熱心な執事【執事/助手席/大会当日】
大会当日、僕は焦っていた。
高校バスケの県大会。僕はレギュラーなのに遅刻しそうになっていた。
学校に集合してからでは間に合わないということで、ママに車を運転してもらって直接会場に向かうことにした。
僕は助手席に乗り込んでママをせかす。
私は召使いじゃないんだから、とブツブツいいながらママが車を出してくれる。
会場近くの交差点に差し掛かると突然、ママが徐行し始めた。
後ろの車もクラクションを鳴らしている。
「おぼっちゃまにお怪我があってはいけませんから」
ママがつぶやく。
さっき僕が召使い扱いをしたのを遠巻きに非難しているんだ。ママはそういうところがある。
「ママごめん、さっきは悪かったよ。けど試合に間に合わないよ」
「おぼっちゃま・・・おぼっちゃま・・・」
ママは鬼のような形相で、涙を流し始めた。明らかに様子がおかしい。
ゆっくりと僕を見て、呆然とした顔をする。
「おぼっちゃまじゃない。お前はおぼっちゃまじゃない!!」
ママはアクセルを踏み込みながら、僕に掴みかかってくる。スピードの上がる車内でもみくちゃになる。シートベルトが邪魔で抵抗できない。
咄嗟に僕はシートを倒して、シートベルトから脱出して、後部座席へ飛び込んだ。
するとママの目から狂気がすっと消え、速度が落ちる。 気がついたママがブレーキを踏む。衝撃。道の横の電信柱に衝突して車は止まった。
その後僕は当然大会に間に合わず、高校2年生の夏を終えることとなる。
後で調べると、件の交差点には逸話があった。
何十年も前、この近くのお屋敷に住む富豪の御曹司が交通事故で亡くなっている。
執事が運転をして御曹司を送り迎えしていたが、その日だけは、御曹司を助手席に乗せていた。普段は後部座席に乗っていたのにこの日だけ。執事と喋りやすいように、と御曹司が言ったから。
そして事故は起こる。曲がりきれなかったトラックとの衝突で、きれいに助手席だけが潰れていたのだとか。
執事は今でも許していないのだ。
あの日だけ御曹司を助手席に乗せてしまった自分のことを。
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