夜空燦めくは天翔ける龍星・4


 馬はやはり平原、平地を駆けてこそ真価を発揮する生物らしい。

 少なくとも、俺の愛馬は岩や石ばかりの巨台地では非常に走りづらそうだった。おかげで何匹もの山羊や羊に絡まれるわ、芋砂機動砲台に狙われるわで散々な目に遭った。


 同行していたカモメにヘイトを押しつけたからなんとかなったものの、俺一人だったらトレインしていただろう。あいつはどうせ生き残るから問題なし。逃げ足が速くなきゃパパラッチなんてやってないからな。

 これが終わったら、明日は新しいライドアニマルを買いに行こうと心に決めた体験だった。


「で、戦況は?」

「危なかった時があったけど、君が来てなんとか立て直せた。ガオウがブレスを喰らってたら不味かったけど、助かったよ」

「お前が遅刻しなきゃこんな目に遭うことも無かったがな!」

「悪かったって……ほら来るぞ!」


 決意を胸にしまい込み、ファスターmark2を手にこちらに向かって次々と撃ち出される弾鱗をステップで避ける。

 避けながら思ったが、これ初見で避けるの無理だな。

 ノーモーションで放たれる弾鱗を見て、そう判断する。


 俺は動画で何度も見たのと、弾鱗がこちらを向いているのが見てわかるから普通に回避できているが、そのことを知らないと予測ができない。

 なにより松ぼっくりが弾丸飛ばしてくるなんて思えねぇよ、そりゃ蛮死威怒バンディッドのメンバーもやられるわけだ。


 だが、何十もの機関銃が待ち構えてる城壁に突貫するよりは遙かに簡単イージーだ。別のゲームで体験したことがあったが、あれより強力な弾幕を経験したことはない。

 前方にそびえる巨大な壁から、視界のすべてを埋め尽くすほどの弾が飛んできた光景は今でも忘れられないな……それに比べたら、弾鱗なんて指切りセミオートレベルの連射みたいなもんだ。

