第十四話 ルートヴィヒVSラダン
大会二日目が終わると、見覚えのある集団が声をかけてきた。
大会前日に食事処天の恵亭で会ったラダンさんとその仲間達だ。
「おう、ルートヴィヒ! お前ら凄いな。今の所全員がベスト八に入ってるじゃねぇか」
「ふふっ、僕の仲間達は凄いでしょ?」
僕は皆の頑張りが褒められて思わずドヤ顔をしてしまった。
「確かにスゲェけど明日は順当に行けば三回戦でお前と当たる事になる。その時のお前は泣く事になるだろうぜ」
「嬉しくてですか?」
「ははっ、言うじゃねぇか。まぁ、明日は楽しもうぜ!!」
「はい!」
明日の試合が楽しみだ。
――大会三日目。
Dブロック一回戦が始まる。
試合は問題なく進み、第七試合。僕の出番だ。
控室から舞台へと出る。
『さぁ、Dブロック一回戦第七試合は四人の選手がベスト八入りの注目の学院――ヨルバウム帝国シュライゼム魔法学院一年生ルートヴィヒ選手と、ガラルホルンオウデン魔法学院一年生サイツァー·エルメフィーノ選手の対決です。ルートヴィヒ選手は光迅流中伝の腕前で聖属性魔法の使い手みたいですね。対するサイツァー選手は魔法大国ガラルホルンでも魔法の名門として知られているエルメフィーノ家の嫡男みたいですね。その魔法の冴えが如何ほどなのか楽しみです』
僕と対面しているサイツァー選手は笑顔で近付き、手を差し出してくる。
「僕はサイツァー·エルメフィーノ。魔法大国ガラルホルンの名家エルメフィーノ家の次期当主。魔法の名門学院ガラルホルンオウデン魔法学院で一年生にして世界大会代表の座を勝ち取った若きエース。属性は火、水、風、土属性の四属性が使えるクワトロだ。このスーパーエリートである僕と戦うのは正直大変なプレッシャーだと思う。だがお互い正々堂々と全力を出し試合を楽しもうじゃないか!!」
へぇ、凄い人なんだなぁ。そんな人と戦えるのは光栄な事だ。差し伸べられた手をとり握手する。
お互いに所定の位置に立つ。
審判が試合開始の合図を出す。
僕は剣に聖属性中級魔法ホーリーブレードをエンチャントする。
「ほう? 聖属性中級魔法のエンチャントかい? 中々やるねぇ。でもこの僕はエルメフィーノ家の血筋だからぐぇぇっ!?」
話が長いのでとりあえず瞬歩して近付き、腹に一撃入れると吹っ飛んだ。えっ? 避けられるか防がれるかと思ったんだけど。
サイツァー選手はお腹をおさえてピクピクと痙攣している。
審判がサイツァー選手の戦闘不能を確認し、試合終了の合図が出された。
えっ?
『な、なんと〜!? 開幕速攻一発ノックアウトだぁ!! サイツァー選手の隙をついた見事な一撃でした』
えっ?
回復魔法をかけられたサイツァー選手は立ち上がり、僕に近づいて来て無理矢理握手をしてくる。
「見事な一撃だったよ。この僕の隙をつけるなんて君は中々見所がある。この僕を倒したんだから胸を張っていい」
手を放すと満足そうに舞台から去っていく。
えっ?
