隆起再興


 遺跡都市へクセンシルムはその名の通り古代、つまり俺たち眠りし人プレイヤーが生きていたと言われている神代かみよの時代が色濃く残る街である。

 というよりも、まだ生き残っていた神代の時代の施設をそのまま街にしたようだ。


 暗いはずの空間は街中に走るラインから発せられる光によって青く照らされており、天井は人工的な無機質さが見える。

 歩いてきた道も、出口の近くの壁は完全に人工物になっていた。壁にできた穴が入り口になっているようだ。

 街のどこにも現代人NPCが手を加えた様子は無い。最初から設計され、製造された秩序だった街並みだ。

 機械だらけのファンタジ―があるとは思いもよらなかったな。



 そしてここには、なんと外で戦ったドールマンなどのゴーレムらしきものや武器などの製造ラインが発見されている。

 つまるところ、神代の時代の生産工場だったというわけだ。

 もともと地下にあったこの工場は現代人によって発掘され、今は地下都市として活用されているらしい。


 NPCは古代遺物アーティファクトをポータルやモンスターを寄せ付けない『ベースポイント』くらいしか扱えないため、兵器やゴーレムの製造は行われていないが。

 だがその製造ラインも全ては把握し切れていない。

 勝手に起動している製造ラインがどこかにあり、それが外にいるドールマンやライフルハーゲンを作り出しているんだろう。


 そんな地下工場がこんな台地の中にあるのは、崩壊具合や立地条件などから地殻変動によるものだと考察されている。

 ちょうど生産工場があった土地が地殻変動によって隆起し、その地下にあった工場が土地を押し上げて台地となり、その中に工場は収まった。


 隆起したのに埋まっている。没しているのに興っている。それがこの街ルクセンブルクでありエリア『隆没の巨台地』だったのだ。




「うーわぁ……凄いねえ、ここ」

「まさに近未来の地下都市、って感じだなァ……」

「あーでもお店は少なさそう……まだマップって公開されてないよね? もう街行きたいんだけど!」

「そうだよな行きたいよな探索よし行くか! こんな街なら絶対新しい銃とか売ってるだろ!」

「お前ら落ち着け、ポータル登録してからにしろよ」


 へクセンシルムに入った俺たちは、街の中心を目指して進んでいた。各街に設置されているファストトラベル施設、転移ポータルに登録をするためだ。

 ファストトラベルはいつでもどこでも出来るわけじゃない。自分の生体情報を登録したポータル間でのみ転移ができる。


 登録をしないまま何かの拍子にうっかり死に戻ったりなんかすれば、もう一度エリアを踏破しエリアボスを倒さなければならなくなるから悲惨だ。

 ちなみにマイハウスにも金を積めばこのポータルは設置できる。バカみたいな金が掛かるし、登録できる人数にも上限があるけどな。

 俺たち? 二人だから三百万くらい積んだ。速やかな帰宅イチャラブのためにな……


 だからこそ、新しい街に着いたらまずはポータル登録、というのがLFOプレイヤーの鉄則になっているわけだ。

 でも……でもなぁ! ここの武器屋って絶対銃あるだろ! ここで出土したやつか生産されたやつが売り出されているに違いない!


 ああ、ポータル登録なんかより先に銃を見に行きたい。ソーナも見に行きたがってるし、着いて早々ショッピングデートなんてのも悪くない。

 街から出なきゃ良いんだ。街の中で死ぬなんてそうそうあることじゃない。どうせマイハウスに帰るときにはポータルに行かなきゃいけないんだ。そのときに登録すればいい。


「突発クエストなんかに巻き込まれることもあるんだぞー。お前らエストールで経験あるだろうが」

「あのとき迎えに行ったのは僕たちなんだからね。今回は、大人しくポータルを登録して貰うよ」


 くっ、そんなこと……あったな。エストールに入ってすぐ、リビア関連のクエストのフラグを立ててそのまま行ったことがある。

 クエストはクリア条件は満たしたんだが、帰り道で死に戻りかけた。俺たちじゃキツいフィールドだったからガオウとセイリに迎えに来てもらったんだよな……。


「いやでも突発的なクエストなんてそうそうあるわけが……」

「ないとも言い切れないでしょ、経験者くん? 大人しくしなければ、このまま僕が抱きつくよ?」

「えっ、駄目だよセイリ! ユーガは私のー!」


 俺の首根っこを掴んだセイリがそんなことを言い、それを聞いたソーナが飛びついて抗議する。

 なんて恐ろしいことを言いやがるんだ、そんなことしたらソーナに蹴り飛ばされるに決まってるじゃないか。

 俺とソーナを同時に縛るおどし……セイリ、やはりコイツ策士……ッ!

 

「首根っこ掴まれて借りてきた猫だなぁ、ああ?」


 うるせえ仕方ないだろうが。

 笑ってるガオウに腹が立ったからもうこの状況使って煽ってやろうか。


「美少女二人に掴まれてるぞ羨ましかろう」

「中身ヤベェから別に」


 また人の彼女を……いや、ヤバいって感じるときもあるから否定できないな……。紫髪のピンク脳の方は黙っておこう、それが華だ。

 ソーナに蹴られたくないから、このまま大人しくしておくか。新しい銃との出会いは我慢しておこう。



*****



「うっし、これで登録完了」

「今回は何事も無く登録できて良かったな」

「さすがに毎回クエストが出るわけないよ……あはは」


 あれからまっすぐ登録に来たわけだが、無事に生体情報の登録が完了した。これで晴れていつでもここに来られるようになった。


「さ、どうする? 俺は銃を探しに行きたいんだが……」

「私はユーガに付き合うよ! ついでにウィンドウショッピングしてもいいよね!?」

「もちろん。俺はソーナと一緒に動くけどお前らは?」

「俺は銃はいらないからな。別行動だろ」

「右に同じだね」


 まあ、そうなるだろうなとは思ったさ。

 じゃあソーナと街の探索デートでも行くとするか。


「じゃあ今日のログアウト前にちょっと集まって情報共有でも――ってうぉっ!?」


 探索後の話しようとしたときだった。


「あーッ、ちくしょう!!!」


 目の前にいきなり、傭兵崩れのような格好をした男が現れたのは。

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