第四話 ありがとう
馬車の護衛をする事三週間で首都ワーシュルゼへと着いた。
馬車の持ち主である商人と共に依頼完了の報告をワーシュルゼの冒険者ギルドの受付嬢にして商人と別れた。
私達は、冒険者ギルドのクエストボードへと向かう。
私達の現在の冒険者ランクはEランク。
F級ダンジョンの踏破を達成した事から一ランク昇級する事が出来た。
だけど、Eランク冒険者じゃワーシュルゼにあるSダンジョンには潜れない。
なので冒険者ランクを上げる為に、良い依頼がないか確認しているのだ。
だがSランクまで一気に上がるのような都合の良い依頼はなく、諦めて地道にランクを上げていこうとEランクの依頼を見ていると、冒険者ギルドに見覚えのある二人組が入ってきた。
「ラダン先輩、とりあえずS級ダンジョンに潜る為のパーティーメンバーを探さないといけませんね
「ああ、できれば前衛が一人と回復役が一人欲しいな」
あの二人は確か、三年前の世界魔法学院大会で会ったラダンさんとイレーヌさんだ。
そうだ、二人はマドランガ共和国の代表だった。
二人はギルドカウンターに行ってダンジョンに潜る為のパーティーメンバー募集の依頼を出しているみたい。
二人の依頼を受付嬢がクエストボードに張り出す。
内容は、ワーシュルゼのS級ダンジョンに潜る為に前衛一人と回復魔法が使える人間を一人募集している。
ランクは実力があればどのランクでもいいと書いてある。
二人はSランク冒険者らしい。
手っ取り早くS級ダンジョンに潜る方法が見つかった。
二人のパーティーメンバーになればいいのだ。
「ゼロ、あの二人は知り合いなの。頼んでパーティーメンバーにしてもらいましょう」
「そうなのですか。ですが、今のステラ様を見てステラ様と信じてもらえるでしょうか?」
「う〜ん、信じてもらえない時はその時よ。とりあえず話してみる」
「わかりました。私はステラ様についていくだけです」
ゼロの了承を得たのでラダンさんとイレーヌさんに話しかけるとしよう。
「そこの二人、S級ダンジョンに一緒に潜るパーティーメンバーを探しているみたいだけど、私達なんてどう?」
「ん? 嬢ちゃん達の適職はなんだ?」
「私は回復魔法も使える魔術士で、私の連れは前衛で戦えるわ」
「へぇ〜。で? 冒険者ランクは?」
「冒険者ランクは冒険者カードを作ったばかりでまだEランクだけど、S級ダンジョンに潜れるだけの実力は持っているつもりよ」
「···Eランクか。確かに実力があればどのランクでもいいと依頼には書いたしな。···わかった。とりあえず今から草原に行って模擬戦を俺達としてもらう。俺達が認めるだけの実力を示してくれればパーティーメンバーにする。どうだ?」
「ええ、それでいいわ。ゼロもそれでいいわよね?」
「はい、構いません」
「よし、それなら早速草原に行くとしよう。嬢ちゃん達の名前は?」
「私はラティス。こっちはゼロよ」
「仮面の嬢ちゃんがラティスで、そっちの銀髪の姉ちゃんがゼロか。俺はラダン。こっちの魔術士はイレーヌだ。よろしくな」
「ええ、よろしくね」
私とゼロは、ラダンさん達についていき草原までやって来た。
周囲には人は居ない。ここでならラダンさん達に正体を明かしてもよさそうだ。
「じゃあ、実力を見せてもらうとするか」
ラダンさんとイレーヌさんが武器を構える。
「ちょっと待って。戦う前に話したい事があるの」
私は仮面を外し顔を二人に見せる。
「!? その顔は!!」
ラダンさんとイレーヌさんは私の顔を見て警戒態勢をとる。
あのアルジュナの映像を見たなら警戒するのもおかしくない。
「ラダンさん、イレーヌさん。警戒するのはわかるけど話を聴いてほしいの」
私は二人に頭を下げる。
「···話?」
ラダンさんは拳を私達に向けながらも話を聴いてくれるみたいだ。
「うん、三年前の世界魔法学院大会で会ったヨルバウム帝国のステラを覚えてる?」
「···ああ、覚えているが?」
「信じてもらえないかもしれないけど私がそのステラなの」
「···え? ステラはもう少し幼い筈よ。それにアルジュナと名乗った少女がステラに酷似していたわ」
イレーヌさんが訝しげに私を見つめる。
「うん、その事についても話すわ」
私は、これまであった事を二人に話した。
「···ユルゲイトって奴の策略で、古代人のアルジュナに身体を奪われた? そして気付けばユルゲイトが造ったアルジュナのクローンの身体に入っていた? なんだそりゃ? とてもじゃないが信じられない」
「でも世界魔法学院大会での話はステラ本人としか思えないですよラダン先輩」
「···う〜む、にわかには信じ難いがあのステラに似ていたアルジュナの話は、今お前が話した話と結びつく」
暫し思案したラダンさんは、私を真剣な表情で見つめる。
「···話は分かった。で? ダンジョンに行ってダンジョンコアとかいうのを集めてその後はどうするんだ?」
「ルートヴィヒに会いに行く!! きっと寂しがっていると思うから!!」
私はラダンさんの瞳を見つめながら本心を告げた。
「···そうか、わかった。お前は本当にルートヴィヒの妹のステラみたいだな。お前の話が本当なら世界の危機だ。放っておけねぇ。俺達も力を貸してやる。いいよなイレーヌ?」
「駄目って言ってもどうせ一人で力を貸すんでしょ。なら私も付き合います。ステラ、いえ今はラティスと言った方がいいのよね。私も力を貸すわ。あのアルジュナって人の姿を見てからラティスの事は心配していたの」
よかった。二人が私の話を信じてくれて安心した。
信じてもらえなくても不思議じゃない程の途方もない話をしたのだ。
「ありがとう、私の話を信じてくれて」
私は涙目になりながら頭を下げる。
「気にすんな。お前の目を見れば本当かどうかなんて分かる。俺はルートヴィヒの事を友だと思っているし、お前はイレーヌにとっての友だ。なら力を貸すのも当然だ」
ラダンさんはニカッと笑い、イレーヌさんも私を笑顔で見つめている。
私は涙を拭いながら、そんな二人に再度告げる。
「ありがとう」
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