第85話 首都サカズキ

 翌早朝――


「アレがキョクトウ法国の首都、〝サカズキ〟か……」


 少し遠くを見るティオ。

 その視線の先には高い外壁に囲まれた都市の姿が見える。


「少し歩くことになるけど、やっぱりインペリアルは便利ね」


 そう言って、インペリアルの中から降りてくるベルゼビュート。


 今は八人の大所帯なのでベヒーモスでの移動ができない。かといって馬車での移動も今となっては苦痛だ。

 なので、ティオたちはまだ日も出ない早朝のうちにインペリアルに乗って空を飛んできたのだ。


 暗がりの中を飛んできたので誰にも見つかっていないであろう……多分。


「う〜まだ眠いです〜」


 目を擦りながらティオの手を握ってくるフェリス。

 仕方ないのでティオは彼女をおぶってやることにする。


「私はまだここで寝るわ〜」


 そう言って、リリスはアイリスの胸の谷間に挟まり、すぴ〜と寝息を立て始めた。


 歩くこと少し、ちょうど日が出始めた頃にティオたちは都市の外壁の前へとたどり着く。

 巨大な門の前に近づくと、衛兵たちが寄ってきた。

 どうやら都市の中に入るのにお金がかかるらしい。


 規定の硬貨を払い終え、中へと通されるティオたち。


 すると――


「これは……」

「なんて綺麗な景色でしょう……!」


 思わず声を漏らすティオとアイリス。

 都市の中には薄ピンク色の花が咲いた木々が道に沿って綺麗に植えられていたのだ。


「冒険者様方、気に入りましたかい? アレらは〝サクラ〟って木でこのサカズキには一年中あの花が咲いているんですよ」


 ティオたちがピンクの花のなっている木……サクラに見惚れていると、衛兵がそんなふうに説明してくれる。


「サクラか」

「……なんだか見てると落ち着く」


 ユリとスズもサクラの木の花を眺め、ほっこりした表情を浮かべている。


「まったく、こんなに綺麗な景色なのに」

「二人ともすっかり眠っていますね」


 ティオの背中、そしてアイリスの胸の谷間で寝るリリスとフェリスを見て、ベルゼビュートとダリアが苦笑する。


(それにしても花が一年中咲いているって、この木たちはどんな構造をしているんだろう……?)


 そんな疑問を浮かべつつも、ティオは皆を連れてサクラが咲き乱れる道を歩き始めるのだった。


 ◆


 歩くこと少し、宿屋街へとたどり着いたティオたち。

 数ある宿屋の中でも、綺麗な佇まいの宿屋へと泊まることにする。


 中に入るとさっそく給仕の娘たちが一行を出迎えてくれる。

 どの娘も綺麗に着物を着ており、宿の中もキョクトウ法国独特の雰囲気を感じさせつつも、どこかティオたちが普段触れているアウシューラ帝国などで見受けられる西側の雰囲気も融合しているような作りだ。恐らく海外からの観光客も過ごしやすいように配慮されているのであろう。


 早朝だというのに幸いにもスイートの部屋を確保することができた。

 念のために二週間分の宿泊費を払い、ティオたちは部屋へと通してもらう。


「これはまた雰囲気がありますね」


 フェリスをベッドに下ろしながら、部屋の中を眺めて言うティオ。


 部屋は広く、ロビーと同じような雰囲気(給仕の娘に聞いたところモダン調と言うらしい)にまとめられている。

 寝室も二つあり、人数分以上のベッドも用意されている。


「みなさん、見てください。すごい景色ですよ!」


 珍しく少々興奮した声を上げるダリア。

 彼女に呼ばれてテラスへと集まるティオたち。

 眼下には咲き乱れるサクラと調和する美しい都市の姿が……


「本当にすごい景色ですね……」


 思わず声を漏らすティオ。

 そんなの手を握ろうとダリアが手を伸ば……そうとするが――


「いくらお姫様といっても抜け駆けは禁止ですよ?」

「まったく、油断できないわね」


 アイリスとベルゼビュートに阻止されるのであった。

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