迷路化してる学園とかロマンだよね

 入寮早々呼び出しを受けた私は、ジェイドとフィーアを連れて魔法科の研究棟へと向かった。


 召喚状を発行したのは魔法科の学長だけど、向かう先は研究室のひとつ。教師の誰かが学長に依頼して召喚状を発行してもらったっぽい。


 用件は何だろう?

 心当たりがない……というより、ありすぎてわからない。


 対外的には「東の賢者の愛弟子」で「雷魔法を操る鬼才」だからねえ。私自身はちょっとだけ理科知識のある凡人なんだけど。


「学校って、ずいぶん複雑なつくりをしているんですね」


 建物の位置関係を確認しながら歩いていたフィーアが言う。一緒に歩いているジェイドも苦笑した。


「似たような建物が多いから、気を付けていないと迷っちゃいそうだ」

「学園全体が複雑なつくりなのは、しょうがないわ。なにせ、元城塞だから」


 私は女神の攻略本から入手した情報をふたりに語る。


「建国時に王都防衛のために作られたけど、新しい砦や街道ができたことで、戦略的な意味がなくなっちゃったの。でも建物自体は頑丈でしょ? もったいないから学校として再利用したんだって」


 いわゆるひとつのエコというやつである。

 何百人も人間を収容する施設を新しく建てるのって、恐ろしくコストがかかるからね!


「その上、学部や研究室が増えるたびに増築してきたから……」

「あー……なるほど、だから変なところに変な建物があるんだね。よくわかったよ」


 ジェイドが疲れたため息をつく。

 この世界にはまだ、「生活導線」なんて概念はない。せいぜい都市計画をする役人が人通りのことをちょっと考えるくらいだ。無計画に施設を増やした結果、学園は巨大な迷路と化している。

 その上、建国時に砦だった名残で、地下には王城への秘密の抜け道があったり、超古代の重要設備が眠ってたりするのは内緒だ。


 ゲーム時にはアイコンタップ一発で目的の施設に行けたけど、実際に暮らすとなると不便極まりないね! 何も考えずに脇道それたら、あっという間に迷子になる自信があるよ!


「複雑な建築構造に、死角の多い通路、その上用途不明の部屋多数……」


 フィーアが嫌そうな顔でつぶやく。護衛担当の彼女にとって、これほど面倒くさい状況はないだろう。複雑さでいけばハルバード城も似たようなものだけど、あっちは信頼できる騎士が何人も詰めてたからね。


「危険個所チェックはボクも協力するよ。全体的な構造把握には、魔力探知を使ったほうが効率がいいからね」

「……せいぜいアテにしておく」


 彼女が信頼できる数少ない同僚、ジェイドが励ましても彼女の表情は明るくならない。常に最悪の下を考えられるのが彼女の持ち味なんだけど、ずっとピリピリしてるのは見ていて心配だ。


「私もできるだけ、危険なマネはしないようにするわ。……って、ふたりとも、何変な顔してるのよ」

「お嬢様はそう言いながら、危険地帯に頭から突っ込んでくからなあ」

「まさかの信用度ゼロ?!」

「ご主人様への忠誠心と信用度は別ですから」


 どっちかひとりだけでもフォローしてよ!


「もう……さっさと研究室に行くわよ! 道はこっちでいいんだっけ?」

「その先の建物みたいだよ」


 他の建物に埋もれるようにして、一軒の小屋が建っていた。研究室の看板がついているけど、デザインは質素で極端に窓が少ない。元は倉庫として作られたものみたいだ。


「リリアーナ・ハルバードです。召喚を受けてまいりました」

「おう、よく来たな!」


 ドアを開けると、見慣れたちょい悪イケメンが私たちを出迎えた。



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