第三十二話 また形勢逆転?
九重たちがリフトに乗せられ着いた先は、薄ぼんやりとした通路だった。九重のほか、メイフェアたち二十二名のケンタウリ人、ニココたち四人のバーナード人たちは、先導する武装生徒について行くしかない。
九重が辺りをよく見ると、壁や床が淡い白色に発光しているのがわかった。
「あんまり見ないね。こういうデザインはさー」
九重の前を歩いているニココがのんきにつぶやきながら振り返った。
「確かに地球のとは違う感じだな」
「バーナードとも違うよー。バーナードはもっとこう、いろいろ外に出ちゃってる。スイッチとかさ」
九重はつい何日か前に乗ったシャトルを思い浮かべた。地球製のそのシャトルの狭い通路には古式ゆかしい蛍光灯のようないかにも照明らしい照明が付いており、壁や床全体が発光することはなかった。
しばらく歩くと大部屋についた。九重たち全員が入っても、まだ余裕がある。
先頭の武装生徒が立ち止まった。ここで待てということなのだろう。
武装生徒は無表情に突っ立っているだけだ。捕虜がお互いに話しても咎めない。ニココは三人のバーナード人捕虜となにやら楽しげに談笑し始めた。慣れているのか、不安を隠そうとしているのか。
とはいえ、さすがに身長三メートルのバーナード人たちの話の輪には入りがたい。九重はメイフェアを探した。
すぐに見つかった。メイフェアは近衛やシーシャと何やら話し込んでいた。
「……阿賀校長は小型とおっしゃってましたが、かなり大きいですわね。舟橋はこんなシャトルを知っていますか?」
近衛の舟橋は在外武官として各星系を渡り歩いた経験があった。
舟橋は首を振った。
「いいえ、存じません。この大きさのシャトルを格納するとなると、超弩級クラスの戦艦になると思われます」
それを聞いたシーシャが天井を仰いだ。
「そんな戦艦が近くにいてわからないなんて。わたしたちの入学前から完全に情報がコントロールされてたってことです。それだけのことをやれる連中がわたしたちみたいな生徒に何の用があるんですかねー」
「あるいは超弩級戦艦に完全な迷彩をかける技術を搭載しているのか。ワイズのものかもしれませんね。月崎先生もあちら側のようですし」
メイフェアが不安げに言った。
「わからないと言えば、阿賀校長からも何かへの怯えみたいな? 妙な感じがしたんですけど」
シーシャが長い耳をぴくぴくさせた。
「あなたもそう感じましたか。関川さまや松浦さまから感じた恐怖はこの一連のテロ活動か、あるいは上からの叱責に対するものかと。ミスがないではない様子ですからね。でも阿賀校長は……抑制された種々の感情の中にやはり恐怖を感じました。なんなのでしょう」
メイフェアの耳も少し動いた。
「わからないことだらけですね。異様に従順な現地調達戦闘員、何かに怯えるテロリスト、重力制御で飛ぶ円盤型シャトルに、サイコシップ……メイフェアさま、サイコシップってご存知ですか?」
「……もちろん存じ上げません」
なぜか、九重はサイコシップを知っている気がした。
「サイコシップってサイコキネシスで動く船なんじゃないの?」
「あらあら。九重さま。聞いていらしたのですか」
メイフェアと二人の近衛、シーシャの四人がいっせいに九重を振り返った。
「あらー、九重さま。もっとお近くにどーぞ」
シーシャがぐいぐいと九重に身を寄せてくる。メイフェアはそれを困った顔で見ながら言った。
「サイコキネシスで船を動かすなんて無理ですわ。せいぜい、人一人程度を動かすくらいでしょう」
九重はエトアルのサイコキネシスを思い出した。見えない手でぐいと押しのけられる感覚。とても宇宙船を動かせるようには思えない。だが、九重はサイコシップがどういうものかなぜか知っていた。
「サイコキネシスで宇宙船を直接動かそうとしたらそうなんだけど。サイコパワーを効率よく燃焼するエンジンがあるわけで」
「はあ? サイコパワーが動力のエンジン? そんなの聞いたことないよ?」
まとわりついていたシーシャが今度は九重の顔を覗き込んだ。九重は目を逸らした。
「ともかく、それだと一人乗りの宇宙船だって動かせるんだよ……って、あれ? 確かに、そんな宇宙船なんて聞いたことないな」
「九重さま、S F小説の読みすぎでは?」
メイフェアが呆れたような顔で言った。
突然、プリンセス科の面々には聞き覚えのある声が部屋中に響き渡った。
「みなさーん。おつかれさまでしたー。みなさんの身体は解放されまーす」
三つ目のワイズ人教師、月崎アオイだ。その声が響くと同時に、九重たちの手を拘束していた結束帯が切れ、落ちた。
「今からみなさんを迎えにわたしの生徒をやりますので、その子についてブリッジまで来てくださいねー」
それからほどなくして、大部屋の一角が軽い音を立てて開き、一人の女子生徒が入ってきた。
その女子生徒は無言で手にした銃で武装生徒を撃った。部屋には二人の武装生徒がいたが、あまりに不意のことなのか、まったく抵抗できずに撃たれるがままだった。
「驚かないでください。もちろん殺してはいません」
その女子生徒は、九重たちの前に来て言った。
「わたしはプリンセス科二年の津川ミキ。この船にはもう阿賀校長は乗船されません」
制服は着ていたが、九重に毒殺封筒を持ってきた、あのパジャマ女子だった。
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