第192話 お金の話 前編

 俺の収入は、光球の改良とスイッチの技術登録をした段階では、三週間に一度振り込まれる収入が白金貨五枚ぐらいだった。

 でもその後にピュリフィケイションの魔法具など各種魔法具を開発、登録して、魔石連結の技術も登録して、それからは馬鹿みたいに収入が増えている。

 実は魔石連結や各種魔法具は基本的に皆と連名で登録したんだけど、皆が収入の等分はおかしいと主張して、九割が俺で残りの一割が皆で分配になっているのだ。だからかなりお金が入ってくる。

 さらに魔石連結では王家から報奨金も貰えたんだよな。なんと、白金貨一千枚だ。もう桁が増えすぎて良くわからない。


 それから、毒除去の魔法具を王族やタウンゼント公爵家の方々に密かに作ったものも、ひとつ白金貨百枚ほどで買い取ってもらえたし、定期的に魔力を込め直す際にもかなりの金額を貰っている。

 また、マルセルさんが俺の代わりに登録してくれた製氷機と火魔法の魔法具三つ。これはマルセルさんから開発時に白金貨五枚を貰ってるのに、予想以上に収入が多いということで、マルセルさんが勝手に俺の口座に収入の半分以上を振り込んでくれるのだ。

 最初はいらないって言ったんだけど、マルセルさんはレオンが考えたものだ、と言って譲らないから渋々受け取っている。実際に三週間で白金貨数枚は振り込まれてるから、本当に最初の値段設定は少なかったみたい。マルセルさんも驚いていた。


 マルセルさんが光球を作った時はまだ魔石と魔鉄があまりなくて、光球を開発しても一気に流通しなかったことで、収入が急に増えることはなかったらしいのだ。

 でも今は魔石と魔鉄が豊富にあるから、収入が驚くほど一気に増えたみたい。さらに戦争が終わってしばらく経ち、魔法具にお金を使える貴族が増えたことも要因の一つだろうと、マルセルさんが言っていた。



 そんな感じで定期的に大きな収入がある。さらにそれプラス、屋台も黒字経営で収入があるし、マルティーヌの先生をしていた時も給金が出たし。そういう細々とした収入もあるのだ。

 だからもう、とにかくお金が貯まる。全く使いきれていない。


 よって今の俺の口座には、白金貨三千枚から四千枚くらいある。いや、最近確認してないからもっとあるかも。

 使用料は三週間に一度振り込まれるからどんどん増えていくし、さらに他にも収入源はあるから……うん、多分もっと増えてる。

 そういうわけで、今の俺の資産は白金貨数千枚ほどなんだ。


 俺はとりあえずロニーにその金額を告げるため、顔を近づけて周りに聞こえないよう少し小声で言った。


「最近見てないから正確な数字はわからないんだけど、多分白金貨三千枚か、四千枚くらいはあるかも」


 俺がそう言うと、ロニーは何を言われたのか良くわからないような顔をして首を傾げた。


「……えっと、……レオン? さっき、理解できないような金額が聞こえたんだけど、僕の聞き間違い、だよね?」

「ううん。白金貨三千枚から四千枚ぐらいだよ」

「け、桁を間違えてない……? 三十枚じゃなくて?」

「間違えてないよ」

「…………」


 俺が改めてそう言うと、ロニーは完全に固まってしまった。処理しきれない情報に困惑しているらしい。

 その気持ちわかる。そこまで金額が上がると、どれほどの金額なのかイメージしづらいんだよね。多分ロニーは、今必死に身近にある一番高いものを思い浮かべて、それが何個分買えるのかを考えているのだろう。

 わかる、俺もそれやったから。


 だけどそれでもこの金額がどれほど多いのかは、俺もまだ良くわかっていないんだよね。

 とりあえず、身分としてはただの平民の子供である俺が持っているお金としては、あり得ない程多いことは確かだ。

 でも、貴族の資産と比べてどうなのか、大商家の資産と比べてどうなのか、はたまた国家予算と比べてどうなのか。その辺を比べられないのでよくわからないのだ。

 まあ、流石にその辺よりは少ないと思うんだけど……。でもダリガード男爵家とかはもっとお金なさそうだったし、貴族と言っても下位貴族はそんなに資産がないのかもしれないよな。


 俺が最初にこの国のお金を日本円に換算してみたところによると、白金貨は一枚で百万円ほどになったんだ。だから単純に考えると、俺の資産は日本円にすれば数十億円ってことになる。でもこの換算があっているのか、確信が持てない。

 実際にお店を始めるのに掛かった金額などから考えると、俺の資産があれば中心街に何十店も何百店もお店ができる程になるんだ。

 数十億円あれば、東京の一等地に独立店舗を何十店も何百店も持てるのだろうか? 日本で東京にお店を開こうなんて考えたことないから詳しくはわからないけど、答えは否だろう。


