第91話 《シュテラ》
シュテラという魔女は、町の東にある鳥の形をした煙突の家に一人で住んでいるらしい。
――門を抜けた先は、石畳の地面だった。
入り口付近には、謎の鳥チュンチュンの小屋があり、なにかの草を食べてはグエーと鳴いている。その横では、屋根の下で老婆が巨大な釜の手入れを行っていた。あれが薬品を作る魔女釜か! と思ったが、どうやら調理用のものらしかった。
この魔女の町は、他の町や都市と比べ道がうねり、入り組んでいる。レンガの家々は配置がばらばらで、好きな場所に適当に家を建てたみたいになっていた。だから、家々を繋ぐ道は入り組んでいるわけだ。
町は大きいが、人は少ない。家は立ち並んでいるが、どうやら誰も住んでいない家もあるようだ。
イブキが先導し、道を進んでいく。シャルは右目を抑えたまま着いてきているが、指の間から血がにじみ出ていた。
どれくらいか歩いたところで、鳥の形をした煙突の家を発見した。芝の庭があり、庭には一本の木と、吊るされたブランコが見える。ブランコの上では、イブキよりも小さな女の子が腰掛けており、分厚い本を食い入るように見ていた。
「……ここかな」
木のフェンスを押し開け、イブキたちは庭へと入っていく。呼び鈴を鳴らすため扉へ向かおうとしたが、途中でブランコの少女がイブキたちに気づいた。
少女は目を丸くしている。本を膝の上に置いたまま、じっとイブキを見つめていた。
「知らない人だ」
と少女が呟いた。イブキはどうしていいかわからずに、片手を上げる。
「し、シュテラって人の家、ここであってるかな?」
少女はなにも反応せずに、イブキとシャルの顔を交互に見た。そして家の方へ向かって声を上げたのだった。
「シュテラさんー、怪しい人が来てるー」
「は!? 違っ――」
イブキが弁解するよりも早く。
「――んあー? 怪しい人ぉ?」
イブキが向かっていた方とは別の、庭へ続く扉から、一人の女性が現れた。
年齢はノクタと同じく20代後半くらいか。肩まで伸ばしたぼさぼさの黒い髪に、金の瞳。赤い縁のメガネを掛けていて、Tシャツにパンツ――もちろん下着のパンツだ――という格好をしていた。スタイルが良くて目のやり場に困ってしまう。
すると、その女性がイブキたちに気がついた。イブキの顔を見るや否や、「んん?」と首を傾げ観察するように眺めてくる。
「紫髪、紫の瞳、首元のタトゥー……。……もしかしてあなた、《災禍の魔女》?」
「そ、そう。わたし、イブキ。こっちが、シャル。氷花騎士団の、ノクタに言われて来たんだけど……。あなたが、シュテラ?」
「ええ、あたしがシュテラよ。もちろん、魔女ね。けど、ノクタか……ちっ、あのバカ弟が」
「えっ、ノクタのお姉さん!?」
「そーよ。バカ弟になにを言われてきたか知らないけど、あたしじゃ力になれないわよ。でも……」
シュテラは、次にシャルの様子を見た。もちろん、顔の傷をだ。
と、シュテラはため息をついて、胸の前で腕を組んだ。
「ひとまず、その子の傷を手当しましょうか。エネガルムからここまで来たんだ。少しくらい、話しを聞いてあげる。……アリス、おとなしく待っててね」
ブランコの少女が「はーい」と無邪気な返事をする。
シュテラが、イブキたちへ中へ入るよう告げる。後を追いながら、イブキはシャルへ振り返った。
「良かった、手当してくれるってさ」
シャルは俯いたまま、かすれた声で、
「別に、このままでいいのに……」
と呟いている。
(い、今のシャル、絡みづれー……)
しかし、それも《赤雷の魔女》フランベールと過去になにかあったせいだ。
まずはシャルの治療。そして、《災禍の魔女》について。
シュテラに聞きたいことは、山程ある……。
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