素敵なお手紙

 ハルバード侯爵邸づきのメイドは、青い顔で私に封筒を差し出した。


 私の名前が鮮やかに記されたその封筒には、ハーティア王家を示す紋章がデザインされていた。封蝋に押された紋章のモチーフは王冠と薔薇の花。

 現在ハーティアでこの封筒と封蝋を使用することが許されているのは、ただひとり。

 王妃カーミラ・ハーティアだ。


 やばい。

 なんで地獄の親玉みたいな王妃様から手紙なんか来るの。

 絶対、ろくな用件じゃないよね?


「うわぁ……開けたくない」


 母様と王妃の隠れた確執を知っているメイドもため息をついている。


「とはいえ、用件を確認しないことにはどうにもならないわね。父様と母様はどこ? せめて保護者と一緒に開けたいんだけど」


 私がそう言うと、メイドは更に顔色を悪くさせて俯く。

 そこで、私はやっとハルバード侯爵邸の様子がおかしいことに気が付いた。


 うちの両親は子供を溺愛している。

 昔は愛の名のもとに放任されてたけど、痩せて前向きになった今は違う。私たち兄妹に興味を持ち、積極的に関わってくれるようになった。

 そんなふたりが、久しぶりに王都に来た私を出迎えないって、おかしくない?

 最強騎士の父様あたりは、馬で王都の入り口まで来るぐらいのことはやりそうなのに。


「……もしかして、ふたりともいないの?」

「実は、昨日からご夫婦そろってランス領へ向かっています。詳しいことは聞かされておりませんが、緊急の任務だと……」


 マジかい。

 衝撃のあまり、口から変な声が出そうになった。


 王都に到着したばかりの令嬢ひとり。

 不在の両親。

 そこに舞い込んでくる王妃直々のお手紙。


 絶対わざとだろ!

 両親に相談させないよう、タイミング調整した上で手紙送り付けてきたよね?!


「ランス家は王妃に近い立場の家だからなあ……」


 ランス領での仕事自体、王妃様の仕込みの可能性がある。

 きっと見なかったふりをするのは無理だ。

 今開けて、今判断しないといけない用件が入っているに違いない。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


 ジェイドが心配そうに私を見る。

 支えてくれる仲間の顔を見て、私は息を吐きだした。


「平気よ。まずはこの手紙の内容を見てみましょう」


 メイドに渡されたペーパーナイフで封を切ると、美しく飾られた招待状が出て来た。

 貴族特有の美辞麗句で飾られた文面がずらずらと並んでいる。読みにくくてしょうがないけど、要約すると中身はこんな感じだ。


『明日の午後ガーデンティーパーティーをするから、ハルバード家の者だけで来てね♪』


「なん……だと……?」


 つまり何か?

 両親不在の状況で、ハルバード家の人材だけで準備して王妃のお茶会に行けと?!


 無茶言うなーーーーーー!!!!!!!



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