第134話 vs.遺跡のスライム
巨大スライムを相手に、セトとサティスは奮闘する。
振り回されるドラゴンキラーを軽い身のこなしで回避しながら、強烈な一刀を浴びせていくも、セトは手ごたえを感じないでいた。
「ダメだ。斬ってもまるで効果がない!」
でかい図体と速度に劣る攻撃。
しかしそれでもなお、ダメージを負っているようには見えない。
「恐らくあれらはすべて多くの死体をまとめて粘液化させたものでしょう。使われたのはきっと巨人たちの……。あのドロドロな状態をどうにかできれば」
「どうすればいい!?」
「氷の魔術で固まらせてみます。魔力を練りますので時間を稼いでください」
「わかった!」
セトはスライムを引き付ける。
サティスの考察通り、スライムを構成しているのは巨人のそれだ。
ところどころに、それらしい骨の一部や頭部が垣間見れた。
斬られた際の痛みや恐怖を感じない敵は、間合い管理や駆け引きなど気にせずにグングンと押し返してくる。
しかも、それだけでなく戦いに関して相応の知恵も働くようだ。
サティスが魔力を練っているのをわかると、内部の骨や石などを吐き出すように発射する。
「────ッ!」
「サティス!」
魔力防護で弾いていくサティス。
それを助けようとするセトだったが、変幻自在の動きで両者を攻撃するスライムに悪戦苦闘する。
セトもサティスも目立ったダメージこそ受けていないが、これまでにない相手に攻めあぐねていた。
「セト、怪我は!」
「大丈夫だ。それよりもどうやってコイツを倒す?」
「魔術さえキチッと使わせてもらえればなんとかできるのですが……」
「……表面を斬っても効果がないなら、その奥を斬るまでだ。もしかしたら、なにか『核』になるものがあるかもしれない」
ふたりだけでは対処しきれない。
そんなとき、ヒュドラとラネスがこちらへとやってきた。
「セト! サティス! 無事か!?」
「なんて酷い……。ほかに逃げ遅れた者は!」
「ラネス様、危険です! ここは我々に任せてください!」
「ヒュドラ、援護を頼む!」
「わかった!」
ヒュドラは宝剣『
ラネスは避難を求められど状況を察知して、サティスを守るように彼女の前に立った。
「ずいぶんとバカでかい……えっと、なんだこれは」
「スライムらしい……中身はミイラとか死体とかだ」
「度し難いな……」
セトとヒュドラは左右からの攻撃。
魔剣と宝剣が唸りを上げてその肉体を斬った。
その直後。
────ジュゥゥウウウウウウウウウウッ!!
「今のは!?」
「信じられない。切っ先で少し抉っただけなのにッ!」
明らかにセトとの違いがあった。
ヒュドラが試練の末手に入れたその宝剣は、こうした邪悪なものに対する特効が見られるようだ。
これは好機だと、セトはヒュドラを攻撃の要とし、彼女の援護も兼ねる動きをしていくことにした。
「ヒュドラ、俺が援護する。アンタはこのスライムの核を探しだして攻撃してくれ!」
「セト、だが……ッ!」
「俺も魔剣で攻撃しながら探っていく。必ず弱点はあるはずなんだ。これ以上暴れさせるわけにはいかない。時間はないぞ!」
迅速な判断力を以て、セトは指示を出し、そのままスライムへと肉薄していった。
かつての戦場でつちかった一瞬の状況判断が最適解を打ち出す。
(セト……すぐに魔剣解放をして、あの肉塊を何度も斬り裂いている。……私も、いつまでも守られているわけにはいかない。むしろ私が、守らなければならないんだ!!)
ヒュドラもその身を前へと踊り出した。
セトの太刀筋とはまた違うものだが、柔軟な軌道を描く剣閃はものの見事に襲い来るスライムを薙ぎ斬っていく。
ふたりの剣がスライムを足止めする中、距離をとりながら魔力を練っていたサティスはついにその真価を発揮した。
「ふたりとも、一旦下がってください!」
掌から放たれる氷の息吹がスライムに襲いかかる。
「ギィヤァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
粘着物が凍りつくような音とつんざくような断末魔が響いた。
スライムはもだえるように身体を激しく震わせながら、氷結していくのを防ぐ。
「今だ! 一気に斬り込むぞ!」
「あぁ!」
セトとヒュドラが再び斬りかかろうとした直後、スライムの行動に変化が起こった。
なんとそのまま後退し逃げ出そうと石棺やその間を這いずり回り始めたのだ。
「コラ逃げるな!」
「ヒュドラ、そっちから行ってくれ!」
「承知ッ!」
ふたりの素早い立ち回りで、どんどん追い詰めていく。
サティスも射程圏内に収めようと近づいていった。
「すごいな……さすがはアダムズが認めただけはある。……だが、あのスライム。どんどん奥へ……ハッ!」
ラネスはスライムの目的に気がついた。
「あのスライムを奥へ追いやるな! 恐らく目的はあの結晶だッ!!」
その言葉にセトが一瞬身を震わせてスライムを睨み、一気に距離をつめようと跳躍した。
だがその動きよりも半歩早くにスライムが地面へと勢いよく潜り込んだ。
「クソッ!」
魔剣を空振り、大穴を睨みつける。
次の瞬間には結晶のある方向から地面が隆起し、そこからスライムが現れて……。
「なっ!?」
「結晶を……丸呑みした?」
セトの母が眠る結晶が巨大な肉塊の中へと入り込む。
次の瞬間にはスライムはグロテスクな音を立てながら、時折隙間から輝きを漏らしつつ、ドラゴンキラーを豪快に振り回す。
「まさか……パワーアップしたのか?」
「その可能性は高いです。先ほどからあのスライムの内部のエネルギー量が増大しています」
「あの結晶からパワーを得ている?」
「……あの結晶があり続ける限り、あのスライムを倒すのは難しくなりそうだな」
「セト……?」
「皆、もう一度力を貸してくれ。今度こそ叩きのめす。ヒュドラ、頼む」
「わかった。無理はするな」
サティスはこのとき、セトの瞳が大きく揺れて、そのあとに恐ろしいまでに鋭く残酷な眼光に切り替えたのを見逃さなかった。
「────行くぞ!」
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