第108話 騎士団の訓練場
「皆さん集まっていますか? 訓練場の前に馬車がありますので、それに乗ってください」
先生のその言葉で、俺たちは馬車に向けて歩き出した。その途中で、マルティーヌが俺に近づいて小声で話しかけてくる。
「レオン、あの子は何ですか?」
「私もよく分からないのですが、ちょっと不思議な子みたいです。悪い子ではないと思うのですが……マルティーヌ様はステイシー様のことを知っていましたか?」
男爵家はたくさんあるだろうから知らないかもしれないけど、あそこまで不思議な子なら有名になっていてもおかしくないよな。
「初めて知りましたわ。確かに悪い子ではなさそうでしたが……レオン、屋敷に行くと約束していましたが大丈夫ですの?」
「私では判断できませんので、リシャール様に相談しようと思います」
「それが良いですわね。そうですわ、先ほどは助けてくださってありがとう」
「いえ、マルティーヌ様にはいつも助けていただいているので」
「それでも助けようとしてくれたことが嬉しかったのです」
そんな話をしながら馬車に乗り込んだ。馬車はしっかりとした作りの馬車で、座面にはクッションもある。豪華な作りではないが乗り心地は悪くなさそうだな。
馬車には先生も一緒に乗るので、なんとなく緊張感漂う雰囲気になっている。馬車に乗ってから誰も一言も話さない。
この先生って悪い先生じゃないと思うんだけど、厳格な雰囲気というか、融通が効かなそうな雰囲気というか、背筋がビシッと伸びる感じなんだよな。気軽に話しかけられる雰囲気ではない。
俺は揺れる馬車の中で雰囲気に押されて、出来るだけ姿勢良く保てるように頑張った。そのおかげで到着した時には、身体中が痛くて疲れたよ。次からはもう少しリラックスして乗ろう。
騎士団の訓練場は王宮のかなり近くにあるみたいだ。馬車から降りるとすぐそこに王宮が見える。何かあったら迅速に守れるようになんだろうな。
俺たちが馬車から降りると、一人の騎士が出迎えに来てくれた。背が高くてかなりガタイが良さそうだ。
「今年もよろしくお願いいたします」
「こちらこそ回復してもらえるのはありがたいです。回復魔法を使える人は少ないですし、魔力量も限りがありますので。回復魔法を使って治すほどでもない怪我はそのままにしていますし」
「ありがとうございます。そう言っていただけるとこちらとしても頼みやすいです」
「王立学校は皆の母校ですからね」
そんな話をして先生は俺たちの方を振り返った。
「こちらは第三騎士団の騎士の方です。これからの授業では、第三騎士団の訓練に参加させてもらうことになりますので、迷惑をかけないようにしっかりと練習に励んでください」
「はい」
返事をしながら俺は疑問に思った。第三騎士団ってことは、昨日聞いた魔物の森に行ってる騎士団だよな? 王都にいることもあるんだな。王都で何をやってるんだろう?
先生に聞こうと思ったが、先生は騎士の方に続いて訓練場の方に歩いて行ってしまった。先生早いよ!
