016 第一章 エピローグ
「凄いよ大吉君、本当にニュースで取り上げられる!」
「見ろよ雪穂、『後半へ進むにつれて視聴率が上がっていて天井が見えない』とか書いてあるぞ!」
俺達はついネットで調べてしまった。
居ても立っても居られなかったのだ。
番組の感想をこれでもかと調べまくった。
俗に言う「エゴサーチ」である。
「社長の読みが的中したな」
「だねー。大変な思いをさせられただけの価値はあったよ!」
最もウケた部分はイヌサフランが登場したシーン。
それを一般人の俺が真剣な顔で解説していることによって、番組のタイトル通り「リアルガチな恐怖」を視聴者は感じたのだ。
しかも、番組の出演者が高峯雪穂である。
若手ナンバー1と名高い彼女が過酷な環境に身を置いているのだ。
視聴者の反応は「やばい」「ハラハラする」という声で溢れていた。
もちろん、否定的なコメントも存在する。
案の定、ヤラセを疑う声が一定数は存在していた。
心ない言葉で喚いている馬鹿もいた。
しかし、そんな声はノイズにもならない。
それだけの反響が俺達の番組にはあったのだ。
「ネットの感想は殆ど好意的だな。凄いぞ」
「見て見て! 大吉君のこと褒める呟きもたくさんあるよ!」
雪穂がスマホを見せてくる。
同年代の女子らが俺をベタ褒めしていた。
雪穂を守る姿がカッコイイとのこと。
サバイバルに関する知識も評価されている。
有名な読者モデルが「こんな彼氏が欲しい」と呟いていた。
お世辞と分かっていても嬉しい。
ニヤけていると雪穂がむっとして頬をつついてきた。
おじさんからの評判もいい感じだ。
キャンプに行きたくなった、という声が散見された。
無人島ではなくキャンプという点が現実的で面白い。
ブルルルゥ!
電話が掛かってきた。
社長だ。
「もしもし、吉川です」
『もう知っていると思うが大ヒットだぞ!』
社長はウルトラ上機嫌だった。
耳が痛くなるほどの大きな声で話してくる。
スマホを耳から30センチくらい離した。
「社長の采配が上手くいきましたね、流石です」
『馬鹿なことを言うな。大吉君がいい味を出したおかげだ。この調子だと少なくとも既に編集が終わっている4話までは完璧だろう。今後もこの調子でよろしく頼むよ! 高峯雪穂をモノにした男は伊達じゃないぜ! よっ、視聴率キング!』
苦笑いを浮かべる。
「が、頑張ります」
『そうそう、今日の夜だが、ステーキを食いに行こう。もちろん雪穂も一緒だし、当然ながら俺の奢りだ。雪穂にも伝えておいてくれ』
「分かりました」
電話が切れる。
「雪穂、社長が――」
「聞こえてたよ。ステーキでしょ?」
「そうそう」
「じゃあ昼を抜いてたくさんお腹を空かせておかないとね! 社長の財布をすっからかんにしちゃうよ!」
「おいおい、怒られるぞ」
「何言ってるの、大吉君。こんな時は遠慮したら負けだよ。それが業界のルールだから!」
「そ、そうなのか?」
「そうなの! むしろ食べる量が少なかったら怒られるよ、社長に!」
「ならガッツリ食べないとな!」
その日の夜、俺と雪穂は高級ステーキ店で食べまくった。
シャトーブリアンとかいう部位が美味くて、俺らはそればかり食べた。
まるで食べ放題かの如く食べた結果、会計は100万円を超えた。
「なんだこの程度でいいのか? 安上がりだな、お前らは」
ブラックカードを店員に渡しながら、社長は笑みを浮かべた。
しかし、その目には涙が浮かんでいた。
いやぁ、他人の金で食うメシは美味い!
◇
それから月日は流れ、1年が経った。
俺と雪穂は高校を卒業し、同棲を始めた。
AO入試で有名大学に入ったが、通ってはいない。
仕事が順調すぎて学校に行く時間がなかった。
恐怖の無人島生活は相変わらずの人気だ。
老若男女問わずに大ヒットしていて、視聴率は常に1位。
最近では、事務所の後輩をゲストに呼ぼうか、という話も出ている。
危険を承知で俺達の番組に出たがっている芸能人は多い。
一方、他の局が始めた無人島番組は大半が打ち切りになっていた。
俺達の番組で舌の肥えた視聴者には満足できなかったのだ。
ワクワクとスリルの両方で物足りなかった。
また、CMの仕事も順調だ。
基本的に俺と雪穂はセットで出演していた。
雪穂は単体でもウケるが、俺と一緒ならさらにウケるのだ。
日本中の視聴者が俺達の関係を祝福している証といえた。
とはいえ、
雪穂の出演料は1本あたり5000万だが、俺はせいぜい1000万だ。
これはCMだけでなく、テレビ番組にしても同様だった。
単体でも通用する雪穂と、単体では心許ない俺との差だろう。
唯一の例外は無人島生活で、それだけは同額だ。
「本番入りまーす、5、4、3、2、1!」
カウントダウンが終わり、カメラが回る。
今回、俺達はゲストだ。
お笑い芸人の冠番組に、何故かMCとして呼ばれた。
「今日のゲストはサバイバル番組の支配者と名高いこのお二人です、どうぞ!」
ベテランの芸人がこちらに手を向ける。
「頑張ろうね、大吉君」
「おう!」
俺と雪穂は手を繋いで登場した。
さぁ、収録の時間だ。
今日も、明日も、これから先も、俺達は共に歩き続ける――。
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