イブの夜の二人


 仕事を終え、俺は予約していたケーキとシャンパンを受け取り、自宅マンションへ帰った。


 今日は楓坂とクリスマスパーティーをする予定だ。

 以前ハロウィンパーティーをしたことはあったが、こうして二人っきりでパーティーをするのは初めてのこと。


 ついエレベーターのボタンをリズミカルに押してしまう。

 期待と楽しさで、少しうかれているのかもしれない。


 玄関のドアを開くと、エプロン姿の楓坂が出迎えてくれた。


「おかえりなさい」

「ただいま」


 すっかりエプロン姿が似合うようになったな。

 つい最近までは女子大生という印象が強かったが、今は新妻というイメージの方が強くなっている。


 そう思うのは、俺が彼女とこれからもずっと一緒に居たいと思っているからなのかもしれない。


 俺のカバンを持った楓坂は背を向けて、長い髪を肩に掛けた。


「和人さん。ねぇ、以前のアレをやってください」

「ん?」

「ほら、後ろから抱きしめるアレ」


 ああ、アレか。

 カップルYouTuber活動をしていた時に『カノジョが喜ぶシチュエーション』ということで試してみた方法だ。


 結局、まだちゃんとできたことがなかったんだっけ。


 俺は楓坂の後ろに立ち、優しく腕を回す。

 そしてゆっくりと抱きしめた。


「うふふ。幸せ。もっと強く抱きしめて」

「こうか?」

「はい……」


 顔は見えないが、楓坂が嬉しそうにしていることが伝わってくる。

 無性に愛おしさが込み上げてくる。


 その気持ちをどうしても伝えたくて、俺は彼女の耳元でささやいた。


「大好きだよ。舞」


 すると楓坂は「ひゃん!」と声を上げて、体をビクリと震わせた。


「変だったか?」

「そんなことありませんけど……、突然だったから驚いてしまって」

「ははは。舞のそんなところ、かわいいよ」

「もうっ。ちょっと弱みを見せるとそんなことを言うんだから」


 俺は自室に戻って部屋着に着替え、リビングに戻る。

 するといつもとは違うレイアウトで、テーブルの上に豪華な食事が並んでいた。


「じゃーんっ! クリスマスパーティーのお料理です!」

「へぇ、すごいじゃないか」

「ほとんどお取り寄せですけどね。さすがに今の私ではここまではできませんし」

「いや。楓坂とこうしてイブの食事を楽しめるのがいいんだ」


 テーブルの上には手の平に乗るくらいの小さなクリスマスツリーが飾られていた。

 俺も楓坂もクリスマスツリーを持っていなかったので、近くの店で適当に買ったものだった。

 安かったが、俺達にはちょうどいい大きさだったかもしれない。


 シャンパンが入ったグラスをそれぞれ持ち、俺達は互いに目を合わせた。


「じゃあ、乾杯」

「乾杯」


 チンッと音を鳴らせてグラスを合わせ、シャンパンを少し口に含む。

 コーヒーとは違ったほどよい刺激が、体の中を通って行った。


「そうだ。これを渡しておかないとな」

「なんですか?」


 俺はカバンの中から小さな化粧箱を取り出した。

 それはレヴィさんの店で購入した指輪だ。


 予想外の恋愛バラエティ企画の影響で渡すのが遅れてしまったが、ようやく楓坂に渡すことができる。


 楓坂は化粧箱を開けて、瞳を輝かせた。


「指輪……? もしかしてこれってジュエリーショップの?」

「ああ。もともと舞に渡したくて用意したものなんだ。受け取ってくれないか?」

「ありがとう、和人さん。すごく嬉しい」

「いや、俺の方こそ感謝している。舞とこうして暮らせるようになって、毎日が幸せだ。ありがとう」

「和人さん」


 楓坂は指輪を薬指にはめて、静かに手を眺めた。

 幸せそうにしている彼女の表情は、とても癒される。


 すると彼女は俺の隣にやってきて、抱きしめてきた。

 俺も彼女を抱きしめて、キスをする。


 何度もキスをして、相手の存在を確かめ合うように抱きしめた。


「お料理、冷めちゃいますね」

「温め直せばいいだろ。あ……。でも、こんなことをしていたら、ヤカン先輩が怒りそうだな」

「大丈夫ですよ。今日は徹底的に邪魔が入らないようにしてありますから」

「なら、問題ないな」


 こうしてイブの夜はゆっくりと時間が進み、俺と楓坂は朝まで一緒に過ごした。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、最終回。

ささやかでありながら幸せな日常。


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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