ストリート・ブラザーズ【お兄さん/いくら/ランニング】

やっくんはいつも俺の先にいたのに、今じゃ俺の方が先にいる。


やっくんは3つ上の兄。俺は本当にやっくんのことを尊敬していたけど、俺のことを全部分かってるみたいな素振りをするのがムカついてもいた。

家族で寿司を取った時に、本当はやっくんも好きなのに俺が好きだからってイクラは食わない。そういうところが。


やっくんはマトモに高校を出て大学へ。

やっくん・コンプをこじらせた俺は高校ドロップアウト。一番町の裏路地の服屋で働いてる。

アンダーグラウンドが俺の居場所だった。

仲間たちはやっくんより遥かに色んなことを知っていた。服と女と酒と煙草と大麻とラップ。

俺は今じゃちょっと注目の新人MCだ。

やっくんは最近ランニングにハマったとかで夜な夜な走ってる。もうそんなつまんないやっくんに憧れることは出来ないワケ。


その夜はいつも通りパーティー。

路上でジョイントをふかしているとランニング中のやっくんが通りかがった。

なんとなく、やっくんを誘った。俺はもう昔の俺じゃないことを分かって欲しかったのかもしれない。

やっくんはニヤリと笑ってついてきた。

ショウケースの前にMCバトルがあると言うと、なんとやっくんもエントリーすると言い出した。嫌な予感がしたが俺はやっくんを中へ案内する。

そして悪ノリした主催によって実現する俺とやっくんの兄弟MCバトル。

やっくんが不敵に言う。俺が勝ったら言うことなんでも聞け。嫌な予感。


結果としてはボロ負けした。

ビートに乗ったフロー、堅い韻。ライム読みまでされるヒドイ有様だった。

やっくんはこの日をずっと待っていたのだ。ランニング中に日本中、世界中のラップを研究して。

アンダーグラウンドでの俺の居場所を奪うために。


「ラップ、本当に好きなワケ?」

やっくんが聞いてくる。そうだ。これで食ってこうと思ってる。

「本気で?」「本気で」

「じゃあ、言うこと聞けってやつ、"俺に勝て"。お前は本気でやれば出来る。お兄さんにはそれが分かる」


負けたショックで正直何言ってんだ?って感じだったので受け入れるのには1ヶ月くらいかかったけど、約1年後、俺はやっくんに勝つことになる。

やっくんの先に、本当にたどり着いたのだ。

けれど今改めて、俺はやっくんに憧れている。

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