第40話

言われてみれば、そうかなと、納得しそうにはなるけれど。

でも実際、どうだんだろうかと、そんなことを考える。

昔、少し前にも話したけど、それこそ紀元前から、いろんな人が観測を行ってきた、当然、道具に対する改良も色々あっただろうけど。

そんなことをあれこれと考えながら、指を動かす。


「えっと、今持ってきてるこれ、百年も前だったら、ほとんど最新鋭機種だよ。」

「そうなんだ。」

「うん。えっと、日本の最初の天文台、1800、えっと、後半ほとんど900年に近かったと思うけど、その時に使ってた望遠鏡、その口径が20cmだから。」


そう言われても、ぱっとその長さの区別がつかない。


「いま、私が持ってるのが200mmだから、口径だけで言えば、同じなんだよ。」


言われて、改めて驚く。それなら確かに、当時であれば、とても個人が持てるような物では無いだろう。


「えっと、すごいんだね。」

「うん。今は確か記念品として、保管されてたと思うけど、重さが1トン以上あるんだったかな。」


告げられた重量に、まじまじと天体望遠鏡を見てしまうが、それは笑いながら手を振って否定される。


「流石に、これはそんなに重くないよ。付属品とか全部入れても、20キロないくらい。」

「えっと、比べたらそうでもないけど、重いよね。それ。」

「まぁ、ね。」


そっか、そんなに重い物を持ち運んでいたのか、道も悪い、暗い山道を。

それは祖父も心配するだろう。レンズを使っている以上、落とせば壊れるだろうし、それこそ、自分の上に落ちてきても怪我をするだろう。


「そっか。だから、祖父、心配したんだ。」

「えっと、まぁ、そうなのかも。うん。」


彼女はそれに対して、歯切れ悪く答える。望遠鏡の大きさなんかは話してないけど、まぁそれでも、大きくないといっても、それなりの重量だと、そう考えたのだろうか。

それとも、こんなところまで来るくらいだから、それなりに拘ったものを持っていると判断したのか。


「そういえば、今日は曲の練習じゃないんだね。」

「指が動くようになる、それが先だから。」


急に変わった話題に、簡単に応える。

思い通りに音を鳴らせないと、流石に適当な曲のメロディーラインを弾くのも難しい。

ペースを落として弾いてはいるけど、それでも。


「そっか。えっと、最初にひいてた曲とか。」


言われて、少し記憶を漁って、それを軽く弾いてみる。


「これだっけ。」

「あ、うん、それ。」


最初に弾いただけあって、僕も好きな曲だ。


「えっと、何となく聞いた覚えもあるけど。」

「え、そうなんだ。」


言われてみれば、ありそうな、そんな曲にも聞こえるけど。どうなんだろう。


「フィンランドの曲だけど。」

「え。」


そんな疑問をぶつけたら、彼女が驚く。

という事は、どうやら思い当たった物とは、まったく違うのかもしれない。


「その、言葉、分かったり。」

「流石に無理だよ。聞いた時は英語だったから、何となく。」

「そっか、そうだよね。」


彼女に指摘され、間違えた部分は英語。そんな僕に語学力を期待されても困る。


「でも、そっか、フィンランドか。」

「えっと、興味、あるの。」

「うん。その白夜とかって、聞いたことあるかな。」

「太陽が位置に沈まないとか、そんなのだっけ。」

「そうそう。やっぱり極に近いから、色々と日本では見れない物も見えたりとかして。

 ヘルシンキに有名な天文台もあるし、雑誌も出してるんだ。」


どうにも、彼女は国内だけでなく、あちこちのそう言った情報も積極的に見ているらしい。

それをするほど、情熱を持っているのだろう。星を見ることに。

僕は、どうだろう、しいて言うなら、今も続けている植物の手入れだろうか。正直今やめる気はないし、既に二つほど祖父のところから、引き取ってもいる。

最初は全部、なんて話もしたけど、その時どこか祖父が寂しそうな顔をしたから、こっちにもたくさん残っているけど。

僕だって、種から育てている鉢植え、それはずっと見ていたいし。


「へー。ああ、そっか、なんか南半球と、北半球で星座も違うとか。北天と南天とか、そんなこと聞いた覚えくらいはあるかも。」

「北極、南極だと、地面の事を指すから、言葉を分けたのかな。大体、意味は同じだよ。」

「地面と空は結構違うと思うけど。」


そういって、ふと気になって聞いてみる。


「南極、って大陸だし、天文台とかあるの。」

「あるよ。地球上で、一番天体観測に向いてるって、そんな話もあるくらい。

 でも、確か反射式は無くて、電波式だけだったと思うけど。でも、赤外線も作る予定、何だったっけ。」

「ごめん、聞かれても、分からないかな。」

「あ、うん、そうだよね。」


そうして謝る彼女に、そんな事じゃないよ、そう応えてからギターをしまう。

そろそろいい時間かなと、そんな事を思っていたけれど、ちょっと確認した時間は、既に結構遅い時間、それこそ昨夜に迫るくらいの時間になっていた。


「あ、もう、戻るんだ。」

「うん、流石に、そろそろね、遅い時間だし。」


そういってはみる者の、彼女にとっては、まさにこれからと、そんな時間なのだろうけれど。

手紙も祖母に渡さなきゃいけないし、戻らなければ、それが当たり前と、起きて待っていてくれそうだし。

そうして、改めて荷物を抱えて、彼女にまたねと告げて去ろうとすると、彼女から声がかかる。


「えっと、また、明日。その、明日は見てみたいものとかあるかな。」

「それこそさっき話した、星雲とか、かな。」

「うん、わかった。それじゃ、また明日。」

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