『⑧王野翔の実家』

 8月17日(火) 10:00〜


 翌日、俺たちが目を覚ましたのは午前10時過ぎだった。

 別々の部屋で寝ていたはずなのに、何故か姫香が俺の隣に眠っていた。


「なんで・・・・・・」


 どうしてこうなっているのか全く記憶にない。

 姫香は俺の胸の中ですやすやと可愛らしい寝息をかいている。

 

「とりあえず、朝だし起こすか」

 

 俺は姫香の方を揺すった。

 眠りが浅かったのか、姫香はすぐに目を覚ました。


「ん〜。あれ?翔君がどうしているんですか?」


 姫香が目を擦りながらそう言った。


「それは、こっちのセリフなんだが?ここ、俺の部屋だし」

「え!?」


 姫香は驚いて、起き上がると、部屋の中を見渡した。

 そして、自分が何をしたのかに気が付いたらしい。


「ごめんなさい。私・・・・・・トイレに行って、翔君の部屋に間違えて入っちゃったみたいです」

「いや、いいんだけどな。ちょっとびっくりしただけだし」

「寝ぼけてて・・・・・・」

「うん。分かってるよ。可愛いから許す」

「な!?か、可愛くないです!恥ずかしいだけです・・・・・・」


 そう言って、姫香は真っ赤に染まった顔を両手で隠した。

 そんな仕草も可愛いんだけどな。これ以上言ったら、部屋から出ていきそうだったのでやめておいた。

 せっかくなら、この2人の時間を楽しみたいしな。


「まぁ、寝ぼけて部屋間違えるなんて、俺の家ではよくあることだから、あんまり気にするな」

「そ、そうなんですか?」

「うん。俺もしょっちゅう間違えてた」


 何故なら、俺の家の二階の部屋は全てが同じ扉で、なおかつ、どこが誰の部屋なのか書いてないからな。

 しかも、姫香は俺の家に久しぶりに来たんだ。寝ぼけていたら間違えるのも無理ない。


「だから、あんまり気にしなくてもいいよ」

「・・・・・・次からは気をつけます」


 若干しょんぼりとしていた姫香の頭を大丈夫だよ、と撫でた。


「そういえば、お父さんの小説はどうだった?」

「とても面白かったです。私、SF小説って初めてで、どんどんとその世界観に引き込まれていってしまいました」

「それは、よかった。他のが読みたかったら借りて帰ってもいいからな。まぁ、図書館にもあるけどな」

「そっか。今日帰るんでしたね。私たち」

「次は姫香の実家に行かなきゃだからな」

「なんだか、名残惜しいです」

「別にまた来ればいいだろ。もう、姫香は家族みたいなもんなんだし」

「え、それって・・・・・・」


 姫香が目を丸くして驚いた表情で俺のことを見ていた。

 

「ん?俺何か変なこと言ったか?」

「いえ・・・・・・そうですね。また、来たらいいですね」

「うん」


 姫香は照れ臭そうに笑っていた。

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