第28話 《襲撃》
ノクタは頭の後ろで手を組んで、過去を思い返しながら、
「たしかに俺も、竜人族討伐には参加した。魔法七星として参加するしかなかったしな。けれど、やり方が強引すぎたんだよ。リムル神の予言がある以上、今に始まったことじゃないが」
「うむ!! 俺は参加できなかったが、あれは強引すぎた!!」
ドナーが変なポーズを取って筋肉を盛り上がらせながら同意する。シャルは念のために訊いてみた。
「強引、ですか?」
「ああ。例えば、だ。《災禍の魔女》の予言の時は魔女裁判を通して、あいつの処遇をどうするか決めた。けど、竜人族の時はそれがなかったんだよ。すぐに、竜人族討伐を実行することになったのさ」
「詳しくはわかりませんが……なぜ、そんなことに?」
「簡単だよ。竜人族の過去のデータに基づいて決めたんだ。竜人族は、一度問題を起こしている。何百年も前のことだが、街一個を丸々焼き尽くしたことがあったんだ。過去の、リムル神のお告げにその決定的な証拠があった」
「うむうむ!!!」
そんなことがあったなんて、シャルは知らなかった。そもそも、竜人族と関わる機会がまったくなかったのだから。
ノクタは大きく頷くドナーを冷たい目で見ながら、言葉を紡ぐ。
「今や竜人族は友好的だが、昔の竜人族の王は気性が荒くてな。そのせいもある」
「だから、竜人族討伐を……」
「ああ。当時竜人族討伐の指揮を取っていたのは、魔法七星のレーベだ。あいつや、あいつが統率を取る魔法研究所のやつらが、真っ先に討伐隊に加わったんだよ」
イブキが怪しいと言っていたレーベの名前が出て、シャルは眉根を寄せる。
「もしかして、捕らえた竜人族を管理しているのは……?」
「ああ、レーベだ。どこに竜人族を捕らえているかは、魔法七星しか知らないんだが、お前らならいいだろう。レーベは、捕虜として竜人族を研究所の地下に閉じ込めている。……だが、一年間もだぞ? 本気で竜人族討伐を目的としているのなら、いくらなんでも行動が遅すぎる。人質として、竜人族と交渉することもできたはずだ」
「じゃあ、なんのために?」
「さあな。氷花騎士団としても、これ以上関与できないんだ。だが、奴らは確かに怪しい。なんとか、調査できればいいんだが……俺も、魔法七星としての立場上、下手に動けないんだよ」
ノクタは頬杖をついて、息を吐いた。このヴォルシオーネ大陸最強の魔法使いである魔法七星も、それなりの苦労があるらしい。
(それなら、代わりに私が――)
覚悟を決め、言葉に出そうとしたその時だった。
――ドオオンッ!!!!
突然、爆音が響き渡って本部を揺らしたのだ。積み重っていた書類が、ひらひらと床へ落ちていく。
「な、なんだ今のは!!!」
とドナーが窓の方を見る。
そして間髪入れずに、、
「――襲撃だー!」
という切羽詰まった叫び声が外から聞こえてきたのだ。それに混じって、悲鳴まで風に乗って聞こえてくる。
「――ッ!?」
団長室にいた三人は、はっと顔を見合わせ、急いで窓に駆け寄った。この窓からは、南門の様子が見えるのだ。
そして、シャルたちは絶句した。
南門が、燃え盛る炎によって飲み込まれている。熱気がここまで届いてくるようだ。
じっと目を凝らしていると、黒煙を上げる炎の中で、何かがうごめいた。
「あれは……!」
炎の中から出てきたのは、体長20メートルはあろうかという竜だった。首は長く、翼のある身体は大きい。巨大な真紅の瞳と、せり出した顔、そして口元に並ぶ牙。手足には鋭い鉤爪があり、地面に四足で立っている。その両脇に、見覚えのある風貌の集団がいた。
真っ白な髪に、褐色の肌。あの時は仮面をつけていたが、シャルにはそいつらが誰なのかはっきりと理解できた。
――竜人族だ。
(なんで、イブキさんが交渉してくれたはずじゃ……)
その集団の中に、ハーレッドの姿は見えない。だが、これは非常にまずい状況だ。予言の通りに、事が進んでしまっている。
今度は、北門、東門、西門の方でも爆発が起き、黒煙が立ち上り始めた。
怯んでいる間もない。ノクタは、声を張り上げた。
「シャル! 第2部隊を招集して、北門へ迎え!」
「は、はい!」
「ドナー、病み上がりのお前に頼むのも申し訳ないが……お前は、臨時で第1部隊を指揮して西門を頼む」
「うむ!! 任せておけ!!!」
今、このエネガルムにいる魔法七星は3人。ノクタとレーベ、そしてプレアーネという水の加護を受けた女性だ。他の四人は、別大陸や別の国へ出てしまっている。魔女裁判の時のように、7人全員が揃うことのほうが稀なのだ。
「他の魔法七星には、伝令を送るとしよう。シャル、第3部隊には、西門側を守るよう伝えてくれ」
「はい。南門はどうするんですか……?」
今まさに、目の前で燃え盛る炎を眺め、シャルが問う。ノクタは制服の袖を捲くりながら、「はっ」と鼻で笑った。
「あれくらい、俺一人で充分だろ」
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