第三十一話 吸収完了


 ヤーバル王国南西へと馬車を走らせる事三週間。


 私達はイボルタの街に着き、食料品の補充をしに市場へとやってきたのだが、ここでヨルバウム帝国のクーデターに関する号外が配られていたので手に取り読む事にした。


 『ヨルバウム帝国で起こったクーデターは、迅王、魔導女王、錬金王、修羅王の四人が活躍し、そのおかげでクルト第三皇子がテルナー第二皇子のとどめを刺す事ができた事により見事鎮圧する事ができた。クルト皇子は以前の戦争の功績と今回のクーデター鎮圧の功績で、ヨルバウム帝国皇太子になる事が決まった。クルト皇子は対アルジュナ連合軍に参入するヨルバウム帝国軍の指揮を取る事にもなっている。ヨルバウム帝国軍はアルジュナが居るオルファースト王国に向けて間もなく進軍を開始するとの事。なお炎王、闘王、地王はヨルバウム帝国を混乱に陥らせる為にテルナー第二皇子を利用したアルジュナ側の人間だったらしい』


 新聞を読み終えて私はとりあえず安堵した。


 クルトは無事にクーデターを鎮圧出来たみたいだし、ルートヴィヒも無事そうだ。


 ···しかし、クルトがテルナー皇子のとどめを刺したのか。


 嫌な奴だったとはいえ、実の兄を殺さなければならなかったのだ。


 さぞ苦しんでいる事だろう。


 それに皇太子なるという事は今まで以上に忙しくなるだろうし、ヨルバウム帝国軍の指揮も取ると書かれていた。


 クルトはきっと無理をしているに違いない。


 クルトの心配をしていると、同じく新聞を読んでいたシャオが身体を震わせている。


 「あの馬鹿弟子めっ!! アルジュナの仲間だとっ!? ふざけるなネ!! 闘王としての立場を忘れたアルか!?」


 シャオは弟子である闘王がアルジュナ側の人間だった事を知り、かなり憤慨している。


 同じく新聞を読んでいたガティさんは険しい表情を作る。


 「十二星王が三人もアルジュナの仲間になるとは···。これは中々厳しい戦いになりそうだね」


 確かに十二星王が三人もアルジュナ側に居るのは手痛い。


 だが、それでも勝たなければ多くの人々がアルジュナに殺されてしまう。


 だから私達はアルジュナを倒す為にダンジョンコアを集めているのだ。


 集めなければならないダンジョンコアはあと一つ。


 このイボルタの街の近くにあるS級ダンジョンを攻略してダンジョンコアを集めれば、ルートヴィヒ達と合流ができるのだ。


 食料品の補充を済ませた私は気合いを入れてS級ダンジョンへと向かう。



 イボルタの近くの森にあるS級ダンジョンに潜ると、やはりモンスターは強いし罠も多いし道も迷路の様に入り組んでいる。


 それでもこっちには十二星王級の強さを持つシャオと十二星王のガティさんが居るのだ。五十階層はあるらしいが、このペースなら三日で攻略できそうだ。


 順調に階層を降り、十階毎に現れるボスモンスターを倒す事三日。


 思った通りの日にちで最下層に着き、魔導師の格好をした二足歩行の山羊のボスモンスターを倒した。


 山羊のボスモンスターが落としたアイテムは宝石が散りばめられた金属の魔導杖だった。試しに魔力を流してみると凄く魔力伝達率が良い。


 何これ、めっちゃ役に立ちそうな杖なんですけど。


 ふふっ、それに二十八階層の宝箱から丈夫そうな白色の魔法のローブも手に入れたし、今の私の装備は完璧かもしれない。


 煌めく宝石達がまるで星の様なのでステラの杖と名付けた杖に見惚れていると、ラダンさんが呆れた視線を私に向ける。


 「おいおい、杖に見惚れていないでさっさっとダンジョンコアを回収しようぜ?」


 ラダンさんの声で我に返った私は壁に埋め込まれたダンジョンコアに触れ吸収した。


 S級ダンジョンコアを吸収すると、ダンジョンコアの声が頭の中に響く。


 『おめでとうございます。古の扉を開く条件を達成しました。古の都アムレイドへと向かって下さい』


 前の身体でダンジョンコアを吸収した時にも聞いた言葉だ。


 アムレイドの扉は既に開かれているので、行く必要はないけど、これで前の身体の時の能力に追いついた。


 このS級ダンジョンの名前をイボルタダンジョンと名付けて管理下に置き、ダンジョンの一階へと転移した。


 「皆ありがとう。これでルートヴィヒ達の元へと行けるわ」


 「あぁ、良かったな。だけど、今からヨルバウム帝国に行ってもヨルバウム帝国軍はオルファーストに向かっている可能性が高い。すれ違う可能性があるから、俺はオルファーストを真っ直ぐ目指すのがいいと思うぜ」


 ラダンさんの言葉の言葉にイレーヌさんや、シャオ、ゼロ、ガティさんも頷く。


 確かにオルファーストを真っ直ぐ目指した方がすれ違わない。


 「わかったわ。私達はこれからオルファーストに向かう。それでいいのよね?」


 私の言葉にガティさん以外は皆頷いてくれた。


 「じゃあ俺はここでお別れだね。本当はついていきたいんだけど、一応将軍職についているから軍の指揮を取らないといけない」


 ガティさんは申し訳なさそうにしているが、ダンジョン攻略をここまで早くできたのもガティさんのおかげだ。


 「ガティさんここまでありがとう。私達もアルジュナを止める為に頑張るから、ガティさんもヤーバル王国軍の指揮を頑張ってね」


 「あぁ、頑張るよ。それにもしかしたら戦場でまた会うかもしれない。その時はよろしく」


 「えぇ、その時はよろしくね」


 ガティさんと握手を交わしてイボルタの街で別れた。


 ガティさんは王都カンバナルへと戻っていき、私達は南大陸から中央大陸へと渡る為に、ヤーバル王国の北にある港町アフバハへと向かう事になった。


 もう少しでルートヴィヒ達と再会できる。


 再会できる日を楽しみにしながら馬車を港町アフバハへと走らせる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る