僕の一回戦は?マークが浮かんだまま終わった。
二回戦も勝ち上がり三回戦。
ラダンさんとの試合だ。
『三回戦第ニ試合はヨルバウム帝国シュライゼム魔法学院一年生ルートヴィヒ選手とマドランガ共和国魔法学院三年生ラダン選手の対決です。ルートヴィヒ選手は剣、ラダン選手は拳。近接戦闘の戦いになりそうです!』
篭手を両腕に着けたラダン選手と向かい合う。
言葉は昨日交わしたので充分だ。会話はせずに所定の位置に着く。
審判の始まりの合図で互いにエンチャントをかける。
僕は剣にホーリーブレードのエンチャントをかけ、ラダンさんは篭手にトルネードのエンチャントをかけた。
瞬歩でラダンさんの背後に回りこもうとしたけど、ラダンさんも瞬歩を使い僕の背後に回りこむ。
「くらえ、風乱打!!」
風を纏った拳の乱打が僕を襲う。
それを剣で受け流しながら詠唱する。
「光の精霊よ、聖なる精霊よ、我を守るための我を生み出せ!! セイクリッドミラージュ!!」
舞台に光の粒子が舞って、僕の分身が十体生まれる。
「何!? 増えただと!? くっ、これならどうだ!! 飛嵐掌!!」
風を纏った無数の掌底の拳圧で分身が消えていく。
だが、光の粒子が舞っている限り分身は増え続ける。
ラダンさんが分身に対応している内に背後に回り込む。
「光迅流三ノ型燐閃!!」
「螺旋掌!!」
剣撃と拳撃がぶつかり合う。
決まったと思ったのに防がれた。なんて反射神経だ。
決勝にとっておきたかったけど、そうも言ってられない。
拳撃を躱しながら僕は聖属性上級魔法の詠唱を始める。
「聖なる光よ、瞬く閃光よ、我が身に宿りて全てを穿け!! エンチャントセイクリッドレイ!!」
僕は剣と身体に聖属性上級魔法を付与した。
これはセシルの雷迅化を真似した代物だ。
言うなれば光迅化。僕は白いオーラを纏っている。
「ラダンさん、光の速さを手に入れた僕についてこれますか?」
光迅化の状態で瞬歩を使う。
ラダンさんは僕を見失ったみたいだ。
僕は瞬歩を連続して使用し、速度を更に上げる。
身体が軋むけど、お構いなしに速度を上げ続ける。
「光迅流ニノ型激迅、応用技激光迅!!」
身体の限界まで速度を上げて繰り出した一撃は、ラダンさんの鳩尾に見事入った。
ラダンさんは吹っ飛び、壁に激突した。
あまりの衝撃に壁に亀裂が入る。
常人離れした反射神経を持ったラダンさんでもこれは流石に防げなかったみたいだ。
だが、無理をして速度を上げたので身体がガタガタだ。
これ以上戦うのはきつい。
審判がラダンさんのもとに近付き、戦闘不能状態か確認する。
僕は勝利を確信していた。
だけど審判はまだ試合終了の合図を出さない。
そう、ラダンさんが立ったのだ。
信じられない。あの一撃は僕の全身全霊の力を込めた一撃だ。
なのにラダンさんは僕に向かって歩き出す。
よろめきながらも前進している。
僕の魔力はさっきの一撃でほとんど使ってしまった。
自身に回復魔法をかける余力はない。
軋む身体で僕も前へと進む。
手を伸ばせば届く距離まで近付き、同時に攻撃を放つ。
剣と拳が交差する。ラダンさんは僕の剣撃を躱したが、拳が僕に届く事はなかった。拳は僕の顔寸前で止まっている。
ラダンさんは立ったまま気絶していた。
審判がラダンさんの状態を確認し、今度こそ試合終了の合図が出た。
『試合終了〜!! 激しい拳と剣のぶつかり合いでしたが、勝ったのはルートヴィヒ選手!! いや〜、最後まで熱い戦いでした。ルートヴィヒ選手が見せた動きはまさに光迅でした。ですが、対するラダン選手の根性にも驚かされました。熱き戦いをした二人に大きな拍手を!!』
アナウンサーの声で大歓声が起きる。
審判に回復魔法をかけてもらい意識が戻ったラダンさんが近づいて来る。
「あ〜、負けた負けた。俺の完敗だ。あの光速の一撃、見事だったぜ」
「ですが、ラダンさんは立ち上がりました。もしもラダンさんの最後の一撃が入っていたら負けていたのは僕かもしれません」
「戦いにもしもはねぇ。勝ったのはお前だ。胸を張れ!!」
ラダンさんが僕の背中を叩く。
確かにそうだ。勝った気はしないけど、勝った僕が浮かない表情をしているのは失礼だ。
僕は笑顔でラダンさんと握手をした。
この後、大会で配られている魔力回復薬を飲んで試合に臨んだ。
ラダンさん程の強者はおらず、Dブロックを勝ち抜いて僕はDブロック代表の座を掴んだ。
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