第六話 院内大会③


 院内大会十三日目を終え、只今の戦績は私が二十六戦二十四勝二敗。


 ルートヴィヒが二十六戦二十六勝無敗。


 セシルが二十六戦二十二勝四敗。


 クルト皇子は二十六戦二十三勝三敗。


 ウリス生徒会長が二十六戦二十三勝三敗。


 そしてダークホース、ゼーレン公爵の嫡子フィリップ·ゼーレンが二十六戦二十三勝三敗。


 フィリップ·ゼーレンは三年Sクラスの生徒らしい。


 好成績を残しているフィリップだけど、私は印象に残っていない。


 戦ったルートヴィヒもフィリップの事は印象に残っていないらしい。


 だが、負けたセシルは膨大な魔力量とそれを利用した怒涛の攻撃は凄まじかったと語る。


 それにあのウリス生徒会長も負けているのだ。


 油断は出来ない相手だ。


 十四日目。


 私は苦もなく二試合とも勝った。


 ルートヴィヒもセシルもウリス生徒会長も二試合とも勝ったみたい。


 クルト皇子は第一試合は勝ったみたいだけど、第二試合がダークホースのフィリップと当たるみたい。


 クルト皇子の第二試合は私の試合と重なっていなかったので観覧する。


 「久しぶりですね、クルト皇子。まさかあなたと代表の座を争うとは」


 フィリップは敬語こそ使っているが、クルト皇子を嘲笑っているように見える。


 「久しぶりだな、フィリップ。お前が代表の座を争う程に魔法に秀でていたとは知らなかったぞ」


 「ふふっ、そうでしょうね。確かに前の俺は地味で目立たなくて魔法の才能もなかった。でも今は違う。卑しい平民の女から生まれた偽物皇子の貴方なんか一瞬で倒せる力を手に入れた」


 「···母を愚弄するとは覚悟が出来ているのだろうな?」


 「ふん、何の覚悟をするというのですか?」


 「俺に負ける覚悟だ!!」


 試合が始まった。


 クルト皇子は風属性上級魔法サイクロンの詠唱を開始する。


 フィリップはニタニタしたまま何も行動しない。


 クルト皇子の詠唱が完了する。


 「サイクロン!!」


 吹き荒れる暴風がフィリップに向かう。


 「サイクロン」


 だが、フィリップの短縮上級魔法サイクロンによって打ち消された。しかもフィリップのサイクロンはクルト皇子に迫っている。


 クルト皇子は左側へと横飛びしてギリギリ回避に成功する。


 「上手に避けましたね。ではこれはどうでしょう。ガイアランス」


 短縮土属性中級魔法ガイアランスを放つ。


 クルト皇子の足元が隆起し、岩の槍がクルト皇子を襲う。


 クルト皇子は回避するが、次々と地面が隆起し、クルト皇子を襲う。


 避け続けたが、ついに岩の槍がクルト皇子の左足を掠めた。


 「ぐわぁぁあっ!!」


 左足から血が滴り落ちる。


 「おやおや、もう追いかけっこはおしまいですか? つまらないですね。もう少し粘って下さいよ!! エアショット!!」


 フィリップが放った風属性初級魔法エアショットがクルト皇子の右肩を掠める。


 次々とエアショットを生み出しクルト皇子に放つが直撃はしない。


 いや、わざと掠るように撃っている。


 身体中に傷ができ満身創痍のクルト皇子。


 「負けられない。負けられないんだ。あいつに勝ったからには!!」


 エアショットを浴びながらも詠唱を始めるクルト皇子。


 「風と火の精霊よ、大いなる風と火の精霊よ、今こそ熱き暴風を解き放つ時!!吹き荒れろ!! そして全てを燃やし尽くせ!! フレアサイクロン!!」


 傷だらけになりながらも放った魔法は私が得意とする最大威力の上級複合魔法フレアサイクロン。


 「なっ!? くっ、ガイアウォール!!」


 フィリップは慌てて土属性防御魔法を展開するが、フレアサイクロンはガイアウォールを飲み込む。


 皆クルト皇子の勝利だと思ったが、フレアサイクロンがおさまると、ガイアウォールは健在だった。ガイアウォールが割れ中からフィリップが出てくる。


 「少し驚きましたが、汚らわしい血が入った偽物皇子じゃ所詮この程度ですね。まぁ、驚かせてくれたお礼をしてあげますよ。ガイアウェーブ!!」


 クルト皇子は全力を出し尽くしてもう動けない。フィリップは審判が止めようとしたのにおかまいなしに土属性上級魔法ガイアウェーブをクルト皇子に放つ。明らかに殺すつもりの攻撃だ。


 止めないと。でも今から魔法を放っても間に合わない。


 観覧者は皆悲惨な光景を想像し、目を背ける。


 だが一人だけ迅速に行動した男が居た。ルートヴィヒだ。


 土の奔流に飲み込まれようとしていたクルト皇子を間一髪の所で救出する。


 クルト皇子を抱きかかえながらフィリップを睨むルートヴィヒ。


 「今の攻撃は危なかったですよ。クルト皇子を殺すつもりですか?」


 「ふむ、優秀なクルト皇子なら避けられると思ったのですが。それよりも試合に乱入するとは。この場合試合はどうなるのですか? もちろん俺の勝ちですよね」


 審判は我に返り結果を叫ぶ。


 「し、勝者フィリップ·ゼーレン!!」


 結果に満足いったのかその場から去るフィリップ。


 ルートヴィヒは気を失っているクルト皇子に回復魔法をかける。


 ルートヴィヒのおかげでクルト皇子は助かったけどもう少しで死ぬところだった。


 フィリップ。あいつは許さない!!


 十四日目の結果は私が二十八戦二十六勝二敗。


 ルートヴィヒが二十八戦二十八勝無敗。


 セシルが二十八戦二十四勝四敗。


 クルト皇子が二十八戦二十四勝四敗。


 ウリス生徒会長が二十八戦二十五勝三敗。


 フィリップ·ゼーレンが二十八戦二十五勝三敗。


 私とルートヴィヒは残り一試合を戦わずして代表決定だ。


 でも明日の試合は絶対に勝つ!!



 大会終了まで残り一日。

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