第二十五話 クーデター鎮圧作戦②


 透明マントを着けてるおかげで簡単に城へと入り込む事が出来た。


 目指すは二階にあるパーティーホール。


 息を殺し、足音を消しながらパーティーホールがある場所へと向かう。


 パーティーホールに近付くにつれ兵士の数が増えてきた。


 皆が捕まっている場所はパーティーホールで間違いなさそうだ。


 パーティーホールの扉の前にも二人の兵士が立っている。


 どうやって入るか考えていると、兵士の一人が扉を開け中に入っていくので、それに便乗して中に入る。


 やはり中には皇帝陛下や第一皇子らしいお方や正妃様らしいお方も捕まっていた。


 皇族や貴族や国の重鎮は一ヶ所に集められており、城の兵士や魔導師やメイドや使用人などは離れた場所にて縄で拘束されて集められている。


 魔導師の中にはマルタの姿もあった。


 まずは城の兵士や魔導師の縄を緩めながら小声で話しかける。


 「助けに来ました。声を出さずに聞いてください。僕が合図をしたらこの部屋に居る敵兵士達の制圧を手伝ってもらいます。よろしいですか?」


 縄は緩まりいつでも動ける様になった城の兵士と魔導師の皆さんは小さく頷いてくれる。


 続いてメイドと使用人の縄を緩めながら先程から大声で皇帝陛下に話しかけている二人組に視線を向ける。


 皇帝陛下の前には軍服を着た偉そうな小太りの男が立っている。おそらくあの人がテルナー皇子に手を貸したマゲラス将軍だろう。


 マゲラス将軍の隣には派手なドレスを着た貴婦人が嬉しそうに笑顔で立っている。


 僕はメイドや使用人の縄を緩めながら、マゲラス将軍と貴婦人と皇帝陛下の会話に耳を傾ける。


 「陛下、あとの事は新たなる皇帝になるテルナー皇子と、新たな大将軍になるこのマゲラスにお任せください」


 「そうですわ。我が息子テルナーがきっとあの薄汚い血の入ったクルトを殺して皇帝になり、アルジュナという訳のわからない小娘も殺してヨルバウム帝国に更なる繁栄をもたらしてみせるでしょう。だから安心して下さいな」


 マゲラス将軍とテルナー皇子の母親である第二皇妃は上機嫌な様子で笑みを作っているが、皇帝陛下は顔を赤くさせ憤怒の表情で二人を睨んでいる。


 「お前達は何もわかっておらん!! 今は皇族同士で争っている場合ではないのだ!! あのアルジュナは世界中の国々の力を結集しなければ勝てないかもしれんのだ!!だというのに盟主国であるヨルバウム帝国の第二皇子がクーデターだと!? ふざけるなっ、テルナーでは力不足だとわからんのかっ!?」


 マゲラス将軍は皇帝陛下の言葉を聞いて残念そうな表情を浮かべる。


 「実の息子であるテルナー皇子の有能さを理解できないとは。テルナー皇子ならきっとアルジュナを倒せると私は信じております!! それにこの未来の大将軍であるマゲラスと十二星王が三人もいるのです。テルナー皇子ならきっと勝てますぞ!!」


 「そうですわ、マゲラスと十二星王が三人も手を貸しているのです。きっと勝てますわ!!」


 二人の情勢の見えなさに呆れて溜息を吐く皇帝陛下。


 そんな二人に声をかけたのはおそらくは正妃様。


 「それ以上皇帝陛下を呆れさせるのは止めてくれませんか?」


 「あらあら、捕まっているのに元気ですわね、スワロナ様」


 「あなたは息子が無謀な事をしているのに呑気ですね、ミゾルテ」


 「無謀? 何がですか? 私の可愛いテルナーはクルトを殺してもうすぐ皇帝へとなるのですわ!!」


 「テルナーがクルトに勝つ? 戦争を経験したクルトに?」


 「一度戦争の指揮をとったからって何ですか!! あの薄汚い血が入ったクルトにテルナーが負ける訳ありません!! それにこちらには十二星王が三人もついているのです!!」


