子供は留守番
「なんで闇オークションに参加したらダメなの!」
私はフランにくってかかった。フランは、上から冷ややかに私を見下ろしてくる。
おい、この構図はわざとだろ。
「子供だからだ」
「う」
ド正論が返ってきた。
「考えてもみろ、人身売買をおこなっている闇オークションに13歳の少女が参加証を持ってきたとして、中に入れてもらえると思うか?」
「で、でも! クリスティーヌはその作戦で中に入るつもりだったじゃない」
「あいつの計画が、そもそも雑だったんだ。もしシルヴァン暗殺に巻き込まれず、そのままオークション会場にたどり着けたとして、参加できた可能性は限りなく低い」
しかも、オークションに出されていた薬は偽物だったもんね……。
他に方法がなかったとはいえ、クリスティーヌの行動は無謀もいいところだ。
「お前に出番はない。おとなしく待ってろ」
「やだ! だいたい、フランはツヴァイの顔を知らないでしょ。どうやって本物かどうか区別するのよ」
「フィーアを連れていく」
「私より年下じゃん!」
「フィーアは猫になれるだろうが。黒い子猫程度、余裕のある服を着ていけば、中に入れられる。発見されたところで、使い魔だと言い訳すればさほど追及されない」
ぐぬぬ。
「ふ、フランだって、犯罪組織に顔が割れてるじゃない。一人で行ったら、バレるんじゃないの」
「俺が潜入していたのは、人身売買組織そのものじゃない。奴らに使われている非合法な傭兵ギルドだ。髪色や衣装を変えれば、ごまかせる」
「それはフランの予想じゃない。連れがいたほうが、より印象が変わると思うなー」
「どこかのお嬢様を連れてるほうが、悪目立ちするんじゃないか。現在、カトラスで闇オークションに参加するなんて暴挙に出るような13歳は、ハルバード家の我儘娘くらいしかいないだろう。お前はそこにいるだけで正体がばれるぞ」
「……私だって変装するもん」
「子供が?」
子供子供言うなあああああっ!
「そもそも、お前が闇オークションに参加する理由は何だ? ツヴァイの真贋だけなら、猫の姿のフィーアがいれば、事足りる。お前が絶対に行かなければならない理由が見当たらない」
「理由ならあるわよ。ツヴァイ以外にも、落札すべきモノがあるかもしれない」
私はオークションカタログを広げた。
「あのあと、改めてカタログをチェックしてみたのよ。そしたら、キーアイテムになってたものがいくつか見つかったの。ツヴァイはフィーアが見ればいいけど、こっちのアイテムは、私にしか真贋がわからないでしょ」
「……それはいくつある?」
「ええ……数? えーと5個くらい?」
私が怪しいアイテムを指すと、フランはうんうんと頷いた。
お? わかってくれた?
「わかった。俺が全部落札してくるから、留守番していろ」
「はあああああ? 全部? いくらすると思ってんの?!」
「お前がハルバードのお嬢様なら、俺はミセリコルデのご令息だ。その上、補佐官として2年働いたからな。金はそれなりに持ってる」
そりゃ持ってるだろうけど!
普段私の専売特許になってる、『スキル:お金持ち』を逆に使われると、めっちゃむかつくな!
「不測の商品が出たらどうするの」
「その時はその時だ。いいから、子供は家で待ってろ」
カチン。
ダメ押しの『子供』発言が私の感情を逆なでする。
「ヤダー!!!!!」
フランのいけずうううううううう!!!
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