第66話 T商事の新しい人事制度:2023年9月

(T商事が新しい人事制度を発表する)


2023年9月。東京。鈴木家。


T商事は、人事制度の見直しをしたと発表した。


「当社の新しい人事制度について、これから、発表します。

新しい人事制度では、若手でも、実績に応じて管理職になることが可能です。成果を出せば、最速で、30歳前半で、部長クラスになれます。新しい人事制度は、若手の退職対策として、働きがいのある職場をつくることを目的としています。

入社8年目から、『チャレンジキャリア制度』に応募して、プロジェクト限定の管理職を行い2年で成果が出れば、正式な管理職に昇進できます。つまり、最速で、8年で仮の部長待遇になり、10年で正式な部長待遇になります。その結果、これまでの入社16年からの昇進期間が約半分に短縮できます」


鈴木太郎は、この発表をWEBで見ていた。「やはり、T商事は、もうだめだ」と感じた。

「レガシー・システム問題では、ダマスカスに競り勝つために、何が必要かを訴えても、社内は動かなかった。レガシー・システムを継ぎ接ぎしてなんとか凌げというだけである。ダマスカスを想定した対策を講じる気はない。現在のトップは社内政治で生き残った年寄りばかりなので、海外の脅威に対抗して、生き残るよりも、変革せずに、自分たちが、今のまま退職して、年金をもらうことを優先している。


この新しい人事制度も同じである。ここには、海外の競合企業に勝つための人事制度という視点は全くない。今の年功型雇用の人事制度を継ぎ接ぎさせて、延命を図るというアイデアだ。『16年が10年になると、6年短縮する』という年限にも、年齢にも、何の意味もない。問題は、競合企業に勝てる経営が出来る人材が、そのポストについているかだ。海外システムに、ダマスカスのような強力なシステムが台頭してきた場合、今のシステムを何年使って来ようがそんなものは捨てて、1日も早く、ダマスカスに匹敵する新しいシステムに入れ替えなければ、会社は潰れてしまう。人事も同じように、競合企業のトップにダマスカスのような優秀な人材が採用されて、組織改革に成果をあげ出したら、対抗出来るような優秀な人材にトップを入れ替えなければ、会社は潰れてしまう。


仮に、ダマスカス級の人材が、トップについていれば、1日も早く、レガシー・システムを入れ替えろと指示することは明白だ。生き残る方法は、それしかない。もちろん、それは、社内に大きな軋轢を生む。社内政治で管理職になった人間には、できない荒療治かもしれない。今まで、そうして問題を先送りにしてきたのだろう」

鈴木はこう感じた。

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