 二人の妃の話し合いは更に加熱する。


 「平民を下に見るのはあなたの悪い所です。そのせいでクルトの優秀さに気付けない。それにクルトの方には十二星王が四人もついているのです。兵力も圧倒的にクルトの方が上でしょうし、勝つのは困難とわからないのですか?」


 「ふん、こちらには、あなた達や街の民衆達という盾があるのです。あちらは攻める事などできはしないでしょう」


 「人質をとって勝っても民衆がテルナーを皇帝と認めると思っているのですか?」


 「所詮民衆など強い者に蔓延るゴミ虫ですわ。テルナーが勝てばどうとでもなりますわ」


 「···テルナーの蛮行を一番に止めるべきはあなたなのに、そのあなたがそんな考えとは」


 「先程から否定の言葉ばかり仰っしゃりますが、自分の息子が皇帝になれなくなって悔しいのでしょう?」


 第二皇妃は勝ったと言わんばかりの笑みを作るが、正妃様は毅然と第二皇妃を見つめる。


 「ヨルバウム帝国の為になるのならアルバートが皇帝にならなくても結構。ヨルバウム帝国が繁栄するのであればテルナーやクルトが皇帝になろうとも構いません。しかし、あなたの息子であるテルナーが皇帝になればヨルバウム帝国は必ず衰退するでしょう」


 「な、何ですって!? 先程から否定の言葉ばかり!! 公爵家の出だから生かしてあげようと思っていたのに、どうやら死にたいようね!!」


 第二皇妃は正妃の言葉に激怒し、正妃を脅すが正妃はやはり毅然としている。


 「皇帝陛下の妻になった時からいつでも死ぬ覚悟でいます。殺すというのなら殺してみせなさい!!」


 堂々たる正妃の言葉に一瞬怯んだ第二皇妃だったけど、すぐに顔を赤らめ憤慨する。


 「マゲラス!! こんな女殺しなさい!!」


 激怒している第二皇妃の命令をにこやかな笑みで聞くマゲラス将軍。


 「ふふっ、テルナー皇子が殺すなと言ったのは皇帝陛下とアルバート皇子だけですからな。わかりました、久しぶりに愛剣に血を吸わせるとしましょうか」


 マゲラスはニコニコと笑いながら剣を抜く。


 「今なら泣いて謝れば命だけは助けてあげるわよ」


 ギリギリになれば命乞いをするに決まっていると思っている第二皇妃は笑みを浮かべながら正妃に語りかける。


 だが正妃は気丈な振る舞いを崩さない。


 「いいえ結構。死ぬ覚悟は出来ていると言ったでしょう?」


 「マ、マゲラス殺せぇぇっ!!」


 正妃の折れない精神に怯みながらもマゲラスに命令する第二皇妃。


 「了解しました。さよならです、正妃様!!」


 嬉しそうに剣を振るうマゲラス。


 「母上!!」


 「スワロナ!!」


 正妃様を庇おうとアルバート殿下と皇帝陛下が正妃様の前に出ようとするが、間に合わない。


 今にもマゲラス将軍の剣が正妃様の首を刎ねようとしているが、僕が居るのにそんな事させる訳がない。


 僕は駆けてマゲラスの脇腹に鞘を着けたままの剣を思いっきり当てる。


 「ぐるっぱらぁぁぁあっ!?」


 変な奇声を上げながら壁に激突して気絶するマゲラス。


 「皆さん、今です!!」


 僕の合図の声を聞いて城の兵士や魔導師の皆さんが隙ができたマゲラス配下の兵士達を次々と倒していく。


 敵兵士の相手は城の兵士や魔導師の皆さんに任せて、僕は手刀で第二皇妃を気絶させて透明マントを外す。


 「助けに参りました、皇帝陛下」


 いきなり現れた僕に皇帝陛下やアルバート殿下は驚いていたけど、正妃様は変わらず毅然としている。


 「助かりました、迅王ルートヴィヒ」


 だけど、お礼を言う時だけは笑顔を向けてくれた。

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