Episode:13 Achievement
翌日。朝からまずは魔術研究組合に向かう。俺たちの先生に現時点での報告をするためだ。先生はちょうど組合にいた。
一人ずつ魔術の方向を報告する。魔術の詳細は知られないほうがいい。と先生が言うので、大まかな枠組みだけの話だったが、先生は満足そうだった。少し年齢は近いが、孫のように見てくれていたのかもしれない。俺との会話は少なかったが、女性陣とは結構親密なようだ。
こうして午前中は報告という名の会話を楽しみ、昼飯に心が惹かれ始めたころ合いで、ようやく組合を後にした。
「…。あの男…、聞けば不帰の森で目覚めたらしいが…。いや、しかし…。ありえない。ありえないとは思うが…。彼女も気配を感じたらしい。そうだとすれば、運命はあまりにもいたずらが過ぎるぞ…。」
男の独り言を聞いたものはいなかった。それは果たして誰にとっての幸運なのだろうか。
午後からは冒険者組合に顔を出す。その道すがら、見知った顔を見つけた。
「ロック?」
「ん?…ゼロか?」
「おお。やっぱりロックだ。久しぶりだな。」
「ああ。しかしどこにいたんだ?この都市の外縁で生活していて、半年近く合わないなんてことあるか?」
「ああ。ちょうどあの後奴隷を買ったんだが、二人の才能に惚れてな。この半年はずっと不帰の森で訓練してたんだ。」
「はぁ……。お前の異常性は知っているが、なるほど。後ろのお嬢さん方も人外なんだな?」
「いや、人外というほど人の枠組みから外れてはいないと思うが…。二人で来られると、もう勝てないかもしれない。」
「やっぱりな。十分人外だよ。」
「ちなみにフィルズの近況なんかはわかるか?」
「あいつは厄介払いで不帰の森に行かされたのに帰ってきちまったから、ぎゃくに後継争いに巻き込まれて大変らしいな。ただ、一部の使用人が担ぎ上げているだけで本人にその気がないから、すぐ脱落するだろう。というのは本人の談だ。」
「なるほどね。ありがと。ちなみにこれからの予定は?」
「適当な依頼でも見繕って外に出るか、依頼を受けずに狩りをするかだな。二人は先に組合に行ってるから、そこで集合の予定だ。」
「なるほど。俺らは少なくともあと二週間は不帰の館という宿に泊まっている予定だから、何かあったら訪ねてきてくれ。」
「おう。じゃあまたな。」
その後、流れるように別れたが俺たちの目的地も冒険者組合だったと気づき、組合に向かう。結局、めぼしい依頼がなかったので宿に戻った。
朝起き、組合で依頼を確認し、良いものがなければ街へ繰り出す。おいおいエンデールを出て、別の街へ向かいたいと思っているので、旅の準備を整えることが多い。資金的には余裕があるので、無理して稼ぐ必要もない。そうして二週間ほどだらだら過ごした。だらだらといっても訓練は定期的にしている。技術を高めるというよりは、勘を鈍らせないための訓練だが。そして今日は、二人の武器を受け取る日だ。
「いらっしゃいお兄ちゃん。用意はできてるよ。お嬢ちゃんたちはこっちに来な。」
しばらくすると、二人が装備を変えて出ていた。が、これはなんだ?
「一つ聞くが、これは防具か?」
「お嬢ちゃんたちは絶対にメイド服にしろと言うんでね。動きやすく、丈夫で通気性も良い。その分高価な素材を使ったが、これなら普段からきていられるよ。同じデザインの普通のメイド服もおまけで作っておいた。感謝しなよ。」
「なるほど。まあ二人がこれがいいならこれでいい…と思おう。武器の方は?」
「二人とも変な注文でねえ。赤髪の嬢ちゃんの武器は鞘と刀身が外せる刀。それでいて切れ味もよく、鞘も丈夫にときたもんだ。大変だったよ。金髪の方の嬢ちゃんのは苦無にナイフに、万年筆なんて言うのもあったねえ。細かいのに丈夫なのを作るのは難しい、なんて常識を知らないんじゃないかと何度思ったか。まあほぼ注文通りだろうよ。」
「二人とも、どうだ?」
「完璧です。」
「うむ。初めてとは思えないほど手になじむ。いい腕だ。」
「よし。結局いくらになったんだ?」
「全部で3億ゴルドだね。」
「じゃあこれ。」
「おや、本当に一括払いできるのか。ひとりの装備に1億以上出す仕事なんてめったにないからね。こっちもいい仕事させてもらったよ。」
「ああ。ありがとう。」
正直、装備を頼んでメイド服ができるとは思わなかった。これは、非常に悪目立ちしそうだ。だが、その点を除けば、見た目、性能ともに完璧な装備位といえるのかもしれない。そう思わなければやっていられない。
……よく見ると二人のメイド服は細かい意匠が違う。モナのメイド服には装飾が多く、こうしてみると暗器を隠すのに最適に見える。逆にローズのメイド服は、色合いこそメイド服だが装飾は少なく、動きを阻害しないようにところどころにちりばめられた金属が綺麗に急所を守るように配置されていた。そういう視点で見ると、どちらも恐ろしい装備だ。装備としての機能は非常に高いのに、その見た目はこれでもかと油断を誘う。一度受け入れてしまえば、この装備を作った職人の腕に素直に感動することができた。
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