第81話 アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の概要:2024年1月

(佐々波良子が、佐々波三郎にアマゾネス・ウーマンズ・パートナー社のことを説明する)

2024年1月。都内。佐々波家の寝室。

「そうね。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社のことは、あなたにも、よく理解してもらっておいた方がよいので、話しておきます。

女性サミットで、ユニバーサル・ジェンダー計画が発表された後で、いろんな動きがありました。EUの加盟国、オーストラリア、ニュージーランドなどが、いち早く、賛同する声明を発表しました。各国の首相や大統領の直属の機関として、ユニバーサル・ジェンダー計画の部署が出来ました。こうした動きは、今までにもあったけれど、今回の特徴は、トップに直属の機関として設置されたこと、経済制裁といった、実効を伴っている点が大きく違います。

一方、日本は、内閣府に男女共同参画大臣がいますけれど、これでは、経済制裁には対応できません。このままでは、経済制裁に耐えられないという危機感が強まり、女性議員の優先枠を設定した選挙法を成立させた上で、国会解散、総選挙になったわけです。

アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、ユニバーサル・ジェンダー計画が、発表されたあとで、この機会に、日本国内でも、今までの男女共同参画とは違った実効性あるアプローチが必要ではないかという議論があって生まれました。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の理念は、ユニバーサル・ジェンダー計画を日本で実現することです。このためには、政治的、経済的な支援をしたい訳ですが、企業である以上、利潤を上げないと、経済支援はできません。

アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、ユニバーサル・ジェンダー計画を支援するIT技術提供することを目的に、設立された企業です。

主な開発部隊は、大手IT企業のG社で、開発を担当していた人を、女性を中心にスカウトしています。もちろん、新人も募集しました。G社は、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の筆頭株主でもあります。しかし、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社を立ち上げるときに、趣旨に賛同する人を募るために、クラウド・ファンディングを通じて、株式を発行しました。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、女性の株主を増やしたいという意図があり、発行株の7割を女性株主に優先的に割り当てました。そこで、私も株主になった訳です。

#metooで、昔、問題になった、性暴力の廃絶は今でも重要な課題ですが、今まで、抜本的な解決策は見つかっていません。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、バイオレンス・レコーダーのサービスを提供しています。これは、ドライブ・レコーダーの日常生活版です」

「それって、プライバシーの侵害にならないの」

「今までは、バイオレンス・レコーダーのような監視カメラを付けることは、プライバシーの侵害であると考えられていました。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の設立の趣旨は、そのような課題をIT技術で解決することにあります。まだまだ、足りない部分もありますが、進歩はしています。

第1に、バイオレンス・レコーダーが設置されている場所には、VISEC(バイセク Violence Security System )のシールが貼られています」

「さっきの炉端焼きの店に、セキュリティ会社のシールみたいなリボンのついたシールが貼ってあったけど、あれは、VISECだったんだ」

「録画した画像は、暗号化したうえで、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社のサーバーに転送されます。それから、AIが、暴力が行われていないかを判定します。抽出された疑わしい画像は、更に、女性の専門家が分析をして選別します。このほかに、被害報告がなされた場合には、その部分の画像を取り出して分析します。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社には男子禁制の女性職員だけが活動する部門があり、そこが担当しています。一方、問題がなかった場合には、問題のなかった場所と時間だけが記録され、画像は消去されます」

「お店にVISECのシールを貼ったら、お客さんは減ってしまうんじゃない」

「サービスを開始して、まだ、3か月なので、十分なデータが集まっているとは言えませんが、統計的には、集客力が3割くらい高くなるというデータが出ています。#metooでは、何年も前に、セクハラをうけたという訴えを起こされた男性がいましたが、VISECで、問題なし画像に分類されれば、セクハラ裁判を起こされることはあり得ません。つまり、VISECは、男性にとっては、言いがかりをつけられないメリットがあります。要点は、VISECは、強制ではなく、利用者が使うか使わないかを選べるということです」

三郎は、寝室を見回して言った。

「言い出しにくかったけど、我が家の入り口にもVISECのシールがあるよね。この部屋にも、バイオレンス・レコーダーはついているの」

「アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社から、テスト・モニターになりませんかというお誘いがあったので、玄関には、バイオレンス・レコーダーを付けています。寝室にも、バイオレンス・レコーダーを付けている人もいますけど、あなたは、DVの心配がないから、この部屋には、ついていないわ。それから、過去にDVの犯罪履歴のある場合には、女性虐待だけでなく、児童虐待を起こした場合も含めてバイオレンス・レコーダーの設置を義務付けようというのが、ユニバーサル・ジェンダー党の公約のひとつです」

「ひとつ、聞いてもいい。性被害にあった場合に、被害者が、男性の裁判官の前で、被害状況などの話をしたくないので、裁判を避けることが多いと聞いたんだ。折角、被害画像データをとっても、使えなくない?」

「性被害については、党の公約の女性裁判所が来月から動き出すので、その心配はないと思います。これは、加害者の男性以外は全て女性で構成される裁判所です。裁判所はネット上に在ります。実体は、あちこちに置かれた大昔の電話ボックスみたいなセキュリティボックスに、裁判関係者が入って、ネットミーティングするだけですから、1か月もあればできてしまったわ。便利な時代になったものね」

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