第24話 小鬼
店長不在のギルドが教会の異端審問執行部により封鎖され、解除されたら今度は教育所のマルクス所長が行方不明に。ギルドはニコさんが店長代理として回していますが、どうにも手一杯な模様。皆が店長の帰着を心待ちにしていますが――
――その日の夕刻、事態は更に混沌の度合いを増す。
****
「それで怪我は無いんやね?良かった……いや良くもないけど」
「マイア、どうした?何かあったか?」
「おうニコはん、大変や。今戻った
例の依頼は手がかりの乏しさから徐々に捜索範囲を広げていました。そしてリゼ川沿岸の農村域を調査していた鋼鉄級パーティーが先ほど帰還したようです。緊急の報告を持参して。
「鬼や。
「は、はい!我々は北岸から見ただけですが……沿岸部だけで100は下らないかと。それと南岸にも
「マジか。マイア、誰が出たか分かるか?」
「いやー、分からへんな。調査出るとき毎回大まかな場所は聞いとるけど。今日は朝からあんなんやったから変更しとるかも」
「それでいい。可能性があるのは?」
「うーん、昨日までの情報なら、川沿いに出たのはこの彼ら……ミハイルたちと、後はアンドルのパーティーくらいやろ。他はルクシアかイグニス方面のはずや」
うん?アンドル、またパーティー組んだんですか。この前壊滅したばかりなのに。いったい誰と?
『あいつと組むなんて物好きがいるもんね。まさかとは思うけど……』
「組んどったで。リーダーがアンドル、盾役が6級のアラン」
「アランさん?まだ新人じゃないですか!まさか二人で!?」
「初めは二人で出ようとしたんやが、見かねたファラフが索敵担当で強引に入っとった。それでも普通はあり得へんけど、今回は内容がアレやったしなぁ。ファラフもいるから構へんやろってナーシアちゃんが」
よかった……ファラフ教官がいるなら一先ず安心ですね。アランさんは正直心配ですが、彼も冒険者です。過剰な配慮は侮辱になる。
『やっっっぱ新人だったかー。あのクズ!完全に使い捨てる気じゃない!アランてあの子でしょ?……まあファラフがいるなら大丈夫でしょうけど』
「なるほど、承知した。ミハイル、帰還したてで済まないが
「はい!装備補充が済み次第出られます!」
「重畳。最低5人は揃えろ。内容は小鬼発生調査とパーティー救出。報酬は金貨1枚に銀貨が人日分」
「了解!調査はどの程度まで?」
「数と種類は知っておきたい。それと相手がこちらに向かうようなら侵攻ルートだな」
「わかりました。すぐ準備します!」
こうなると、午前の依頼受付が潰れていて良かったかもしれない。リゼ川中流域は周辺農村からの低ランク依頼が多く、普段は若い冒険者が盛んに出張っている場所です。今日も通常営業なら10人以上がこの付近に出ていたはず。
「ガラム、支部に早馬。大発生の可能性」
「もう出した。それより、どう見る?このタイミング」
「まあ……都合がよすぎるだろ、いくらなんでも」
そうですよね、まるで見計らったかのような。
トットさんもマルクス所長も不在のこの時。ギルドも異端審問官の調査で混乱中。攻めてくるなら最高の状況が揃っています。
『完全にハメ手よね。偶然ならそれこそ神の御業ってか?……教会だけに。権力闘争で働いちゃう神様は嫌だなぁ、プププ』
「攻撃か?やっぱ」
「分からん。仮に攻撃だとすれば、鬼の発生を制御できるのか、或いは発生時期を予測できるのか」
「トンデモ論だな。ま、出ちまったもんは仕方無い。7年前の移動経路を当たって……おい、資料ねーじゃん」
「ああ。今朝丸ごと持ってかれたぞ」
「おいおーい。さすがに準備が良すぎるんじゃねーの?」
「まったくだ」
なんだか大変な状況になってます。あ、そういえば7年前の大発生、教育所の授業でも少し習いました。オランゲ先生が資料を持ってるかも。
「マジか!確かにあの人なら持ってそうではある。ボクっ子、頼む」
「承知しました!」
今日だけで何度目でしょうか。教育所まで走ります。
夏至間近の6月。もう日は落ちましたが、辺りはまだまだ明るい。空気は生暖かく、走ると汗ばみます。
「オランゲ先生!いらっしゃいますか?」
早く帰りたそうな門番を顔パスし、職員室へ。数人の先生が会議をしているところでした。議題は恐らく、所長が行方不明になった件の対応でしょうね。教育所も大変です。
「おや、ユーキ君。お久しぶり。元気そうで何よりです」
「ジャミン先生、ご無沙汰です。オランゲ先生にお願いが……」
「はいはい、今出ますよっと……。その慌てよう、どうしました?また事件でしょうか?」
うん、せっかくだから皆さんに聞いてもらいましょう。どうせ明日には伝わる話です。
『いいのかなぁ?まあ、今回は危険度コードもかかってないし、機密漏洩にはならないわね。たぶん』
「はい。皆さんもお聞きください。リゼ川中流域で
「おやおや……100頭とは穏やかじゃない。
「現状不明、調査に
普段であれば職員も冒険者も帰る時間ですが、ニコさんは
「それで、前回、7年前の大発生時の状況を調べたいんです」
「前回の状況ですか、しかしギルドには詳細資料が残されているはずですが?」
「それが……今朝の事件で教会に接収されまして」
「おやまぁ、それはまた。ふうむ……いよいよ怪しくなってきましたね」
「ええ。なので、皆さんのお力をお借りしたく」
この町には領兵もごくわずかしか滞在していません。教育所や役所の門番、それに商会ギルドの警護兵。全部で10人にも満たないでしょう。それとは別に警吏官もいますが彼らは対人、それも犯罪者確保が専門です。基本的に非殺傷性の武器で、魔物や鬼に対して有効な装備ではありません。
だから戦力になるのは総勢200人に満たない冒険者くらい。ただし多くの冒険者はあくまで狩猟採集者であってガチ戦闘職ではありません。級位的にも6級以下がおよそ100人、4・5級合わせて80人少々、鋼鉄級以上はたったの12人。相手が
先生方の助力はどうしても欲しいところ。特に魔術系の支援が有れば。教会の動向が不透明な今、回復術式を扱える人材は喉から手が出るほどに重要。
「もちろん協力します。僕はこのままギルドに向かいます。ジャミン先生とカンヌ先生、同行願います。ギルドの方々と町の防衛方針を検討しましょう。リルム先生は役所に報告をお願いできますか?たぶん守衛以外は帰宅してますが、私の名前でミュウラ町長を呼び出してください。なに、彼は軍学校の教え子ですから大丈夫ですよ」
「了解です。アレは使いますか?」
「いえ、現段階では目立つことは控えて。万一襲撃でもされたら躊躇せず」
「わかりました」
『おお、なんかオランゲちゃん燃えてるねぇ。がんばれがんばれ~』
よし!とりあえずの目途は付きました。そろそろ体力も尽きますが。このヤマを越えたらボク、いっぱい眠るんだ……。
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