第75話 静かな選挙戦:2024年1月

(衆議院選挙戦が始まる)



2024年1月。東京。ユニバーサル・ジェンダー党オフィス。


選挙戦が始まった。とはいえ、ユニバーサル・ジェンダー党は、選挙カーを繰り出さないし、街頭演説も、簡単なものだけである。ユニバーサル・ジェンダー党は、従来の政党のように一方的に、主張を押し付ける政治のやり方には問題があると考えている。有権者の誰にでも、同じ政策を押し付けることも、適切でないと考えている。

これは、今までの政党の政治は、スーパーのセールだと思えばわかるだろう。スーパーは、セールでは、新聞に折り込みチラシをいれたり、アドバルーンを揚げたりする。一昔前であれば、宣伝カー出すこともあった。

一方、ユニバ―サル・ジェンダー党が目指している政治は、ネット販売のようなものだ。顧客(ここでは有権者だ)が、来るのをじっと待つ。しかし、一度来た顧客は、サービスに満足して、リピーターになる。ここでは、お薦めシステムの性能がものをいう。そして、SNSで評判が広まって、顧客がさらに広がるのを待つ。

ネット販売では、アドセンス広告を入れる。これは、チラシより、圧倒的に打率が高い。ユニバーサル・ジェンダー党でも、アドセンス広告が過去に、議論になったことがある。しかし、政党のイメージダウンになれば、元も子もないということで、これだけは、没になった。

街頭演説も、わが党の基本方針はこれこれですという説明を少しした後で、皆様のご意見を、お送りくださいという話で締めくくる。

選挙期間中の重要な活動のひとつは、スマホが不得意なお年寄りのサポートである。サポーターが、お年寄りの代わりに、スマホや PCを操作して、要望や意見を書き込む。足が悪くて、動けないお年寄りの場合には、サポーターがお年寄りのいるところまで出かける。この場合、お年寄りは、投票所まで、行けないことも多いので、不在者投票の方法も説明する。


ユニバーサル・ジェンダー党はポスターもあっさりしているが、2次元バーコードがついていて、スマホをかざせは、党のWEBや、候補者の情報が見えるようになっている。


選挙が終盤に近づくと、他の政党は、党首が日本中を飛び回り、街頭演説に参加した。選挙カーが大きな音で候補者名を繰り返していた。候補者は、選挙区内を隈なく歩き回っていた。いわゆる「どぶ板選挙」である。

南山は、歩き回らなかったが、多忙であった。ネットミーティングで忙しかったのである。不特定多数へのネットミーティングはもちろん、選挙法にふれる。しかし、党員や、メンバーに対するミーティングには問題がない。ユニバーサル・ジェンダー党の活動は、選挙だけに焦点を当てたものではない。有権者と候補者の日頃の交流が欠かせない。それには、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の支援を受けた、有権者交流システムを活用する。このシステムは、完成には、まだ、ほど遠いが、それでも、大きな成果を挙げていた。


他の政党に比べると、余りに、静かな選挙だったので、これで、大丈夫かという不安の声が党内にも出てきた。しかし、票読みシステムの投票予定者のデータから見る支持者は、毎日増加していたし、マスコミによる事前調査の結果も悪くはなかった。何よりも、「政治は変わったというイメージを有権者に与えることができれば、議席の獲得は可能である」と洋子は考えていた。

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