とりあえず後でリュシアンにでも聞いてみればいいか。そう思って俺も歩き出すと、隣にマルティーヌがやって来た。
「レオン、何か疑問点があったの?」
「え? 何でわかったのですか?」
俺は小声でそう返す。
「レオンは考えていることが顔に出るのでわかりやすいのです。それで何が疑問だったのですか?」
そんなに顔に出てる!? 最近ポーカーフェイスができるようになったと思ってたのに! 俺はかなりショックを受けつつマルティーヌの質問に答えた。
「先程先生が、第三騎士団と言っていたことが気になったのです。第三騎士団は魔物の森にいるのではないのですか?」
「基本的にはそうですが、王都に家族がいる者もおりますし、定期的に王都に帰ってきてこちらで訓練することになっているわ」
「確かにそうですね。知りませんでした」
「レオンに教えられるなんて嬉しいですわね! 今までと逆ですわ」
マルティーヌが最後の言葉を、殊更小さな声で呟いた。確かに今までは俺が先生だったからね。
「マルティーヌ先生。これからもご教示いただけますでしょうか?」
俺が少しふざけた声音でそういうと、マルティーヌが途端に嬉しくて誇らしいような顔になった。めちゃくちゃ可愛い。
「もちろんですわ!」
マルティーヌが笑顔になってくれて良かった。さっきから怒ってたり戸惑ってたりの表情が多かったからな。やっぱり笑顔が一番だ。
「この先が訓練場です。危ないので一人で動かずに、皆で固まっていてください」
マルティーヌとそんな話をしていると、訓練場に着いたみたいだ。俺たちは馬車を降りて一度建物の中に入り、その中をしばらく歩いてまた扉の前に立っている。この扉の先が訓練場なんだろうか?
騎士の人がその扉を開けると、その先は広いグラウンドのようなところだった。たくさんの騎士が剣を持って訓練している。魔法を使ってる人もいる。
凄い……! 凄くカッコいい! これこそ男の憧れだ!
俺たちが訓練場に入ると、壮年の騎士って感じでかなりカッコいい騎士の方がこっちに歩いて来た。
凄くカッコいい! 強そうだ!
「私は第三騎士団の団長をやっている、ジェラルド・フェヴァンだ。皆の回復よろしく頼む。王女殿下もよろしくお願いいたします」
「私は授業で来ているのだから一生徒ですわ。皆と同じように接してください」
「かしこまりました。では皆こっちに来てくれ」
フェヴァンって聞いたことあるな……確か侯爵家だったはずだ。最近は頑張って貴族の名前を覚えてるのだ。
フェヴァン侯爵家はタウンゼント公爵家と同じ勢力だったはずだから、この人はそこまで警戒する必要はないな。
王家が女神様と使徒様の支持を明確にしたことによって、今まで以上に気をつけないとだから大変だ。ただ、今のところは今までとの違いはあまりない……アルテュル様はどう思ってるのだろうか?
とりあえずまた絡まれるまでは様子見かな。
それよりも、第三騎士団の団長ってことはフェヴァン侯爵家を継いだわけではないんだよな。それなら次男や三男で騎士一筋なのかも。
そういえば……フェヴァン騎士爵家ってあった気がする。もしかしたらこの人がフェヴァン騎士爵なのかもな。貴族の身分はややこしくて難しい。
「ここに座ってくれ。怪我人は順次来ると思うから、魔力が無くならない程度に治して欲しい。もし酷い怪我があったとしても騎士団の治癒士がいるから大丈夫だ。俺たちの中にも回復属性の者もいるしな。酷い怪我の者もとりあえずはこちらに送るから、あまり気負わずにやってくれ。じゃあ頼んだぞ」
フェヴァン様はそう言って訓練している人達の中に戻っていった。
俺たちが案内されたのは、訓練場の端にある簡易の休憩所みたいなところだ。先生が俺たちの前に立つ。
「魔力が尽きるギリギリまで回復を続けてください。もう無理だと思ったら後ろに下がって休んでもらって結構です。酷い怪我の者には出来る限りの治療をして、治癒しきれなければその旨を告げてください。治った状態をしっかりイメージするのですよ。回復魔法は治る速さやどれだけ綺麗に治るかが、イメージによって決まります。酷い怪我の場合は、治った状態のイメージがしっかりできないと治らないこともありますので気をつけてください。まあ、慣れてくれば出来るようになるでしょう。数をこなすことが大切です」
先生はそう言って後ろに下がってしまった。回復魔法って失敗することもあるんだ……初めて知ったよ。俺ってやっぱり常識がないんだな。気をつけないと。
先生は後ろから皆の様子を確認するみたいで下がっていった。
よしっ! 頑張って治すぞー!!
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