第62話 《2日目 魔法サバイバル ①》


 2日目の魔法サバイバルは、深夜0時から開始する。


 飛空艇グウェンドリン号が着陸した湖をさらに超え、そびえ立つストラルン山まで向かう。途中から目隠しをされ、誘導兵によってそれぞれがランダムな位置へと配置される。


 どれくらいかして誘導員が、去っていくと、すぐに街の方から開始のサイレンが響き渡ってきた。


 同時に、イブキは目隠しを取る。


 辺りは真っ暗。木々に囲まれ、月の明かりだけが頼りだ。


 雪の積もる地面には、小さなバッグが置かれていた。今回の戦闘イベントのために支給されたバッグだ。


 ……イブキは、少し涙目になっていた。別に暗闇が怖いわけではない。


(虫がいたらどうしよう……)


 そう、それだけが、一番の不安だった。


 あっちの世界では、冬に虫を見かけることは、そんなに多くはない。だがここは木々の生える山の中。それに、あっちの世界の常識が通用しない異世界と来ている。


(早く、終わらせて帰ろう)


 イブキは今までに無いくらい固い決意を結んだ。


 バッグを開き、月の明かりを頼りに中を見てみる。


 懐中電灯に、水、補給食、火をおこすためのマッチ、簡易のテントまである。テントは小さな袋の中に入っており、簡単に設営ができるものらしい。

 最後に、ストラルン山の地図があった。もちろん、山の中でこの地図が正確な方向を教えてくれるとは思わない。ただ、イブキが現在いる開始場所と、最後の『ゴール地点』が記載されていた。


「キャンプみたい……」


 呟くと、白い息が溢れた。


 イブキは自分のポケットへと手を入れて、そこからビー玉のようなものを取り出した。


 これが、参加者に配られた魔法水晶だ。参加者はこれを3つ集め、ゴール地点へと向かう必要がある。この小さな玉には、魔法が込められている。その魔法によって、国王が持つ不思議な地図に、イブキたち参加者の位置が浮かび上がるらしい。


 2日目の魔法サバイバルは、簡単に言えばこの魔法水晶の奪い合いだ。現在は1個持っているため、さらに2個奪う必要がある。


 1日目を勝ち抜いたのは、思ったよりも少なく23人だった。参加者が50人ほどだったので、半分以下になっている。


 今回の戦闘イベントでは、最大で7人が勝ち抜こる計算だ。


 イブキはバッグを背負って、一先ず山頂へ向けて歩き始めた。《暗視》のお陰で、辺りが昼間のようにはっきりと見える。懐中電灯は、視覚補正、《暗視》の魔術を使えるイブキには必要ない。これで、居場所を悟られるリスクも減るはずだ。


 道なき道を歩き続ける。軽い傾斜になっていて、木の根と雪になんども足を取られた。


 山頂になにかあるわけではないが、このまま進めば別の参加者と出会えるだろう。後は、魔術でなんとかするだけだ。



 すると、遠くの方で戦闘音が鳴り始めた。静かな山の中だと、風に乗ってはっきりと聞こえてくる。

 今から行っても間に合わないだろうが、イブキは音の方向へ進んでいく。


 他にも、この音につられて集まってくる参加者もいるはずだ。


 どれくらいかして、音が止んだ。決着がついたのだろうか。まだまだ、戦闘していた場所にはたどり着きそうにない。

 

 それから30分ほど進み続けたが、他の参加者と出会うことはなかった。代わりに、先程の戦闘痕を見つけることができた。なんと、地面が扇状に抉れていて、その先に石の柱が出来上がっていたのだ。


 本で読んだこともある。あれは、土魔法の一種だろう。


 さらに、雪が積もっていることが、功を奏した。足跡が、かすかに残っていたのだ。それも、二人分。戦闘痕は、それをなぞるように続いていた。


 これをたどっていけば、参加者にも会えるかもしれない。


 イブキは周囲に意識を張り巡らせながら、足跡を追う。二人分の足跡は山頂へ向けて続いていた。


(元の世界の体なら、絶対ぶっ倒れてるわ……)


 この幼女の体は、やはりそれなりに体力がある。歩き続けていても、あっちの世界ほど疲れたりはしない。


 





   


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