Episode:12 Nostalgia
帰路。野営準備も手馴れ、行軍の足を緩めずに狩りすら行えるまでに成長した三人と一匹は、行きとは段違いのペースでエンデールを目指している。これまでは、女性陣の成長を目指して行動してきたが、奴隷の身分からすると落ち着かない生活だったらしい。これまでの鬱憤を晴らすかのようにかいがいしく世話を焼いてくれる二人のおかげで、俺は歩く発火装置と化していた。
こうして歩くこと一週間と少し。俺からすればただ歩き続けた一週間だが、彼女らにとっては初めて俺の奴隷、部下、使用人として生活した一週間。忙しないながらも満足げな二人に、俺はただ世話を受ける身分に甘んじている。ただ、そろそろこっちも落ち着かなくなってきた。あちらを立てればこちらが立たずというやつか。
そうこうしていると、結構な人数の集団を発見。あれは冒険者の集団か?しかしここらのレベルであれだけの人数が必要な依頼…。相当強力な魔獣でも出たか?あちらも俺らに気づいたようだし、話を聞いてみよう。
「ずいぶんと物騒な集団だが、何かあったのか?」
「ん?ああ。これはだな、近くの森に都市難級の魔獣が出たらしいから、それの討伐にな。」
「しかし辺境都市の冒険者のレベルなら少し過剰な人数じゃないか?」
「それがこの前領主様の三男が不帰の森の調査から帰ってきてな。長男と次男の後継争いが一気に三つ巴になったんだ。それで次男も手柄を立てようと思ったらしく、この部隊に同行してる。まあその分雇われる冒険者が増えて負担が減るし、報酬はむしろ少し増えたし、俺らは特に文句はないがな。はっはっは。」
「なるほど、ちなみにちらちらこっちを窺っているいるあの婆さんはあんたの知り合いか?」
「ん?あのお方はエンデールの教会の女教皇様だぞ。宗教に入れとは言わんが、このくらいは常識だろう?」
「そか。いろいろありがとう。これも何かの縁だ。名前を聞いてもいいか?俺はゼロだ。」
「俺はチャムだ。それじゃな。」
「ああ。またどこかで。」
「ということらしいが、まあ、俺らは依頼を受けてないから、そこまで関係はないだろう。このまま帰ろうと思うが、反対か?」
「いえ。」
「ローズも?」
「はい。」
「なら帰るか。しかし三男ってフィルズのことだよな…。そうなると俺はフィルズのことは気に入ってるから、領主争いの余波がこちらに来るかもしれない。実力行使をしてくるならば対処できるかもしれんが、権力によるからめ手に対抗するすべはないから、少し警戒すべきかもしれない。」
「なるほど、ご主人様は貴族家とも交友を持たれていらっしゃると。わかりました。情報収集にも少し力を入れましょう。」
「私はその方面には弱いからモナに頼りきりになるかもしれん。」
「わかった。じゃあ二人とも、よろしく頼む。」
「当然です。」「当然だ。」
そうしてさらに一週間。エンデールが見えてきた。帰りにかかったのは二週間強だったか。かなり短縮できた。
「エンデールに入ったら、俺は奴隷商のところにスライムの溶液を持って行く。モナは宿をとってきてくれ。ローズはカリストと冒険者組合でコアや牙を売る担当だ。
「わかりました。」
二人と別れ、【ホーネット奴隷商】へ。入ると、いつぞやの猫背商人がいた。
「ウヒヒヒ。いつぞやの旦那ではありませんかあ。今日は何用で?」
「特殊なものを手に入れたから、ほしいなら売ろうかと思って。」
「おや。気になります。気になりますよぉ。してそのモノとは?」
「
「思ったよりも危険なブツですねぇ。ええ、良いでしょう。買い取りますよ。あなたとの縁は予想以上に重要そうだ。」
「いくらだ?」
「三つまとめて10億。疑っているようですが、この値は適正ですよぉ?むしろ商品の状態を確かめていないぶん良心的だと思いますが。」
「いや、思いのほか高額で驚いただけだ。では商品は裏手にまとめて運んでおこう。それでいいか?」
「ええ、構いません。これが約束の金額です。では、また良い取引を。」
店を出ると、すでに二人とも来ていた。毛皮の売り先を決めてしまったことを謝り、宿に向かう。ローズの方は一億ほどになったらしい。合計十一億。次は武器を新調するために武器屋に行くか。
「こんにちは~。」
「あら、いつぞやのお兄さん。今回はどんな商品をご入用で?」
「今回はオーダーメイドで、この二人の武器、防具を作ってもらいたい。金に糸目はつけないから、二人の要望を100%叶えるものを作ってほしい。」
「あら。また珍しい注文をするわね。でも、その注文ならうちの職人も本気を出しそう。」
「ああ。そう思ったから金を稼いできたんだ。まあ、半分ついでだが。」
「あら、うれしいわね。じゃあお嬢ちゃんたちはこっちに来て。細かな要望と採寸をするわ。」
「じゃあ二人とも、俺はカリストと先に宿に行く。遠慮だけはするなよ。それさえなければあとはお前らの望み通りのものを作ってもらえばいい。」
「はい。その金額以上の働きをお約束いたしますわ。」
「それでいい。ではまた宿で。」
少しは俺の意見も言ったほうがよかったかもしれない。そう思ったのは、二週間後、つまり装備を受け取ってすぐのことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます