第75話 侍装束のスケルトン
ブォン……――
そんな音ともに、扉一面に漆黒色の巨大な幾何学的な紋様が浮かび上がった。
「な……!?」
突然の出来事に思わず声を漏らすティオ。
そんな彼の後ろでベルゼビュートが――
「これは……〝魔導王ノ紋章〟? でもどうしてこんなところに……」
と不思議そうに首を傾げる。
ベルゼビュートの口から出た単語が気になるティオだが、それが何かを聞く前に扉に変化が現れた。
紋様――魔導王の紋章が消えたと思えば、扉が重い音を立てて左右に開いていくではないか。
そしてその先には――
「こ、これは……!」
「なんという数のアンデッドだ!」
スズとユリがそれぞれ得物を構えながら、驚愕の声を漏らす。
そう、扉の向こうには数え切れないほどのアンデッドの群れ……いや、もはや軍勢といった方が正しいであろう。
中にはAランクアンデッドであるエルダーリッチやマスターソードスケルトンなども見受けられる。
凄まじい数のアンデッドを前に、絶望感を覚えつつも武器を構えるティオたち、そんな時だった――
「おお……幾星霜の時を経て、ようやく現れたか……我が〝主〟よ」
アンデッドの軍勢の奥から、そんな声が聞こえてきた。
その声とともに、アンデッドの軍勢たちが中央から左右に真っ二つに道を開けていく。
「刀を持ったスケルトン……?」
不思議そうに声を漏らすティオ。
その視線の先には侍装束を身に纏い、腰に一振りの刀を差したスケルトンの姿が……
スケルトンはティオの様子を見て深く頷くと――
「者ども! 我らが主の帰還だ!」
と、腹の底に響くような……もはや威厳を感じさせる声を張り上げる。
するとどうだろうか、今まで武器を構えていたアンデッドたちが一斉にその場に膝をついたではないか。
「い、いったい何が……」
「わからないわ。でも、アンデッドたちからは殺気を一切感じないし……」
目の前の光景に圧倒されるティオ、そしてその隣で困惑した表情を浮かべるベルゼビュート。
震え上がるリリスとフェリスを守るように刀を構えるアイリス。ユリにスズ、そしてダリアも顔から冷や汗を流しながらも懸命に構えを維持している。
「よくお戻りになられた、魔導王シュヴァルツ……その転生体よ」
厳かな、それでいてどこか慈愛を感じさせる声で語りかけてくる妖刀を持ったスケルトン。
「お前……いや、君はいったい……?」
困惑しつつも、そう問いかけるティオ。
わけがわからない……が、なぜか目の前のスケルトンはティオが魔導王の転生体だと知っている。
そして他のアンデッド同様に一切の殺気を感じない、それどころかその声を聞いていると安心感さえ覚えてしまうのだ。
「ふむ、転生には成功したが記憶はまだ戻っていない……といったところか? よし、ならば自己紹紹介だ」
そう言って、刀を持ったスケルトンはその場に片膝をつき――
「我が名は〝サヤ〟! 数千年前に魔導王シュヴァルツ殿と救世の旅をともにし、その最期を見届けた者なり! 最後の命令を守りここで転生体たるあなた様を待っていた……!」
そう言って、真っ直ぐとスケルトン――サヤはティオを真っ直ぐと見上げてくる。
と、ここでベルゼビュートが――
「ち、ちょっと待って! どういうこと? マスターが魔導王――シュヴァルツ様の転生体というのは間違いないわ。でも、彼が亡くなったのは数百年前……計算が合わないわ!」
と、ティオとサヤの間に割って入る。
「ふむ? となると、今回の御転生体は我らの代から数えて〝三周目〟以降となるのか……?」
サヤは自身の指の骨を顎の位置に当てながら、少しの間考え込む様子を見せる。
(三周目……そして時間経過の食い違い、まさか魔導王シュヴァルツ……ぼくは異なる時代にも転生していたのか……?)
サヤとベルゼビュートの言葉に、そんな想像を膨らませるティオ。
そんな彼の後ろでは――
「ティ、ティオ様が魔導王シュヴァルツ様の転生体……?」
「に、にわかには信じがたいが、それならあの強さにも納得が……」
繰り広げられる会話に圧倒されながら、アイリスとダリアがそんなやり取りを交わす。
その横ではユリとスズが呆然とし、リリスとフェリスに至っては全く会話についてくることができず「「……??」」と不思議そうに首を傾げているのであった。
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