第83話 もう着いた

 翌日昼――


「皆、着いたぞ」

「「「は……??」」」


 サヤの言葉に、ティオたちは間抜けな声を漏らす。


 今、彼は何と言った?

 着いた……? それはつまり……


「ああ、キョクトウ法国の港町――サザナミと言ったか? そこに着いたぞ」


 ポカンとするティオたちに、サヤはカラッとした声で言う。


「う、嘘ですよね……?」

「キョクトウ法国までは船で早くても一週間はかかるっていうのに……」


 にわかに信じがたいといった様子で言葉を漏らすアイリスとベルゼビュート。

 他の皆も同じような感じだ。


「まぁ外を見てみるがいい」


 そう言って窓の方を指差すサヤ。

 彼に言われて窓に駆け寄るティオたち。


「ほ、本当に港に着いているな……」

「……とんでもない、このインペリアルのスピードは……」


 外の景色を見て引き攣った表情で声を漏らすユリとスズ。

 流石にティオも驚きを隠せないといった様子だが、早いに越したことはないと思考を切り替え、さっそくインペリアルを降りる準備をする。


 ◆


「うお!? 中から人が降りて来たぞ!」

「ア、アレって乗り物だったのか!?」


 ティオたちがインペリアルの自動ドアから降りてくると、港の人々がざわめいているのが確認できる。

 予想していたとはいえ、騒ぎになっていることにティオは若干の罪悪感を覚える。


「マスター、早くインペリアルを収納してしまいましょう?」

「そうだね、ベル。《ブラックストレージ》……」


 ベルゼビュートの言葉に頷きながらE Xスキルを発動しインペリアルを次元の狭間に帰還させるティオ。

 それを見て港の人々がまたもやざわめき始めるが……


「見て! アレって妖精さんよね?」

「ほ、本当だ!」

「妖精は悪人に懐かないって言うし……」

「少なくとも彼らは悪人じゃないってこと……か?」


 と、ティオにベッタリなリリスとフェリスを見て、港の人々は少々警戒を解いた様子だ。

 その後、この町の衛兵たちが駆けつけティオたちが取り囲まれるという騒ぎはあったものの、以前にマリサ伯爵からもらった書状やリューイン伯爵にもらった家紋入りの短剣を見せることで事なきを得ることができた。


「この国の人たちは黒髪が多いのですね」

「そういえば、髪や服の雰囲気がユリさんとスズさんに似ている気もします」


 道ゆく人々を眺めながら、アイリスとダリアがそんなやり取りを交わす。

 キョクトウの人々の髪は、ユリとスズの黒銀の髪、そして服装は彼女たちの戦闘服と似通ったところがある。


「ああ、私たちにはキョクトウの血が流れているらしいからな」

「……ん、と言っても何代も前のご先祖様らしいけど」


 アイリスたちの言葉にそんなふうに答えるユリとスズ。

 なるほど、それなら似ているのも納得だ。


 ちなみに、彼女たちの服はこの国の伝統的な召し物である〝キモノ〟の流れを汲んでいるらしい。


「さて、このあとはどう動こうか……」


 顎に手を当て思案するティオ。

 想像以上に早く着きすぎたのもあり、まだキョクトウ法国のどの位置に三獣魔が復活するのか、ベルゼビュートが絞りきることができていないのである。


 そんなタイミングであった……


「ティオ〜! お腹減った〜!」

「私もペコペコです〜!」


 と、リリスとフェリスがお腹をぎゅ〜と鳴らし始めた。


「そういえば、そろそろお昼の時間でしたね」


 二人を微笑ましげに見つめながら言うダリア。


「よし、それならどこかでご飯を食べながらこの後のことを決めましょう」

「ですね、ティオ様」

「わ〜い! ごはん〜!」

「どんなごはんが食べられるか楽しみです〜!」


 ティオの言葉に頷くアイリス、それに続きリリスとフェリスがきゃっきゃっ! とはしゃぎだす。

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