第34話

「他にも、色々あるんだけど。」

「えっと、僕が知ってることだと、星が5つ並んでるとか。」


図鑑で読んだ時に書いてあったことを、どうにか思い起こして伝えると、彼女は少しおかしそうに笑う。


「うん、言葉だけ見ると、そう思えるよね。」

「あ、違うんだ。連星って。」


たしかそんな言葉だったと思うけど。


「うん。それにね、残りの3つは月が隠しちゃって、あるだろうって、そう言われてるだけなんだ。」

「へー。月に隠れるようには、思えないけど。」


見上げてみても、肉眼で分かるほどに、はっきりと月と離れている。


「そのあたりは、観測できる時期とか、そもそもこういった物じゃ、そんな細かいところまでわからないとか、色々ね。」

「あー、そういう。宇宙にあるんだっけ。凄いの。」

「そうだね、えっと、それはこういった反射式と同じではあるけど、流石に比べちゃうと。」

「えっと、うん、大きさが違うのくらいは分かるから。」


そういって彼女が示す、それなりに大きな、天体望遠鏡。

確かに、ぱっと思いつくもの、それこそ天文台なんて呼ばれるところから覗いているものは、もっと大きいのは知っているけど、同じような仕組みだと思っていた。


「大きさ、うん、主鏡、有口径って言うんだけど、それの差が一番大きな性能の違いになるからね。

 あ、ごめんね、話が逸れたかな。えっとね、連星って、並んでるだけじゃないんだよ。」


そうして彼女は、両手にそれぞれ指を立てて、横に寝かせ、何かを巻き取るような仕草をする。


「こうやって、お互いに、お互いの周りをまわるんだ。」


言われてみれば、納得できる理屈もある。ただ、分からないことも有るけれど。


「公転してるから、かな。でも、それだと、こう惑星が並んでるように動くのは。」

「ええと、恒星系の事だよね。うん、一つの恒星を中心にして回ってるね。それぞれ速度も違うから、たまに重なることも有るよ。えっと最後にあったのはいつだったかな。」

「ああ、そっちは恒星が中心なんだ。えっと、じゃあ、惑星では、連星ってないの。」

「うーん、ひょっとしたらあるかもしれないけど、惑星って、自分で光を出すわけじゃないから。」

「観測できないんだ。」


僕がそれが結論かなと、結論付けると、彼女からさらなる怒涛の説明が始まる。

見つかっているものだと、重星がありただ連星は互いの重心を回るが、そちらは共通重心を回っているとか、他にも物理的な限界。引力は質量に比例するから、恒星にひかれるとか、遠心力がそれを上回ると星が砕けるとかなんとか。正直途中からは、何を言われているのかさっぱり分からなかった。

ただ、結論としては、まだ見つかっていない、理論にしても研究中で、新しいものが見つかっているから、今後見つかるかもしれない、そんなところに落ち着いた。


「えっと、ごめんね。よくわかんなかった。」


途中で止めようもない勢いで話されたため、すっかり最後まで話させてしまった事を誤る。


「その、私の方こそ。そうだよね、よくわかんないよね。」

「うん。流石に、無理。」


そこまで勉強が好きというわけでもないし、彼女の話は、本当に僕の知らない言葉が多くて、何が何やらとしか言いようがない。

それこそ、既にほとんど記憶からも抜け落ちている。


「えっと、これ、覗いてみても。」

「あ、うん。えっと、流石にまだ見えると思うから。」


なんだかんだと、それなりに長い時間、十分ほどは話をしただろうか。もう少し時間がたったら、もう一度設定がいる、そういう事なのだろう。


「ちゃんと固定はしてるから。」

「あまり動かさないようにっていう事だね。」


そういって、僕は上の方に飛び出ているレンズを、それこそ顕微鏡によく似たそれを覗き込む。

すると、そこにはとても明るく輝く、青白い星がぼんやりと映し出されていた。

空を見上げてるときには、あんなに小さい、明るいとそれくらいは分かるだけなのに、ちょっとぼやけながらも、その輝きがはっきりと見える。

ただ、感想としては、それだけになってしまう。

ちょっとがっかりした気分で目を離して、彼女に向き合う。


「えっと、ちょっとぼやけてるけど、綺麗だよ。」

「あ、ぼやけてるんだ、そっか、調整しなおそうか。」

「いいや。」


そう言うと、彼女が少しがっかりしたような顔で、こちらに尋ねて来る。


「そっか。どうだった。」

「えっと、おっきく見えるな、くらい。」

「うん、まぁ、そうだよね。」


そう、正直な感想を答えると、彼女は納得したようにでも少し悲しそうな、そんな複雑な表情を浮かべる。


「本当に、他の恒星って遠いから、これくらいの物じゃ、見える物を大きくはっきり、少し暗くて、他の光に隠れちゃう、そんな星を見るくらいしかできないんだ。」


そういって彼女は天体望遠鏡をそっと触る。

比べる対象が悪いのだろうけれど、それでも、彼女が使っているものは、それこそ一人でこんなところまで運ぶことを考えれば、十分すぎるほどに大きいものだ。


「その、個人でって考えると、大きいと思うけど。」

「これより大きなのもあるんだよ。個人用でも。でも、それを使っても、太陽系の惑星をはっきり見るのが、限界かな。」

「そっか。ちょっと、残念かも。」

「うん、ごめんね。」

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