第54話 準々決勝
夕刻、とある酒場にて――
「ティオ様、本戦出場決定おめでとうございます!」
アイリスがグラスを掲げて、高らかに言う。
「さすがマスターね」
「やっぱりティオは強いわ!」
「相手を一瞬で片付けちゃったのです〜!」
ベルゼビュート、リリス、フェリスも続く。
皆に祝福の言葉をかけられ、ティオ少し恥ずかしそうにしながらも「ありがとう」と口にする。
パワードスーツ状態のベヒーモス、そして騎士としての経験を駆使して、ティオは見事に予選トーナメントを勝ち抜いてみせた。
明日は本戦トーナメントだ。
英気を養うために……というか、アイリスたちは既にティオが優勝するつもりではしゃいでいる。
本戦はこの都市中が注目している。
なぜかというと、本戦は誰が優勝するのか、賭けが行われるからだ。
その中で突如現れたティオは、この武闘大会でのダークホース的な立ち位置にあり、注目の的になっている。
その証拠に……
「おい、あの騎士の男の子……ひょっとしたら優勝するんじゃないか?」
「いや、やっぱり優勝はオーギュストだろ。何たって四大会連続優勝者だぞ」
「いや、それなら――」
……ティオを遠目に眺めながら、この酒場のそこかしこでもそんなやり取りが交わされている。
予選でのティオの格好と戦闘スタイルを見て、誰もが彼のことを騎士だと思っている。
本当は騎士ではなく、最弱クラスの黒魔術士だと知ったら、さぞ驚くことだろう。
周囲の視線を浴びつつも、ティオたちは楽しいひと時を過ごす――
◆
翌日――
「それじゃあ、今日もよろしくね、ベヒーモス」
【ああ、こちらこそよろしく頼む、ティオ殿】
選手控え室で、ティオとベヒーモスがそんなやり取りを交わす。
全三試合の本戦トーナメント……相手は誰もが予選を勝ち抜いた凄腕だ。
優勝候補のオーギュストとは、当たるとすれば決勝戦となる。
係の者に指示され、控え室から闘技場へと移動するティオ。
さすがは本戦というべきか、観客たちの熱気は昨日のそれを大きく上回っている。
(相手は……騎士か)
パワードスーツとなったベヒーモスの中から前を見据えるティオ。
相手は重鎧を着た騎士の男だ。
視界を優先したのか、頭の鎧はつけていない。
武装は大ぶりな槍一本と反対の手に小ぶりな槍を一本持っている。
「それでは……試合開始ッ!」
審判の掛け声とともに、観客たちが一斉に沸く。
それとは反対にティオと相手の騎士は冷静だ。
騎士はティオの周りを、円を描くようにゆっくり移動し、隙を窺っている。
対するティオも片足を軸にして、相手の動きに合わせて構える。
時間にして一分が過ぎようという頃だろうか、相手が一気に飛び出して来た。
ティオの隙を見つけた……というよりも、このままでは埒が明かないと判断して動いたといったところだろう。
長槍を繰り出す相手の騎士。
片手剣を使うティオよりもリーチは長い。
恐ろしい速度で放たれた槍撃を、ティオは盾で捌くとそのまま突撃する。
しかし、相手はその動きを読んでいたようだ。
反対の手の短槍を逆手に持つと、ティオの頭に向かって振り下ろしてくる。
パワードスーツとなったベヒーモスの耐久力であれば問題ない一撃かもしれない……が、ティオは油断しない。
相手が何らかの近接戦スキルを発動してくるかもしれないからだ。
身を捻り、相手の攻撃を躱すティオ。
ティオの視界の横を、紫に光る短槍が通り過ぎていった。
(《スピアインパクト》か……!)
ティオは即座にそれを理解する。
やはり相手はスキルを放ってきた。
《スピアインパクト》――
槍に魔力を乗せて、相手に接触した瞬間に衝撃波を放つスキルだ。
ティオは過去に槍使いのクラスを持つ相手と戦い、このスキルを見たことがあった。
だがティオが驚くことはない。
準々決勝に上がってくる相手だ。
それくらいのスキルは持っていて当然である。
「ぐぅぅ――ッ!?」
呻くような声が漏れる。
攻撃を避けると同時に、ティオが盾を使った打撃を放ったからだ。
まさかこの態勢から攻撃を放つと思ってなかったのか、騎士の胸部にヒットした。
苦しげな声を漏らすも、騎士はバックステップで距離を取る。
さすがに無理な姿勢から放った攻撃だったので、相手を戦闘不能に追い込むことはできなかった。
しかし、この機を逃すティオではない。
勇者パーティにいた頃は、もっぱら防御を主体とした戦闘スタイルだったティオだが、剣の腕も一流の域に達している。
バックステップする相手に間髪入れずに接近し、今度は相手の鎧の隙間目掛けて刺突を放つ。
しかし、これは相手の短槍によって捌かれる。
だが反撃は来ない。ティオが長槍のリーチの内側に入ったため、相手は反撃することができないのだ。
ティオのスピードはまだ死んでいない。
それを活かし、盾によるチャージアタックを浴びせる。
しかし、相手の膂力は凄まじいものだった。
ティオのチャージアタックを土手っ腹に受けながら、その場で耐えてみせたのだ。
だが、バランスは崩した。
それを見逃すティオではない。
その場で足払いし、相手のバランスをさらに崩す。
苦し紛れに、相手は再びバックステップしようとするが、その刹那に頭突きを叩き込んでやる。
ゴツン――ッッ!
鈍い音が響き渡ると、相手はその場に崩れ落ちていった。
白目を剥いて戦闘不能と見做されたところで、審判が「勝者、ティオ!」と高らかに宣言した。
観客席の方を見れば、アイリスたちが諸手を上げて喜びを露わにしているのが見える。
それに苦笑しながら、ティオは控え室へと戻っていく。
すると、控え室にはすでに次の試合の選手が来ていた。
美しい少女だ。
亜麻色の長髪、艶かしい薄い褐色の肌を包むのはまるでドレスのような鎧。
手にはハルバードを持ち、エメラルドのような瞳でティオを見つめている。
「あなた……面白い戦い方をしますね、準決勝で戦えるのを楽しみにしています」
彼女は凛とした表情で言うと、ティオが何かを言う前に部屋を後にした。
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