クレイモア式令嬢育成法

「へえ……なかなかいいじゃない」


 着替えて戻ってくると、すでにパジャマパーティーの準備は整っていた。

 テーブルは端に寄せられ、絨毯の上に広げた敷物の上には今日の夕食がつまみやすい形で並んでいる。ふと見ると、いつのまに着替えたのかフィーアもゆったりとしたデザインの部屋着だった。


「ふふ、ミセス・メイプルが見たらびっくりするわね」


 すでに胡坐でくつろいでいるクリスの正面に座る。あとからやってきたライラも覚悟を決めたのか、絨毯の上に座り込んだ。


「ちょっとドキドキしますね……」


 セシリアがおっかなびっくり敷物の端に座る。さらにその端に……と移動しようとしたフィーアを掴まえる。


「今日は無礼講って言ったでしょ。フィーアも近くに座ってよ」

「もう……しょうがないですね」

「よし、みんな座ったところで乾杯するか」


 ニコニコ顔でクリスがそう宣言する。


「乾杯っていっても、お茶しかないけど?」

「酒ならあるぞ」


 クリスは平然と何かを私たちの前に置いた。一抱えほどある木製のオブジェ。それはミニサイズだったけど、明らかな酒樽だった。


「えええええええ? クリス、どうやってそんなものを持ち込んだの!」


 ここは超名門お嬢様だけが通う王立学園女子寮である。当然、酒の持ち込みはご法度だ。


「引っ越しの荷物に入れてきたけど?」

「いやそれ止められるでしょ!」

「うん? 何も言われなかったぞ?」

「……特別室組は、荷物チェックはありませんから」


 フィーアが静かに説明を加える。

 確かに私も自室に魔法薬を持ち込んでるけどね?


「だからって、酒を樽ごと持ってくるとか……クレイモア家は誰も何も言わなかったの?」

「これはおじい様からのプレゼントだ。友達ができたら一緒に飲めと」


 おじぃちゃあああぁぁん……!

 孫娘に何を持たせてるんですかあああああああ!


「ヴァンは何て……」

「私が荷物にコレを入れてたら、『こっちもオススメだ』って、もう一つ樽を……」


 婚約者あああああぁぁぁぁ……!


「ふたりして未成年の女子に何やってんの」

「確かに完全な大人じゃないが、もう夜会には呼ばれる歳だろ。そろそろ酒の飲み方を覚えておいたほうが安全だ、って言ってたぞ」

「それはまあ……そうなんだけど」


 下手にパーティーで酔っ払って恥をかく前に、自分の許容量は知っておいたほうがいいかもしれないけどさ。


「はあ……もうバカバカしい」


 ライラがため息をついた。

 だよね、なんかおかしいよね。

 同意を求めようとする私の目の前で、ライラはカップをクリスに差し出した。


「一杯ちょうだい」

「まかせろ!」

「ライラぁ!?」

「身分だなんだと人がいろいろ考えてるのに、お姫様がこれで、侯爵令嬢がアレなんだもの。気を遣ったこっちがバカみたいじゃない。無礼講だっていうなら、好きにさせてもらうわ」

「おぉ……」


 開き直ったライラは頬を膨らませながら、クリスから酒の入ったカップを受け取る。


「皆様、ご安心ください。東の賢者より万が一のための二日酔い解消薬を預かっています。明日の授業に支障は出ないかと」

「安心すべきところは、そこなのかな……」

「じゃあリリィは飲まない?」

「飲むわよ!」


 私だってストレス発散したいもん!


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