第331話 久しぶりのシュガニス

「あっレオン、帰って来たんだね!」


 今日お店に行くと連絡しておいたからか、店内に入るとすぐにロニーが出迎えてくれる。


「ロニー久しぶり」

「怪我とかないよね? 大丈夫だった?」


 ロニーは怪我がないかを確認するように、俺の周りをぐるぐると回り始めた。俺は思わずその様子を見て笑ってしまう。


「どこも怪我してないし大丈夫だよ」

「本当? でも魔物の森の中にいたんだから、危険なこともあったでしょ」

「確かにあったけど大丈夫だったよ」

「……そっか、それなら良かった」


 ロニーは自分の目で見てやっと安心したのか、ほっとしたように顔を緩めた。


「ロニーはどうだった? シュガニスは上手くいってる?」

「うん! 凄く絶好調なんだよ。あと一時間ぐらいでお客さんも来るし奥の休憩室で話そうか」

「そうだね」

「あっ、でもその前に新しい従業員を紹介させて」


 店内には見たことのない顔がちらほらとあり、俺がお店に入った段階で仕事の手を止めて頭を下げてくれている。


「皆顔を上げて。レオン、あっちにいるのが給仕として雇った三人、それから壁際にいるのが警備として雇った二人だよ。料理人として雇った二人は厨房にいるからまた後で紹介するね」

「ありがと。皆初めまして。俺はレオン・ジャパーニスです。このお店は貴族もたくさん訪れるし大変だと思うけど頑張って欲しい。よろしく頼むよ」

「かしこまりました。精一杯努めさせていただきます」


 俺の挨拶に五人は再度頭を下げた。五人とも礼儀や敬語はもう身についてるみたいだし、全く問題なさそうだ。


「それから他の皆も久しぶり。また今日からは王都にいるからたまに見に来るね」

「お久しぶりでございます。ご無事のご帰還、心より嬉しく思います」


 アンヌが代表してそう答えてくれた。アンヌやエバン、他の皆も久しぶりに見るな。孤児院から雇った子達は結構成長したかも。顔つきが大人っぽくなった。


「ありがとう。これからもよろしくね」

「じゃあレオン、奥に行こうか。皆はいつものようによろしく。今日は高位貴族の方が来るから失礼のないように、何かあったら僕を呼んでね」

「かしこまりました」


 ロニーが従業員にそう声をかけて、俺達は奥に向かってドアを潜った。

 さっきから思ってたんだけど、ロニーが店長っぽくなってる気がする。やっぱり予約を開始して店長としてお客様と接することも増えたからかな。一気に成長した感じだ。


「なんかロニー、カッコ良くなったね」

「本当!?」

「うん。前よりも大人っぽくなったというか、店長が板についた感じ」

「それ嬉しい! 貴族様と接することも多いし、舐められないように店長として侮られないようにって頑張ったんだ」

「凄いよ。前とは全然違う」

「じゃあ僕の努力の方向性は間違えてなかったってことだよね。良かった」


 俺もロニーに負けないように頑張らないと。ロニーに会うといつももっと頑張ろうと思える。本当に最高の親友だ。



「皆ちょっと手を止めてくれる? あっ、手が離せない人は区切りが良いところまではやっても良いよ」


 ロニーは厨房に入るとそう声をかけ、料理人たちは各々キリの良いところでケーキを作る手を止めた。俺は全員が手を止めたところで一歩前に出て口を開く。


「皆久しぶりだね。元気だった?」

「レオン様! ご無事のご帰還とても嬉しく思います。レオン様から教えていただいた新しいメニューを少しずつ開発しておりますので、またお時間ができましたらご試食をお願いいたします」

「凄いね、さすがヨアン。また時間を作って試食させてもらうよ」

「はい!」

「それからそっちの二人が新しい料理人かな?」

「は、はい。ジャパーニス大公様、お初にお目にかかります」


 料理人は女の子が一人と男の子が一人だった。二人が慌てて跪いたので俺は緊張させないように声をかける。


「そこまでかしこまらなくても良いよ。新しいレシピを覚えるのは大変だと思うけど頑張ってね」

「かしこまりました。精一杯頑張ります!」


 二人ともやる気十分みたいだ。この分なら今の主要メンバーが抜けてもお店を回していけそうかな。


「じゃあ皆、また後で」


 そうして厨房にも挨拶をして、俺はロニーと一緒に休憩室に向かった。そして中に入るとそこにはアルテュルがいた。


「アルテュル久しぶり」

「レオン様、お久しぶりでございます」


 アルテュルは俺のことを跪いて待っていて、頭を下げたままそう挨拶をした。やっぱりまだアルテュルとの距離は縮め切れてないな。……まあ段々とだよね。


「このお店での仕事はどう? アルテュルをここに置いて俺はすぐに出立しちゃったから、全然フォローできなくてちょっと気になってたんだ。弟妹のこともあったし」

「ここでの仕事はやりがいもあり、とても楽しい毎日を過ごしております。ロニーは丁寧に仕事を教えてくれますし、他の従業員も私のことを特別意識することなく接してくれます。さらに弟妹は従業員寮の方で健やかに暮らしており、今では毎日楽しそうです。全てレオン様のおかげです……本当に、本当にありがとうございます」


 そっか、弟妹ももうここでの生活に慣れたのかな。それなら良かった。泣きながらここに来たときは本当に可哀想だったからね……


「そう言ってもらえて良かったよ。これからアルテュルにはこのお店を任せたいと思ってるからよろしくね」

「精一杯努めさせていただきます」

「よしっ、じゃあアルテュルも座って。そんなところに跪いてたら話しにくいよ」

「いえ、私はここで構いません」

「いやいや、俺が話しにくいからね。はい、立とうか」


 俺はずっと跪いたままのアルテュルの腕を取り、半ば強引にソファーに座らせた。ちょっとぐらい強引じゃないとアルテュルの態度は変わらなそうだし、これからはこうしよう。


「俺がいなかった間の話を聞かせてくれる?」

「もちろん。じゃあまずは新しい従業員のことから。さっきも紹介したけど給仕担当が三人、警備担当が二人、料理人が二人の合計七人を新しく雇うことにしたよ。教会に募集を出して面接して採用したのが五人、一人は僕がいた孤児院から、もう一人はヨアン推薦の子。全員とても真面目に働いてくれていて今のところは問題ないかな」

「うん、そこはロニーを信用してるよ。従業員寮の部屋は足りてるかな」


 七人も増えたらさすがに足りない気がする。増築しないとダメかな……


「一人一部屋は無理だけど、広い部屋だから二人部屋にして対応してるから大丈夫だよ。それに大公家の屋敷が完成したら何人も引っ越すでしょ? そうしたらまた部屋が余るかな」


 二人部屋にしてるのか……確かにあの部屋ならベッドが二個ぐらい余裕で入りそうだった。


「それなら増築とかは考えなくて大丈夫?」

「うん、今のところはね。ただこれからも店舗を増やしてさらに従業員を寮に住まわせるのだったら、増築や寮をもう一つ増やしたりが必要かな」


 これからも店舗は増やす予定だけど……全員に寮に住んでもらわなくても良いかな。自宅がある人はそこから通ってもらうことも視野に入れよう。その上で足りなかったら増築か、もう一つ建物を買うかだな。


「了解、これからは増やすことも考えるよ」

「ありがと。じゃあ次はレオンがいなかった間の予約状況についてね」


 ロニーはそう言って、机の上に置いてあった紙を手に取った。

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