 そう考えるとやっぱり、日本円換算はもう一桁、桁を増やすべきなのかな? でもそうすると、安い方の貨幣が高く換算しすぎている気もするんだよね……。こうして思考はいつも堂々巡りだ。

 結局はこの国と日本じゃ物価もかなり違うし、平均収入も違うだろうし、単純に比べられないんだよね。

 この国は貴族がいるからなのか物の値段は差が激しいし、人々の収入も中間層がいなくて貧困層と富裕層しかいないような感じだし、土地や建物は安いのに馬鹿みたいに高い食べ物とかあるし……



 と、俺がそこまで考えたところで、ロニーが遂に口を開いた。随分と長い間固まってたな。


「ええと……レオン? 本当の本当に、本当に、白金貨三千枚以上もあるの……?」


 ロニーは恐る恐るそう聞いてきた。やっと事態が飲み込めてきたらしい。


「うん。本当だよ」

「そっか…………。もう、金額が大きすぎて、よくわからないよ」

「実は俺もよくわかってないんだ。凄い金額だろうってことはわかるんだけど……」

「うん、とにかく凄い金額だよ。僕、レオンはお金を持ってそうだったから、資産は白金貨数十枚ぐらいかなって予想してたんだ。多くても百枚ぐらいだろうって。でも、数千枚だなんて……凄すぎるよ。まあとりあえず、お金の心配がいらないってことはわかった」

「うん、その認識でいいよ。とりあえずお金の心配は全くいらないかな。お店を始めるのにお金はかかったけど、その分以上にもう増えてるから」

「そっか……」


 ロニーはそう言ってまたしばらく黙ったあと、急にさっきまでのどこかぼんやりとした顔からキリッとした顔になり、瞳に決意を浮かべて言った。


「でも、それはレオンの収入で補填できてるだけで、このお店の収支って考えたら完全に赤字だからね。多分レオンはそれだけお金があると赤字でもいいとか思ってそうだけど、商売をやるからには黒字にしないと!」


 ロニーは急に頼りになる表情になってそう言った。うん、やっぱりロニーは頼もしい。

 ここまでお金があるのならお店経営なんて適当でもいいじゃんって考えるんじゃなくて、それでもちゃんとしなきゃダメだよって言ってくれる人は、本当に貴重だ。大切にしないと……


 ……ロニーと友達になれて、本当に良かった。


「そう言ってくれてありがとう」

「当然だよ、僕は店長だからね! それで、今までいくらぐらいかかったの?」

「うーん、建物の値段、改装費、各種魔法具代金、そのほかにも細かいものが色々と掛かって……。全て合わせて、白金貨四十枚ぐらいかな」


 日本で東京の真ん中に広くて立地も良いおしゃれなカフェを買って、中を改装して綺麗にして、各種機械も全て新しくして、そんなことをしていたらいくらかかるかわからないだろう。

 それがこの国では全部合わせて白金貨四十枚ほどなのだ。日本円換算があっているのかわからないけど、換算すると四千万円ほどだ。


「白金貨四十枚……凄く高いんだけど、普通に考えて平民には一生かかっても稼げないような金額なんだけど、さっきの金額が凄すぎて、安く感じてる自分がいるよ……」


 ロニーはそう言いつつ、愕然とした表情を浮かべた。


「わかる。俺も結構安いんだなと思ったから」


 でも思い出してみたら、数年前は中心街までの乗合馬車料金である銅貨一枚が払えなかったんだよな。お小遣いを全部合わせても小銅貨数枚、日本円にして数百円だったんだ。更に屋台で買う鉄貨数枚、数十円の串焼き肉をめちゃくちゃ高いと思ってた……。実際平民には安くないものだ。

 ……その頃を忘れないようにしよう。


「ロニー、そうなった時は昔を思い出せば大丈夫だよ」


 俺がそう言うと、ロニーは昔の生活、とは言っても数ヶ月前の生活を思い出したのか、急に慌て始めた。


「レ、レオン、改めて考えたら白金貨四十枚なんて……そんな大金取り戻せるかな!? なんか不安になってきたよ……」

「大丈夫だよ。力を合わせればいける」

「……そ、そうだよね。うん、僕頑張るよ。なんか凄くやる気出てきた!」


 ロニーは拳を握りしめて、キラキラした瞳でそう言った。


「じゃあ、一緒に頑張ろうか!」

「うん! それじゃあ、たくさん話し合わないといけないことがあるよ。まずは商品をどれほどの値段で売るのかと、これからの経費について計算してみよう。まずは経費より売り上げが高くないと、どんどん赤字が膨れちゃうからね」


 ロニーはそう言って、カバンから紙とペンを取り出した。そしてそこに今まで話したことをメモしていく。さらにどんな経費がかかるのかも書き出しているようだ。

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