 そしてなにより、弾速も足りない。


「よっと」

「うっわ、弾鱗を弾丸で撃ち落としたよ。なんでそんなことができるんだか……」

「飛んでくる場所と速度がわかってりゃ簡単さ」


 ぴったりの場所に合わせる技量とタイミングの問題で、音ゲーみたいなもんだ。見てから照準合わせられるなら寝起きでもできる。

 そうして敵の攻撃をやり過ごしてから、単発モードのファスターを三点バーストモードに切り替える。


「《貫通付与エンチャントベネトレイト》、《ハードショット》、《クリティカルライズ》」


 一発一発の弾丸に、別種の攻撃スキルを乗せて撃つ。

 アストライアの防御力を突破して万里の長城のような長いHPを確実に削るためには、一発の弾丸にすべてを込めるよりも、すべての弾丸を強化する方がいい。

 ファスターの弾丸は胴体を貫き、ガオウへの攻撃を逸らし、頭部を撃ち抜く――が、大したダメージになった気がしない。


「やっぱ硬ぇな……」


 クリティカル攻撃をたたき込んでいるが、そもそもが物足りない銃の火力では手応えが薄い。

 俺が参加したことで変わったことはカカシが一つ増えたことと、こういったサポートによって安定性が増しただけだ。

 三人だったときよりも、ソーナとガオウが安定して攻撃できているが、それだけ。俺には回避盾ができるようなスピードも、アストライアを怯ませるほどの攻撃力も無い。


「それは、私たち前衛の仕事だよ!」

「後ろからダメージ出されちゃたまらねぇってんだ!」


 無力感に苛まれかけたのを呼び戻すように、アストライアに密着して殴り合いを繰り広げるガオウと、飛ぶように空を駆け斬つけるソーナが叫ぶ。


「ガオウ、一瞬気を引いて! 《千々剣舞サウザンドラッシュ》!」

「へいへいわかったよ……!」


 これまでまともにコンボを繋げられずに、効果が発揮し切れていなかった《千々剣舞》を発動、ソーナは地面を踏み砕く勢いで突撃する。


「ユーガ、危なくなったら助けてね! 《アグレッシブビート》!」


 瞬間、彼女の身体からダメージエフェクトが飛び散り、同時に赤いオーラが心臓から溢れ出る。


「あれが例の隠し球か……」


 ここに来る前にソーナに教えられた、新しいスキル《アグレッシブビート》。

 自傷と引き換えに、STRとAGIに上昇補正がかかるというものだ。

 LFOではスキルにデメリットを持たせ、オリジナルスキルを作る際に必要なSPスキルポイントを安くするテクニックがある。

 現に俺がその方法で強力なスキルを数多く保有している。


「ただソーナの場合、それがHP減少自傷だとは思わなかったけど……」


 ソーナの防御力は本当に紙だ。始めたばかりの初心者ニュービーに毛が生えた程度しかない。

 アクセサリーやアイテムなどで食いしばりなどの延命方法は用意しているが、それを加味してもソーナは脆い。

 この辺りの敵の攻撃なら、掠っただけでも食いしばりが発動するし、なんなら彼女の圧倒的なスピードで動いているときに足を滑らせただけでも地面に激突して死にかねない。


 それが、ソーナが今まで自傷タイプのスキルを作らなかった理由だ。常に背水の陣を張っているというのに、この上さらに自分の首を絞めることになる。

 だというのに、今回そんなスキルを作った。つまり、デメリットを超えるメリットがあるということだ。


「ノっていこうか!」


 踏み出した足は彼女をさらに加速させ、目に見えてその速度が上がったことを実感させた。

 十メートルの距離をたった三歩で詰めて、ムーンサルトのように宙返りしながら斬り上げる。

 凶器的な笑顔を浮かべるソーナは、天地逆転した体勢でなにもない空中を下に向かって跳躍。

 アストライアの翼による攻撃を掻い潜って、すれ違いざまに斬撃を数回浴びせかけてから地を蹴って離脱した。


「っと、やらせるかっての」


 離脱するソーナに追撃を加えようとしたアストライアを、顔面に攻撃して食い止める。

 これでひとまず安心……なわけがなかった。

 ソーナが攻めると言ったんだ。これで済むはずがない。


「まだまだ!」


 アストライアから離れた彼女は、左手の剣を放り投げる。空いた手に幻刃の首飾りトゥワイス=セリーテの短剣を出現させた。

 それを乱雑にアストライアに向かって投げつける。攻撃力の低い短剣の投擲くらいでは、アストライアにまともなダメージは与えられないが、どうやら彼女の思惑は違うらしい。


「なるほど、《千々剣舞》のコンボ継続か」


 彼女のメイン強化スキル《千々剣舞》のコンボはだいたい三秒以内。それまでに攻撃を当てなければすぐに強化が切れる。

 ソーナは距離をとりながら短剣を投擲することで、そのコンボを無理矢理繋げているのだ。

 この方法なら、継続的にコンボを繋げ、STRを増大させることができる!


「《ジェットスタッブ》!」


 突進力に優れるスキルで急接近し、激突。

 そのまま空中を走りながら、アストライアの全身を斬り抜ける。


「はっはは、俺の彼女はとんでもないな……」


 足場になっているアストライアが身を震わせても、ソーナは即座に身を翻し体勢を整え斬りつける。

 離れれば短剣を投擲、近づけば滅多斬り。速すぎて俺でも手の出しようが無いほどだ。


 クールタイムが終わり次第、次々と《アグレッシブビート》を発動している。短時間の強化を延々と繋げ、ソーナのステータスは常にバフがかかっている状態になっているだろう。

 アストライアに《鑑定》をかけてHPを見てみれば、ゆっくりとだが確実に削れているのが見て取れた。


「フィールドボスとタイマン張るとか……バケモンだな」


 ガオウがそんなことを呟くが……うん、こればっかりは擁護のしようがない。

 ソーナは、正真正銘の規格外だ。

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