第330話 ロジェの今後

 昨日は帰って来て皆とお茶を飲み、それからは夕食も食べずにベッドに入ってひたすら眠った。やっぱり相当疲れていたみたいだ。安心できる屋敷に戻って来て、一気に疲れが襲って来て抗えなかった。


 でもそのおかげで今日は朝からとてもスッキリとしている。久しぶりに最高の目覚めだ。ちょうど今から一週間後に王立学校の卒業試験があるらしく、俺も受験するのでそれまでは仕事も休みとなった。なので今日から一週間は色々とやりたいこと、やるべきことをこなしていこうと思う。

 まず今日の行き先はシュガニスだ。俺が魔物の森に行っている間の経営状況も聞きたいし、新しい従業員との顔合わせも済ませたい。


「レオン様、馬車の準備が整いました」

「ロジェありがとう。じゃあ行こうか。ローランも護衛よろしくね」

「はっ」


 ロジェは他の人が見てわからない程度だけど少し口元が緩んでるし、ローランは俺が言葉を発するごとに感激している。俺に仕えられることをここまで喜んでくれる人がいるのって本当にありがたいよね。そして凄く嬉しい。

 俺は自分の顔が緩むのを止められず、ちょっとニヤニヤしながら馬車に乗り込んだ。ファブリスは馬車の隣を歩いて付いて来てくれるみたいだ。ファブリスのことも皆に紹介しないとだからね。


「そういえばロジェ、兵士の募集ってどうなってる?」

「王都中の教会に募集を出してまして、予想以上の応募が来ております。レオン様が全員を面接するのは不可能な人数でしたので、私が全員と面談して数を絞っておきました。……よろしかったでしょうか?」

「そんなに応募が来たんだ」

「はい。千人を超えまして……」

「え、そんなに!? ということは、ロジェはその全員と面談してくれたってこと……?」

「公爵家の兵士詰所をお借りして全員と面談いたしました。その中で魔力量が多く体格に優れ、人格にも問題がなさそうな人物を五十人ほど選出しておきましたので、最終的な判断はレオン様にお任せいたします」


 千人を超える人数と面談なんて、一日中やっても終わらないよね……本当にロジェには感謝だ。


「ロジェ、本当にありがとう。かなり大変だったよね」

「いえ、レオン様がいらっしゃらないことで私の仕事は殆どありませんでしたので、そこまで負担にはなりませんでした」

「それなら良かった、本当にありがとう。じゃあその五十人とは俺が直接話をするね」

「かしこまりました。日程はいつがよろしいでしょうか?」

「そうだね……今日から一週間は仕事がないから、できればその間が良いかな」


 屋敷もそろそろ出来上がるだろうし、もう雇っても問題はないだろう。あとは早めにリシャール様に相談して、これから雇うメンバーをまとめる立場に就いてもらう人も決めないとだな。


「では早速明日で日程を調節いたします。その五十人はレオン様がいらしたらすぐに召集できるよう、中心街近くのアパートに滞在してもらっていますので。その滞在費用は大公家の予算を使わせていただきました」

「分かった。色々と本当にありがとう」


 ロジェには俺がいない間に大公家の予算を使っても良いと言っておいたのだ。ロジェなら信頼できるし絶対に有意義な使い方をしてくれるだろうから。

 やっぱりロジェが大公家の執事に最適なのかな……でもこの国って執事は従者でなくなるから、もしロジェを執事にした場合は従者を別の人にしないとなんだ。

 もちろんロジェだけじゃなくて従者は増やす予定なんだけど、ロジェはずっと従者としていて欲しいんだよね……


 でもロジェは執事になりたいかな? やっぱり執事って皆の上に立つ立場だし、そこを目指してる人も多い。


「ねぇ、ロジェ……」

「何でしょうか?」

「大公家の執事をお願いしたいって言ったら、ロジェはどうする?」

「執事ですか……」

「うん。ロジェは信頼できるし、ロジェがトップに立っていたら使用人は問題なく働けるんだろうなって思うから。ロジェの本心を教えて欲しい」


 俺のその言葉に嬉しいような少しだけ寂しいような複雑な表情を浮かべて、ロジェは深く頭を下げた。


「過分な評価をいただき光栄です。……もしそれが命令であれば、もちろん執事として精一杯勤めさせていただきます。しかし私の望みとしては、執事ではなくレオン様の従者として仕えさせていただきたいです」


 ロジェは真っ直ぐな揺らぎのない瞳でそう告げた。


「本当に? ほとんどの人は執事になりたいって言わない?」

「そうかもしれませんが、私はレオン様に直接お仕えできる立場の方が嬉しいです」

「……そっか、本音を話してくれてありがとう。じゃあロジェはこれからも従者としてよろしくね!」


 ロジェがこれからも俺の従者としていてくれるとなって、俺は予想以上に心が浮き上がるのを感じた。


「良いのですか?」

「うん! 俺としてもロジェには従者でいて欲しかったんだ。でもロジェは執事になりたいかなと思って」

「そうでしたか。それならば私は従者のままでお願いいたします」

「もちろん。これからもよろしくね」


 俺はほっと息を吐き出して少し体の力を抜いた。結構体に力が入ってたみたい。


「レオン様、私も一生レオン様をお守りいたしますっ!」


 ロジェと俺の話が一段落したところで、ずっと話を聞いていたローランが突然そう宣言した。ちょっと声が大きすぎてびっくりしたよ……


「ローランありがと。心強いよ」


 最初は大変そうって思ったけど、ここまで言ってくれる護衛って本当に貴重だよね。それにローランは職務には忠実だし、雇ってみればかなり優秀な護衛だ。


「レオン様を絶対にお守りできるよう、より精進いたします!」

「本当にありがとう。これから雇う護衛とも協力してよろしくね」

「もちろんです」



 そうしてロジェとローランと久しぶりにゆっくりと話しつつ馬車に揺られていると、シュガニスに到着した。馬車を降りるとかなり注目されているみたいだ。確実にファブリスの影響だね。


「ファブリスお疲れ様、馬車に乗れなくてごめんね」

『別に構わん。それよりも人間に凄く見られているぞ』

「まあしばらくは仕方ないよ。ファブリスが珍しいんだと思う。もし何か嫌なことを言われたりされたりしたらすぐ俺に言ってね。間違えてもファブリスはやり返さないで欲しい。やり返しても良いのは、そうしないと命の危険がある時だけにして」

『分かっている。しかしこの世界で我に傷をつけられるのは主人ぐらいだ』

「それもそうか。……そういえばさ、なんで馬はファブリスを怖がらないのかな? 魔物の森では魔物は逃げて寄ってこなかったでしょ?」

『それは我が気配を消してるからだ』


 気配を消すなんてことできるんだ。俺には全く違いがわかんないけど……人間の世界で暮らしていくのなら便利で良いね。


「そんなことできるんだね」

『我には造作もないことだ』

「ふふっ、凄いね。じゃあお店に入ろうか……と言ってもファブリスは入れないか。じゃあファブリスは裏庭に行っててくれる? このお店は裏庭があって、そこならファブリスでも入れるから」

『分かった。では行ってるぞ』

「うん、ちょっと待っててね」


 そうしてファブリスを裏庭に送り出し、俺はロジェとローランと共に店内に入った。中に入ると既に予約販売は開始しているので店内は豪華に彩られていて、中ではたくさんの従業員が働いていた。

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