そこでふと気になって、彼女に聞いてみる。


「あれって、撮るの難しいの。」

「難しいよ。カメラだとその、今持ってるランタンの光とかが近くに来ると、それで失敗しちゃうし。

 簡単なのは連続で写真を撮って、合成するのかな。」

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