後世に残すべき物語
週二回の男女合同授業は、思ったよりスムーズに進められた。
指導役のドリーの采配がうまいのか、王子が率先して周りに協力したおかげなのか、大きなもめごともなく全員の役割分担が決まり、それぞれが与えられた仕事に集中している。
「よっ……と!」
道具係や衣装係が今年の舞台演出について相談する一方で、出演者たちは基本の動きを確認していた。そのなかのひとり、ヴァンは刀身一メートルほどの両手剣を振り回す。彼の役を象徴する武器、クレイモアだ。
「だあ~っ、重てぇ!」
一通り型をなぞったあと、ヴァンは剣を床に置いて座り込んだ。その額にはびっしりと汗が浮いている。
「刃引きずみとはいえ、マジものの武器を使って演舞をやれとか、演出したやつ頭おかしいんじゃねえの?」
「う~ん、それが伝統だからねえ」
ヴァンをなだめるケヴィンの手にも、トゲトゲの鉄球がついた大振りのメイス、モーニングスターが握られている。こちらもトゲの針先は丸くなっているものの、鉄球は本物だ。本気で当てたら人間の骨くらい軽く砕けるだろう。
「白銀の鎧を身に着けた七勇士がそれぞれ戦うソロ演舞は、みどころのひとつになっちゃってるし」
「演舞が見たいだけなら、ますます模造剣でいいじゃねえか」
はあ、と息をつく彼に白い手が差し出される。婚約者のクリスだ。
「クレイモアの扱いには、コツがいるからな。ちょっと貸してくれ」
「え」
「肩に力を入れずに、遠心力を利用して……こう!」
彼女は、重いクレイモアをまるで羽のように軽々と扱ってみせた。美しく完璧に、クレイモアのソロを舞ってみせる。さすが生まれも育ちもクレイモアのお姫様。家を象徴する武器の扱いが板についている。
教室のあちこちから感嘆のため息が漏れる中、ヴァンだけが頭を抱えた。
「勘弁してくれ……」
「婚約者のクリスができて、自分ができないなんて言えないね」
「全くもってその通りだよ! ったく、『祈る』が見せ場の聖女様は楽でいいよな」
ヴァンが私を睨む。
「誰も非力な女の子にバトル要素なんか求めてないもの。それに、私だってさぼってるわけじゃないわ。ちゃんと聖女のベールを作ってるわよ」
ねえ、と隣で一緒に作業をしているセシリアに声をかける。彼女はベールに使うレースを編みながら苦笑した。裏方希望の彼女は、手先の器用さを生かした衣装係だ。
ちなみにライラは小道具係のまとめ役だ。一度逆境を乗り越えた彼女は、いろいろ吹っ切れたのか元気にそれぞれの担当者の間を飛び回っている。さすが大商会の娘、人の間を取り持つのがうまい。
「今の王国騎士団の制式武器は片手剣だろ。なんでわざわざクレイモアを振り回す必要があるんだ……」
納得がいかないのか、次期クレイモア伯は己の家名を表す武器に悪態をつく。
「戦場では弓だってナイフだって使うんだから、ひとつくらい余計に習ってもいいじゃない。うちの父様だって、愛刀は片手剣だけどハルバードも使うわよ」
「最強騎士と一緒にするなよ」
学年演劇で末裔が勇士を演じるのは国全体の慣習だ。だから槍が得意なフランもナイフ術だけは訓練しているし、魔法戦闘が基本の兄様もハルバードを使う。ダリオだって何が得意かは知らないがカトラスの訓練だけは絶対しているはずだ。
それに、この学園演劇はそう馬鹿にしたものではない。
数年後にはみんなそれぞれの武器を持って厄災と戦うハメになるからね!
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