第70話 魔王の予言
そんな時だった……
「大変よ! マスター!!」
そんな声がティオとダリアの耳に聞こえてくる。
突然の大声に、体をビクッ! とさせる二人。
声のした方を見ると、そこには息を荒くしたベルゼビュートの姿があった。
「どうしたの、ベル……?」
ダリアの手を優しく振り払い、ベルゼビュートの方へと振り返るティオ。
ダリアが切なげに「あ……っ」と声を漏らすが、ベルゼビュートの様子から今はそんな場合ではないとティオは判断する。
「マスター、大変なの。〝三獣魔〟のうちの一柱が復活するわ……!」
「……ッッ!!」
ベルゼビュートの言葉に目を見開くティオ。
三獣魔――過去に魔王が従えていたとされる強大な三体のモンスターだ。
七魔族ヴァサーゴが三獣魔を復活させようと、ルミルスの大樹海で暗躍していたのは記憶に新しい。
「……ベル、それは確かなの?」
「ええ、間違いないわ。詳しい復活場所はまだわからないけど、私はその存在を感じ取ることができるの。恐らく過去に封じられた個体の封印が解けかけているか、魔族が復活させようとしているとみて間違いないわ」
ティオの質問に、そんなふうに説明するベルゼビュート。
二人の会話を聞き、ダリアの表情が強張っていく。
三獣魔の復活、七魔族よりも強力な人類の大敵……その存在の復活とあっては一大事だ。
もし三獣魔が本当に復活するのであれば、たとえティオであっても勝つのは難しいのではないか……ダリアはそんな想像をしてしまう。
「ベル、何となくでもいいから三獣魔が復活する場所を特定することはできない?」
「マスター、それならある程度わかっているわ。恐らく、三獣魔の一柱は〝キョクトウ法国〟のどこかに復活するはずよ」
「キョクトウ法国……聞いたことあるな、確か東の海に浮かぶ島国のことだっけ?」
「その通りよ、マスター。その国のどこかが三獣魔の復活予測地域よ」
ティオの質問に、真剣な表情で答えるベルゼビュート。
そんなタイミングで――
「三獣魔の復活、まさかそのようなことが……」
そんな声とともに、アイリスが部屋の中から出てくる。
どうやらティオたちの声で起きたようだ。
「アイリスさん、休暇の途中ではありますが、明日さっそくキョクトウ法国に向けて旅立つことにしましょう」
「もちろんです、ティオ様。救世の旅の再開ですね」
ティオの言葉に力強く頷いてみせるアイリス。
そんなタイミングで、ダリアがこんなことを言う。
「ティオ殿、それなら私も連れていってくれませんか?」
と――
「ダリア様、三獣魔討伐の旅についてくる、ということですか? 嬉しいですが、しかし……」
そこまで言って考え込むティオ。
ダリアの戦闘力は高い。
三獣魔や魔族の相手は無理だとしても、それ以外のところで役立ってくれるだろう。ティオたちとしてはありがたい申し出だ。
しかし――
「ダリア様、あなたはこの公国の姫君です。一介の冒険者パーティの旅に同行するのは問題かと……」
と、ティオは事実を伝える。
その上、ダリア騎士隊の隊長も務めている。
様々な公務があるだろうに、一緒に旅をするのは困難だろう。
「……そうですね、一度父に話してみます。あなたに救ってもらったこの命、あなたのために捧げたいですから」
そう言って、ダリアはさっそく父であるナツイロ公爵の私室へと向かうのであった。
「マスター、本当にキョクトウ法国に行くの? 三獣魔はこれまでにないほど強力よ……?」
少し不安げな表情で問いかけるベルゼビュート。
魔王の一柱である彼女だからこそ、三獣魔の強大さを知っているからだ。
対し、ティオは魔導王であった頃の記憶はほんの少ししか持っていない。
ベルゼビュートが心配するのは当然である。
「ベル、そうだね……少し不安なのは確かだけど、それでもぼくは行くよ。三獣魔が復活すればいずれ魔王の復活にも繋がるかもしれない。それを放っておくことはできないからね」
愛らしく、それでいて自信を感じさせる瞳で言うティオ。
彼の言葉を聞き、ベルゼビュートは頬を染めながら――
「ふふっ、やっぱりマスターはいい男ね……」
そんなふうに呟くのだった。
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